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カメラ
2015/12/7 7:24

【考察】“高画質化”はクリエイターの創造性を刺激するのか? それとも縛る存在なのか?

パソコンやカメラのハイスペック環境をみると、業務用と民生用の垣根はなくなりつつある。たとえば、デジタル一眼レフ。Canonからは5000万画素の「EOS 5Ds R」が登場している。果たして個人に、その性能を使いこなすことができるのか? また、撮影したデータを処理をするにしても、それを処理できるパソコンとディスプレイ環境が必要になる。

 

映像にしてもそうだ。「4K」がワードになっているが、いざ4K動画を作成したいと考えた場合、やはり相応の周辺機器が必要になってしまう。プロユースに耐える製品は量販店で販売されているが、要求されるものが多い。それは、コンシューマーからするとストレスになっていないだろうか? 制作にトライしてみるにしても、視聴に留めるとしてもだ。

 

今回はそうした莫大な容量と処理から生まれてくる問題を、クリエイターどう捉えているのか? そして、それは彼らの想像力を刺激する存在なのか、妨げる存在なのかを取材した。 InterBEE 2015で対応してくれたのは、株式会社トリプル・オーの映像ディレクター・関 和亮氏、映像プロデューサー・富田兼次氏のふたり。関氏はPerfumeのアートワークやサカナクションのミュージックビデオ、さらにOK Go 「I Won’t Let You Down」でドローンを使った撮影を展開し、いま最も注目のクリエイターだ。また、水曜日のカンパネラのコムアイさんにも同席いただき、4Kミュージックビデオとして制作された「マッチ売りの少女」の制作を軸に、クリエイターの現場を伺うことにした。

 

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左からトリプル・オーの映像ディレクター・関 和亮氏、水曜日のカンパネラのコムアイさん、映像プロデューサー・富田兼次氏

「PC性能の要求は高くなりましたが、どこかがボトルネックになることはありませんでした。いままで通り、な感じですね」

 

純粋にスペックは足りているのかの質問に対して、関和亮氏はあっさりと答えてくれた。「マッチ売りの少女」は4K前提で制作されているが、これまでのフルHDベースの制作と変わりなく各種作業を行なえたという。作業環境は、BOXX。いわゆるワークスステーションで、サーバークラスのCPUであるインテルXeon搭載のPCだが、これも極端に高価なわけではない。制作時間は短くなるかと思いきや、性能が十分に足りていたため、際限なく作業してしまったそうだ。

 

それもあって、関 和亮氏としてはいままでにないことを、MV全体にわたって試してしまったという。なかでもスローモーションの部分では、120fpsで撮影したものを、さらにAdobe Premiere Proの機能であるオプティカルフローで最大600fpsにまで拡張しており、ひとつのPCとひとつのソフトで完結できたことは、関 和亮氏や富田兼次氏にとって驚きだったという。こういった話からすると、4Kはとくに強烈な負荷になっていないことがわかる。

 

では、4Kによって表現の幅が広がったのだろうか?

 

この点については、まだ模索している様子もあったが、解像感の向上はやはり映像を見せるうえでは重要に思うのだそうだ。また細かいところまでよく見えるようになったことで、細かい部分にも気を遣う必要があり、3名とも苦笑していた。たとえば、肌。地デジ化でもいわれたことだが、肌の質感がわかりすぎると感じたことはないだろうか? それが4Kではさらに加速される。また地デジではわかりにくかった産毛についても同様で、この点についてコムアイさんは「眉毛が実は繋がっていたとか(苦笑)。でも、わたしなら、産毛も見えててもいいかなーで通しますね。(肌が)ツルツルがいいとも思わないし」と笑顔だった。

 

富田兼次氏は続けて「没入感はやっぱり圧倒的にいいので、楽しむなら4Kがいいですね。4K前提で作っているので、クリエイターの意図もよくわかると思います」と、見る側にもやはり4Kをオススメしていた。

 

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踊っているシーンの場合、髪やスカートの動きだけでなく、生地の質感もフルHDとは段違いになる

 

 

「マッチ売りの少女」のMVについて伺ってみた。関 和亮氏がMVに入れたアイディアのひとつに、暴力っぽい描写を入れたことが大きいそうだ。なるべくオブラートに包んだ感じにして、露骨な暴力に見えないようにする点はとても苦労したという。また一本勝負でありつつ、ただ女の子が踊っているようにならないようにした点もよく見てほしいポイントになる。コムアイさんとしては「普通の女の子感がいい」という理由で気に入っているそうで、実際にMVを見てみると衣装にしても、ヘアスタイル、動きにしても普通な感じに着地している。そうでありつつ、キレイに見えるのは4Kの解像感の影響が大きいといえるだろう。ちなみに衣装やヘアスタイルについてはコムアイさんが、病棟にいるような女の子のイメージを重視している。白色の衣装に徐々に色がついていく過程も、4Kによって鮮明かつ美麗なので、痛々しくないのが不思議なところだ。

 

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ビンを投げるシーンでは、どう投げるかも緻密に決めたそうだ。投げたのは、関和亮氏(ピッチャーの経験アリ)だが、そのときはちゃんと重心を後ろにして、嘘くさくならないようほどよいパワーで投げていたそうだ
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倒れ込むシーンや先のビンを投げるシーンでは、オプティカルフローでハイフレームレートにしている。ソフトウェアの技術による表現もチェックポイントになる

 

雑誌「Switch」のインタビューでコムアイさんは「CDという石油製品に音質を悪くしてまで音楽を焼き付けることに疑問を持っています」と答えている。そこでテクノロジーの進化により、表現方法について聴いてみたところ「どこにいてもライブ感覚を味わえることをしたい。匂いも空気の振動も自宅だけじゃなくて、歩道の真ん中でも伝えられそうになってきているじゃないですか」と答えてくれた。

 

PlayStation VRやオキュラスといったヘッドマウントディスプレイが話題を集めているし、匂いについてはすでに簡素ながら再現する製品も発売されたこともある。あらゆるフィードバックを生み出せるのであれば、コムアイさんの言う通り、場所を問わず、ライブを体感できるわけだ。4Kによって視覚情報が増えたことでの没入感からもわかるように、アナログとデジタルの差は、極端にいえば情報量の差になる。その差を埋めていくのが、ハードでありソフトのテクノロジーだ。もちろん、そういった世界はまだ先になるが、コムアイさんは「量販店さんのテレビをジャックしたいですね。USBストレージにファイルを入れて、ファンのみんなに再生してもらうとか? 見て試したいんだけどっていって。楽しそうじゃないですか! そうしたら4Kのテレビの良さもわかるんじゃないかな?」とも語ってくれた。

 

また、関和亮氏は「見る時間や場所によって変化するMVを作ってみたいですね。MVがひとつってのも面白くない。見る場所じゃないところで見るMVも楽しいかも」と、近い未来に実現できそうなアイディアを出した。テクノロジーによって、いままでにできないことが実現可能になる。要求される環境は高くなる一方だが、クリエイター側では技術的にも演出的にも幅が広がっている。それを楽しみたいのであれば、それに見合った環境を用意することで、一層、エンタメライフは上質なものになるだろう。

 

 

文・写真/林佑樹

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