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2023/6/4 20:30

最新、最軽量にして“最やんちゃ!?”なアディダス「ウルトラブースト ライト」、何がすごい?/大田原 透の「ランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす!「ランニングシューズ戦線異状なし」

2023「adidas」新緑の陣②「ウルトラブースト ライト」の巻(前編)

 

ドイツ・ヘルツォーゲンアウラッハで生まれた総合スポーツカンパニー、アディダス。そのアディダスには、陸上競技選手だった創業者アディ・ダスラーのモノ作りのDNAが脈々と受け継がれている。

 

前回、そのアディダスのモノ作りの歴史に刻まれた、日本のランナーのための、ジャパンメイドの「アディゼロ」シリーズの物語を中心に、アディダスが提案するランニングの未来に思いを馳せた。今回は、アディダス ランニングのもう一つの柱である「ウルトラブースト」シリーズから、最新にして最軽量という「ウルトラブースト ライト」へと話は移る。

↑「ウルトラブースト ライト(ULTRABOOST LIGHT)」2万5300円(税込)。サイズ展開:ユニセックス22.5~30㎝。カラー展開:ユニセックス8色。ドロップ(踵と前足部の高低差)は10㎜

 

「『ウルトラブースト』シリーズの特徴は、ミッドソールのブーストフォームの高いパフォーマンスによって、走るモチベーションが上がり、エネルギッシュに走れる点にあります。新登場となった『ウルトラブースト ライト』は、クッション性をより強く、反発性にも優れた、最軽量の『ライト ブースト』フォームを初めて搭載したシューズです」

 

と語るのは、アディダスジャパンのランニングカテゴリーの商品企画・山口智久さん。山口さんは、学生時代からインターンとしてアディダスジャパンで働いてきたという叩き上げ。まさに、“アディダス猛者”な存在である。

↑今回お話を伺った、アディダス ジャパンの山口智久さん(マーケティング事業本部)。東京・六本木一丁目のオフィスビルの同社会議室にて

 

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最大の課題は“機能を損なわず、軽量化する”こと

「27㎝片足で、293g。300gを切ることに成功しました。しかし、ブーストシリーズに求められる反発性とクッション性を損なうことなく軽量化することは、技術的に難しい挑戦でした」(山口さん)

 

確かに、ミッドソールの厚みを削れば軽量化はできる。しかし、軽量化のためにブーストシリーズ本来の機能を損なっては本末転倒なのだ。ライト ブーストの元となるブーストフォームの開発の目的は、それまで主流であったEVA素材に替わる新素材にあった。ブーストは、EVAよりもクッション性と反発性に優れ、かつ温度や路面コンディションなどの変化への耐久性に秀でたフォームを目指してきたのだ。

↑ブーストフォームを搭載し、2013年に発売された「エナジーブースト」。ブーストフォームをふんだんに使った、当時としては相当に“厚底”なシューズだった。the adidas Archive/studio waldeck

 

このブーストフォームを最初に搭載したモデルが、「エナジーブースト」。発売当初の2013年2月、筆者も仕事として履く機会を得ている。アップダウンのある10㎞のレースでも使用し、下りで着地衝撃を吸収しまくり、上りでの力強い推進力に驚かされた記憶がある。

 

エナジーブーストは、デザイン的な斬新さもあって、街履きから火が付き、爆発的なヒットを記録する。当時は、ミッドソールの素材名を商品名にするという発想もまだ珍しかった。ウルトラブーストは、陸上競技にDNAを持つアディダスの、イノベーションへの強い意気込みを感じるシリーズなのだ。

↑ウルトラブースト ライトの踵部。近づいてライト ブーストのフォームを観察すると、無数のつぶつぶの集合体であることが分かる

 

「ブーストフォームは、ドイツを拠点とする世界的化学メーカーであるBASF社とアディダスが協同で開発した、新たな時代のランニングシューズに適した素材です。足のダメージを軽減するクッション性と、力強く進みたいという反発性は、本来、相反する機能。しかしブーストは、相反する機能を高いレベルで両立し、どんなコンディションでもベストなパフォーマンスを感じてもらえる素材なのです」(山口さん)

 

ブーストフォームは、化学的には、気泡熱可塑性ポリウレタンと言われる。ポリウレタン樹脂を発泡させることで、微細な空気の気泡が超高密度で生じるため、超弾性、耐摩耗性に富むフォームになる。ライト ブーストは、従来のブーストの原料を変えず、発泡を調整することで、さらなる軽量化に成功。

 

「従来のブーストフォームから30%も軽くなりました。そのため、踵のブーストフォームは30㎜、爪先でも20㎜ありますが、重量は300gを切っています」(山口さん)

↑気持ちも和むカウンターも、アディダスジャパンのエントランスの一隅。神楽坂にあった旧オフィス(1998~2012年)も明るく開放的だったが、六本木一丁目の現オフィスは、オフィスビルの最上階を含む3フロアと広々

 

シャンクにして、板バネの役割を持つL.E.P.

これだけの厚みを持ちながら、ウルトラブースト ライトの走りは安定しているという。安定性に寄与するのは、「L.E.P.=リニア エナジー プッシュ」という機構だ。L.E.P.は、爪先から左右に分かれて中足部へ至る、アウトソールに埋め込まれた逆U字状の樹脂製のバーによって得られる。

 

「L.E.P.は、着地から蹴り出しにかけてのシューズのねじれを低減するシャンクの役割とともに、推進力に換える板バネ的な役割も担っています。さらに、高性能なクルマのタイヤで知られるコンチネンタル社と共同開発したラバーを採用しているので、どんな天候でも高いグリップ力を保ち、安定した走りを実現しています」(山口さん)

↑写真はウルトラブースト ライトのアウトソール。爪先(左)から、左右に分かれて踵へと伸びる朱赤のバーが、L.E.P.である

 

ライト ブーストによる軽量性にL.E.P.と組み合わせることで、沈んで跳ねる反発性は、安定したエネルギッシュさへと昇華するという。毎朝のジョギングや、週末のゆったりした気分での散歩ならぬ“散走”にピッタリなモデルが、ウルトラブースト ライトなのだ。

 

「エネルギーを感じ、フレッシュさも加味したデザインも、ウルトラブースト ライトの特徴です。もちろん、街履きにも馴染むオールブラックやオールホワイトのカラーもご用意しています」(山口さん)

↑靴裏の黒いラバーには、ヨーロッパを代表するタイヤメーカーであるコンチネンタルのロゴが

 

次回は、いよいよウルトラブースト ライトで実走!

初代のエナジーブーストも含め、ウルトラブーストのシリーズは、速度を追い求めるレーシングモデルの風貌とは一線を画している。人間に例えれば、賢いけど、クールなエリートではなく、フレンドリーでやんちゃな奴。走りそのものも、それを裏打ちしていそうだ。

 

ということで後編では、ウルトラブースト ライトを実際に、履いて、歩いて、3段階のスピード(運動不足解消/痩せラン/スカッと走)で走ってレビューをしたい。30%もの軽量化に成功したという、ライト ブーストフォームの実力やいかに⁉

 

撮影/中田 悟

 

 

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