ソニーから初の完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000X」が発売されます。ソニーというブランドの重みを背負い、なおかつ昨年秋に発売された人気のノイズキャンセリング機能搭載Bluetoothヘッドホン「MDR-1000X」シリーズの系譜を継ぐプレミアムモデルとして登場する本機がファンの期待に応えてくれるモデルなのか? 実機を借りて細かくレビューしてみたいと思います。
WF-1000Xの発売と同時に、オーバーヘッドタイプのヘッドホン「WH-1000XM2」、ネックバントタイプのイヤホン「WI-1000X」も発売されます。3つのモデルが揃う第2世代の1000Xシリーズには、ともに高級感のあるブラックとシャンパンゴールドの2色が揃います。
完全ワイヤレスイヤホン、WF-1000Xの価格はオープンですが、ソニーの直販サイトでは2万4880円(税別)で発売されます。ライバルであるアップルの「AirPods」が1万6800円(税別)、ボーズの「SondSport Free」が2万7000円(税別)なので、完全ワイヤレスイヤホンとしては高級モデルに分類できるのではないでしょうか。
イヤホンは標準サイズ。ケースはやや大きめ
イヤホン本体は完全ワイヤレスイヤホンとしては標準的なサイズ感です。ノズルが少し長めに設計されているシリコンイヤーピースや、フィット感の高いトリプルコンフォートイヤーピースを装着すると耳の奥にしっかりと固定されます。耳穴の後ろ側にフィットする着脱式のシリコン製イヤーフィンの効果もあいまって、安定した装着感が得られます。
本体を操作するボタンは左右本体の下側に搭載されています。左側が電源のON/OFFとペアリング、ノイズキャンセリングモードの切り替え用で、右側のボタンで楽曲送りとハンズフリー通話を操作します。ハウジングの上下を指で挟み込むようにしてボタンを押しこむとぐらつかずに操作ができました。
バッテリーはイヤホン単体で連続音楽再生が約3時間まで可能。さらにケースで2回分の充電ができます。計9時間前後の連続音楽再生に対応しているのでスタミナ性能は十分と言えそうです。ただバッテリーの容量を確保するためか、ケースのサイズが少し大きめなのが気になります。
当たり前のことですが、完全ワイヤレスイヤホンはケースと一体になってひとつの製品です。持ち運びやすさに加えて、イヤホンの出し入れのしやすさなど購入時にはトータルで評価することをおすすめします。イヤホンがコンパクトでも、ケースが持ち運びづらいとポケットの中ではなく、バッグの中にしまうことが多くなります。そうなると、イヤホンだけジャケットのポケットに入れたままケースに入れ忘れてしまい、ジャケットを脱いだときに落としてなくしたり、誤って洗濯してしまうという悲劇も起こりかねません。イヤホンを使い終わったら毎度ケースにしまう習慣も忘れず身につけたいものです。
完全ワイヤレスなのにノイズキャンセル機能搭載
WF-1000Xには、ほかの完全ワイヤレスにない独自の機能がふたつあります。ひとつは1000Xシリーズの特徴でもあるソニー独自の音質にこだわったデジタルノイズキャンセリング機能です。
本体の表側に搭載されているマイクで外の音を拾って不要なノイズだけを消音、または必要な外音を取り込んで音楽と一緒に聞こえるようにする「外音コントロール」機能が本機ならではの特徴です。
さらに第2世代の1000Xシリーズからは、専用のiOS/Android対応スマホアプリ「Sony Headphones Connect」を使って、ノイズキャンセリング機能のモード選択や、ユーザーのリスニング環境とアクティビティに応じて外音取り込みやNCレベルを自動で調節してくれる「アダプティブサウンドコントロール」が使えるようになりました。アプリの機能を少し掘り下げてみましょう。
アプリはスマホとイヤホンのペアリングをガイダンスしてくれたり、Bluetooth接続の「音質優先」「接続有線」の切り替えなど基本的な設定が行えます。オーディオコーデックはベーシックなSBCのほか、iPhoneやiPadなどiOSデバイスとの組み合わに最適なAACをサポートしています。1000Xシリーズのヘッドホンとワイヤレスイヤホンが対応する、ハイレゾ相当のワイヤレスリスニングが楽しめるLDAC/aptX HDについては、ノイズキャンセリング機能と電池寿命とのトレードオフにより採用が見送られたということです。aptXまでなら対応している完全ワイヤレスイヤホンもあるので、そこは攻めて欲しかったところですが、その分ノイキャン機能に期待しましょう。
1000XシリーズといえばCDリッピングやMP3の高圧縮音源などをハイレゾ相当にアップスケールしてくれるDSEE HXも代名詞のひとつですが、本機にはこちらが搭載されていないこともやや残念なところ。
本体に搭載するマイクで外音を取り込みながら音楽を聴ける機能が搭載されています。声を中心にフォーカスする「ボイスモード」と、外の音をバランス良く拾う「ノーマルモード」の2種類を選べますが、左側本体のボタンではノイズキャンセリングのON/OFFと外音取り込みの切りかえしかできません。ボイスモードとノーマルモードの設定はスマホアプリで先に選択する仕様になっているからです。また他の1000Xシリーズのヘッドホンとイヤホンは外音取り込みのレベルが調節できますが、WF-1000Xではこれを省略しています。イヤホンを装着した状態で音の聴こえ方を自動で最適化する「パーソナルNCオプティマイザー」も搭載されていません。
イヤホンとスマホ、オーディオプレーヤーの接続にはNFCが使えます。ケースの裏にNFC対応のデバイスを近づけると自動でペアリングが完了するので便利です。iPhoneなどNFC非対応の機器は通常通り設定から本機を選択するか、専用アプリのナビゲーションに従って操作すればこちらもシンプルに接続が完了します。一度ペアリング設定を済ませれば、ケースから取り出すとイヤホンの電源がオンになって、ペアリングが記憶されているデバイスに自動でつながります。ただ、今回は試作機でテストしたためか、いくつかのスマホでは時折ペアリングが外れてしまったり、左側のイヤホンだけがペアリングされて右側からはしばらく経たないと音がきこえないこともあったのが少し気になりました。
左右イヤホン間のペアリングはBluetooth接続になります。より安定性が高いといわれているNFMI(近距離磁界誘導)を使わなかった理由については、機能を充実させたうえでデバイスを小型化することが難しかったからであるとソニーの開発者が語っています。そのぶんBlueooth通信のアンテナは接続の安定性を気にして配置しながら、左右イヤホン間での信号の送信エラーは極限まで抑えています。左右間での信号遅延が発生してしまうため、ボイスガイドと同様に通話時の音声は左側のイヤホンだけから聞こえてくる仕様になります。ただ、WF-1000Xではイヤホンとスマホとの間での信号遅延がとても少なく、動画を再生したときの音声のズレがほぼ感じられない快適な視聴が楽しめました。
音質は自然な味付け。ノイキャン機能はやや弱め
音質とアプリの使い勝手はiPhone 8とペアリングして確認しました。音質チェック用のリファレンスとしてウォークマン「A40シリーズ」も用意しています。
Apple MusicでJUJUの「Request」から「Don’t wanna cry」を再生すると、ボーカルのエネルギーがストレートに飛び込んできました。ミドルレンジがとてもクリアで、低域は太くなり過ぎないので輪郭がシャープに描き出される印象です。高域も粒立ちが良く、リズムの切れ味にも富んでいます。全体にむやみな色づけがないので、楽器や人の声の音色が自然に感じられます。
パット・メセニーグループの「Still Life(Talking)」から「Last Train Home」では音場も広く描き出されます。特に中高域の見晴らしがとても良く、低域がもたつく感じもありません。正確に刻まれるリズムセクションが緊張感を高めてくれます。エレキシタールの余韻もふくよかで柔らかく、耳にしっとりと馴染んできました。iPhone 8で音質優先モードを選択してAACコーデックで伝送すると、より中域の滑らかさや力強さがアップして聴き応えがありました。
ノイズキャンセリングの効果はかなり穏やかなレベルに抑えられているように感じました。筆者は昨年に発売された「MDR-1000X」をふだん使っていますが、ヘッドホンのような強力なノイキャンを期待してのぞむと、あれ?こんなものかなと感じるほどかなり効果は控えめです。再生される音楽に余計な色を付けることがないところはMDR-1000Xと同じく良いところだと言えます。イヤーピースによるパッシブな遮音効果も高いのでバランスを考えながら本機なりに調節した結果なのかもしれません。ただ、例えば地下鉄に乗っている時など騒音の多い環境ではもう少し強めに消音してほしい場面もありました。
アプリの作りこみは甘い。アップデートでの改善に期待
アプリから「アダプティブサウンドコントロール」機能を試してみます。こちらの仕組みはペアリングしているスマホの加速度センサーとGPSを併用してユーザーの動きを検出。「止まっているとき」「歩いているとき」「走っているとき」「乗り物に乗っているとき」の、4つのプリセットされた行動パターンから、ユーザーの動きに合わせて自動でモードがスイッチします。
例えば止まった状態から歩き出すと、約15秒後にアラームが鳴ってアプリの画面が「歩いているとき」に自動で切り替わります。パターンごとのプリセット設定の内容もユーザーが自由にカスタマイズできるので便利ですが、ペアリングしているスマホが内蔵するセンサーやCPUの性能にアプリの正確な動作が引っ張られるところもあるようです。例えばiPhone 8では安定して行動パターンが切り替わるのですが、筆者がふだん使っているAndroidスマホのオンキヨー“グランビート”「DP-CMX1」で試してみたところ、ずっと止まっていたり、歩いている間も音楽信号が途切れたりノイズが発生してリスニング感がゆらぐことがありました。
アプリが使えないウォークマンで試してみると接続が格段に安定したので、恐らくアプリとスマホの相性に影響を受けているものと思われます。ペアリングするスマホによっては「アダプティブサウンドコントロール」の設定をOFFにして使う方が音楽のリスニング品質が安定するような手応えもあります。DAPをメインに使うのもありかもしれません。
行動パターンが切り替わったときに、音楽再生が中断されてアラームが鳴ってしまうのが気になりました。現状では設定からこれをオフにすることができないようです。今後可能であればソフトウェアのアップデートなどで仕様が変更されることを願いたいと思います。また再生中の曲をスキップすると、iPhoneの場合は“ブツッ”と小さなノイズ音が左右のイヤホンに順番に入ります。ウォークマンで試してみると、次の曲の再生が始まる前にリスニング中の楽曲の残像のような音が鳴ってしまいます。この仕様もいずれ改善してほしいポイントです。
ソニー初の完全ワイヤレスイヤホンは、音質は納得の出来映えでしたが、一方でアプリとの連携についてはもう少し安定するよう改善して欲しい部分がいくつかありました。ノイズキャンセリングを特徴としてアピールするイヤホンなのであれば、筆者としてはその効果をもっとわかりやすく、強めに効かせてしまってもよかったように思います。このあたりは好みにもよるところなので、ぜひ興味のある方は店頭などノイキャンの効果を試してみることをおすすめしたいと思います。
本機を起点として、ソニーが様々な完全ワイヤレスイヤホンのラインナップを拡大してくれることを期待したいと思います。今回実現できなかったLDAC/aptX HDにも対応する「ハイレゾ相当に音のいいイヤホン」や、EXTRA BASSシリーズの重低音モデル、防水・防塵性能を徹底的に高めたスポーツモデル、センサーリモコンでサクサクと操作できるハイテクUI搭載機など、ソニーの先進技術を生かせばきっと私たちがあっと驚くような完全ワイヤレスイヤホンが生まれるのではないでしょうか。これからの展開にも要注目です。