多くのメーカーが参入している炊飯器市場。なかでもタイガー魔法瓶(以下、タイガー)の炊飯器は識者の間でも「別格」と語られることが少なくない。
個人的には、正直「5万円以上の炊飯器ならいまどきどの製品でももれなくおいしい」と思っている。加えて、食べ慣れた味や好みといった個人による感覚の違いや、米の種類や保存状態、水加減ひとつでもおいしさは左右される。そのため、一概に比較や評価をするのは難しい。
だが、それにもかかわらずタイガーの炊飯器は多くの消費者に「おいしい」と評価されている。
しかも、6月に発売されたフラッグシップの最新モデル「土鍋圧力IHジャー炊飯器〈炊きたて〉JRT-A100」は、公式オンラインストア価格(税込)148,500円。2025年11月に120台限定の完全受注生産で発売された“リミテッドモデル”は、最低価格170,000円という超高級品でありながら、すぐに完売した。
お値段もそれなりに“お高い”タイガーのフラッグシップモデルだが、なぜそれほどおいしいのか? 三重県四日市と大阪府門真市の本社工場の2つの製造現場を訪ねて、その秘密が解明した。

目次
土鍋をIH炊飯器に採用しているのはタイガーだけ!
2006年に土鍋炊飯器を発売。以降20年の進化の歴史と実績
タイガーの炊飯器で一番の特徴は“土鍋”の採用だ。IH炊飯器の内釜に“本物”の土鍋を使っているメーカーは、タイガー以外にはない。金属釜が当たり前の炊飯器の世界で、タイガーは土鍋の採用にこだわっている。
タイガーが土鍋炊飯器を初めて発売したのは2006年。当時は「炊飯器に土鍋!?」と業界を賑わしたものだが、その後20年の間にも毎年のように改良し続け、土鍋の素材から設計、焼成技術、IHとの相性、熱制御などの追及を重ねている。

味の土台をつくるのは内釜―土鍋のおいしさの原理とタイガーがこだわる理由
タイガーが土鍋を採用し続けている理由は、まずは素材そのものが持つ特性が“おいしいごはん”に直結すると考えているからだ。
というのも、土鍋の最大の特徴は蓄熱性の高さにある。金属釜は熱伝導が速く、加熱と冷却の変化が急激になりやすい。その一方で、土鍋は熱をゆっくりと吸収し、ゆっくりと放出するため、炊飯中の温度変化が非常に滑らかになる。
素材が持つ特性によって、吸水から沸騰、蒸らしまでの温度管理が自然に整い、米の芯まで熱を均一に伝えることができる。この温度の“ゆらぎ”こそが、かまど炊きの原理であり、粒が立ち、ふっくらとした弾力を持ちながらもべたつきのない理想的な炊き上がりにつながるのだ。
土鍋は急激な温度変化にも強く、IHの高火力をしっかりと受け止めることができるのももう1つの理由だ。高火力で一気に沸騰させて土鍋が熱を抱え込むことで、泡が安定して立ち上がり、対流が乱れにくい。そして、その泡が米を守る“クッション”のように働き、粒立ちを支えるのだ。
土鍋は遠赤外線の放射率が高い素材でもある。遠赤外線は食材の内部に直接作用し、米粒の中心部まで熱を届ける。これによりデンプンの糊化が均一に進み、米本来の甘みが引き出される。「冷めてもおいしい」とも評価の高いタイガーのごはんだが、遠赤外線効果によって味の深みが保たれているのだ。

土鍋を炊飯器に採用するのはなぜ難しいのか?
このように、おいしさのためには最高の素材である土鍋だが、炊飯器の内釜として使うには実は課題も多い。というのも、IHは金属にしか反応しないため、土鍋というのは本来、使用できない素材なのだ。
加えて、土鍋は金属に比べて壊れやすく、 焼成時にも割れたり、歪んだりしやすい。自然由来の素材ゆえに、土の状態や湿度、焼成のわずかな違いで重さや厚み、蓄熱性が微妙に変わってしまうほか、製造上の個体差が出やすいうえに、高温で焼く工程の途中で割れてしまうなど、製造効率に優れず、量産が難しい。
もちろん、毎日使う家電として落下や衝撃、洗浄、熱変化にも耐えられる、内釜としての耐久性も同時に満たす必要がある。
以上のような理由から、土鍋を炊飯器に採用するのは非常にハードルが高い。しかし、こうした課題を克服するために、土鍋をIHで利用可能にする独自技術開発を土鍋製造において優れた技術とノウハウを持つミヤオカンパニーリミテド(以下、ミヤオカンパニー)と協力。土鍋が持つ蓄熱性と、IHの精密な加熱制御、圧力炊飯による高温化を同時に成立することに成功した。

四日市・萬古焼の土鍋——工芸品レベルの素材づくり
複数の土をブレンドするなど、素材からこだわる
タイガーの土鍋が特別なのは、素材の特性や技術だけではない。土鍋そのものが、伝統工芸と現代技術の融合によって生み出されている点も大きい。
タイガーの炊飯器に使われる土鍋は、前述の三重県四日市市にあるミヤオカンパニーが製造を担当している。 同社は、耐熱陶器の産地として知られる四日市市の伝統工芸である「萬古焼」の伝統を受け継ぎながら、工業製品としての精度と再現性を追求している稀有なメーカーだ。

土鍋のさまざまな難点を乗り越えるため、ここで作られる土鍋は素材設計から焼成、仕上げに至るまで、緻密な工程と職人の判断が積み重なった工芸品レベルの工程が用意されている。
土鍋づくりは、原料となる土の設計からまず始まる。萬古焼の伝統を踏まえつつ、炊飯に最適な蓄熱性や耐久性、遠赤外線放射率を実現するため、複数の土をブレンドした独自の配合が用いられている。
土の粒度はミクロン単位、含水率は0.1%単位で管理され、季節や湿度によって配合が微調整されるとのこと。これは土鍋の性能を左右する非常に重要な工程だ。土の状態がわずかに変わるだけで炊き上がりの食感すら変わってしまうことから、常に土の性質を分析し、最適なブレンドを維持しているそうだ。


成形には熟練の技が求められ、乾燥には時間がかかる
成形工程は、機械と職人の技が共存するプロセスでもある。基本的な形状は機械で成形されるものの、土の締まり具合や空気の抜け方、表面の滑らかさといった繊細な部分は、職人が手で確かめながら整えられていく。
というのも、土の状態は日によって微妙に異なるため、機械だけでは判断できない。熟練のスタッフが土の触感やわずかな歪みを見極め、後の焼成工程で割れや歪みが生じないようにていねいに仕上げられる。




成形された土鍋はすぐに焼成されるのではなく、まずは乾燥工程に入る。内部に水分が残った状態で高温に入れると膨張によって割れてしまうため、極めて慎重に行われる。
自然乾燥と低温乾燥を段階的に繰り返し、温度と湿度を細かく管理しながら、数日かけてゆっくりと水分を抜いていく。乾燥速度が速すぎても遅すぎても不具合が出るそうだ。土鍋の強度と耐久性を左右する重要なプロセスで、特に時間を要する工程といえる。

厳密な温度管理の中で焼成される
乾燥を終えた土鍋は、萬古焼特有の高温焼成へと進められる。焼成温度は1000℃以上。蓄熱性や遠赤外線特性に直結するため、窯の温度管理は極めてシビアだという。土鍋は焼成によって高い耐熱性と強度が得られるため、炊飯器の内釜としての基礎性能が決まる重要な工程である。


一次焼成を終えた土鍋には、釉薬(ゆうやく)が塗布される。釉薬は外観上の美しさに加えて、耐久性や洗いやすさ、熱の伝わり方にも影響するため、タイガーの炊飯特性に合わせて配合が調整されているとのこと。釉薬で加工後、再び高温焼成で耐久性と美しさを兼ね備えた内釜となる。

IH加熱を可能にする非常に難しい工程とは?
前述のとおり、タイガーの土鍋の特異性は、IH加熱に対応している点にある。素材の性質上、本来は金属にしか反応せず、土鍋では加熱できないが、それを可能にしているのは高度な発熱体の貼り付け技術だ。
IHヒーターと接する土鍋の底部とその周りに銀などの金属素材を用いた発熱体の転写シートを貼り付けて一体化させることでIH加熱を可能にしているが、これは非常に難しい工程だそうだ。というのも、土と金属では膨張率が異なり、焼成時の温度差で剥離しやすい。そのため、シートの厚みや焼き付け温度、焼成時間を精密に管理しているという。



3度の焼成だけでも約1日半、全工程で約3か月を経て完成した土鍋は、素材設計から成形、乾燥、焼成、金属焼き付け、釉薬仕上げまで、すべての工程が緻密に管理され、随所に職人の判断と技術が息づいている。 たとえば、「今日は湿気が多いから、土の水分を少し抜こう」というような、職人の判断が毎日の工程に反映される。工場とはいえ、こうした人間によるアナログで感覚的な精度が最終的な炊き上がりにも影響する。実に繊細な作業をこなす製造現場なのだ。
家電で実現する匠の“火加減”。毎日同じおいしさを家庭で再現する―門真工場の厳格な品質チェック
本体側を製造する門真工場は人の手による工程も多い
土鍋の素材の力を最大限に生かすのは、本体側の火加減にある。タイガーの炊飯器は、本体に備える、高火力IHコイルで釜底を強力に加熱する仕組みだ。


炊飯器の本体は、大阪・門真市にあるタイガー魔法瓶本社に併設された自社工場で製造されている。少子高齢化による労働者人口の減少を見越し、ITやAIを活用した人の手によらない機械化を進めている家電の工場が近年増えているなか、タイガーの炊飯器の製造現場は、想像以上に人の手による工程が多い。


というのも、炊飯器の中身のパーツは非常に小さいものも多く、かつ繊細。たとえば、上位モデルのフタ部分にはヒーターやチューブ、ボタン周りの部品のほか、密閉構造や圧力を扱う仕組みなど、炊飯器の重要なユニットが組み込まれている。単なるフタではなく、内部はまさに精密機械で、組み立てや複雑な部品を取り付ける際には、多くの工程で人の手による作業が1つ1つ待ち受けている。




多くの検査工程を取り入れた厳しい品質チェック
さらに、ここでの作業は単なる家電の組み立てだけではない。印象的だったのは、徹底した品質へのこだわりだ。高温加熱や圧力などを複数組み合わせてお米をおいしく炊き上げる炊飯器には、当然だが、求められる精度や安全基準も相当高くなる。
組み立て工程の後には、徹底した検査工程もある。四日市で作られた萬古焼の土鍋も、内面コーティングや水位目盛り、印字などの工程を経て門真工場に運ばれ、まずは改めて“炊飯器の部品”として問題がないか検査を受ける。
炊飯器として成立するには、内釜とIHとの距離、圧力、熱の伝わり方などがそろってこそ。そのため、まずは土鍋が本体にちゃんと入るかがチェックされる。土鍋釜と本体の密着度が1%異なるだけでも熱の入り方が変わるため、接地面の誤差なども細かく測定され、傷や汚れがないかなど外観についても改めて確認される。
続いて実際に土鍋を本体に入れて、性能や安全性のチェックを受ける。熱を制御するために炊飯電力が規定どおりの数値になるかのチェックをはじめ、実際に中にお湯を入れて蒸気を出して圧力が正しくかかるかや、圧力がかかった状態でフタが開かないかなど、電化製品としての安全性が厳しく検査される。
もちろん、毎日使う家電だからこそ、操作部などの耐久性も重要な検査項目のひとつだ。ボタンが正しく反応するかや、センサーの耐久性はどうかなどを一台一台チェックされる。



AIによる自動化と人力のハイブリッドで製品を仕上げる
人の手による作業が多いとはいえ、工場生産においては量産性ももちろん求められる。精度に加えてスピード化や効率化も重要で、一部の検査工程では自動化も採り入れられている。
たとえば、部品を運ぶ際には機械を導入したり、文字やシールの識別にはカメラ認識によるチェックがあったり、距離や圧力といった数値化が可能な検査はシステムによる自動化が進められている。


とはいえ、門真工場においてもやはり最終的なチェックは人力。 AIや画像認識が進化しているとはいえ、人の経験により培った感覚によるものをすぐに置き換えることは難しい。組み込んだ際のわずかな浮きや向きの違いといった不良のほか、部品が収まった際の感触や音の違和感などを、現場で積み上げた人の感覚によって確認される。

「なるべくしてそうなった」―究極のおいしさを追求した必然の15万円
三重・四日市の土鍋工場、そして大阪・門真の本社工場を見学して強く実感したのは、タイガーの高級炊飯器は単なる“高級炊飯器”ではなく、「なるべくして高くなった家電」だということだ。
完成までに約3か月を要する、四日市で作られる萬古焼の土鍋は、単なる「内釜」ではなく、伝統工芸に他社が簡単には真似できない技術が投入された、家庭に迎え入れる“工芸品”に近い。
15万円という価格は、デザイン料やブランド料でも、マーケティング上の演出でもない。実際に製造現場を訪問して、素材の選択から技術の積み重ね、手間のかけ方に至るまで、“毎日同じおいしさを家庭で再現する”というメーカーの執念が、そのまま値札に反映されているのだと納得した。

関連リンク
タイガー魔法瓶
土鍋圧力IHジャー炊飯器「JRT-A100」
ミヤオカンパニーリミテド
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