高級カメラで知られる「ライカ」。なぜ人はライカに憧れるのか――。本稿ではその歴史をたどりつつ、ライカのカメラがもつ魅力について語っていきたい。記事後半では、現行のラインナップやおすすめモデルも紹介する。
ライカの歴史をたどる
まずはライカの魅力を語るうえで外せない、その歴史について見ていこう。
ドイツで生まれた35mmカメラのルーツ
ライカはドイツ、ウェッツラーに構えるエルンスト・ライツ社(現ライカカメラ社)の技師、オスカー・バルナックが発明した小型カメラだ。その1号機が1914年に誕生したウル・ライカ。それまで6×9cmなどの中判や、4×5インチなどの大判カメラが主流だった時代に、バルナックは映画用の35mmフィルムを利用し、上着のポケットに入る小型カメラを開発した。画面サイズは映画の2コマ分になる24×36mm。ここから35mmカメラの歴史が始まる。現在のデジタルカメラの「35mmフルサイズ」も、これがルーツだ。
「小さくて高画質」で大ヒット
1925年にライカⅠ(A型)を発売。小さくて高画質のライカは大ヒットした。1932年にはレンズ交換式で距離計(レンジファインダー)を内蔵したライカⅡ(DⅡ)が誕生。翌33年にはスローシャッターも備えたライカⅢ(DⅢ)へと発展する。
1954年、現在まで続くM型ライカが誕生
そして1954年のフォトキナで、全く新しいライカが発表された。それがライカM3だ。「M」とは、「Messsucher」の頭文字。ドイツ語でレンジファインダーを意味する。明るく、広々とした明るいファインダーに精度の高い距離計があり、レンズマウントはスクリュー式からバヨネット式に変更。極めて完成度の高い仕上がりのため、それまでライカを目指していた日本のカメラメーカーはレンジファインダーの開発をあきらめ、一眼レフへと力を注ぐようになる。
ライカM3から始まったライカMシステム(通称M型ライカ)は、現在もデジタル、フィルムの両方でラインナップし、ライカのアイコニックな存在として高い人気を誇るシステムだ。
機動力に惚れ込んだ世界中の著名写真家が愛用
小型高性能カメラの元祖といえるライカは、大判カメラでは不可能だった高い機動力を活かした写真が撮れる。そのため報道写真やストリートスナップを撮る写真家から絶大な支持を得た。ロバート・キャパの代表作「崩れ落ちる兵士」もライカで撮影している。ライカが写真を変えた、と言っても過言ではない。そしてアンリ・カルティエ=ブレッソン、エリオット・アーウィット、木村伊兵衛など世界中の著名写真家に愛用され、現在も世界に熱狂的なファンを抱える。
現代でもなお「憧れの名機」とされる、ライカの魅力とは?
憧れのカメラの代表といえるライカ。その魅力は何だろうか。
素材と製造に一切の妥協がない
ライカは高価なことでも知られている。その理由は、カメラ作りに対して一切の妥協をしないためだ。最高のカメラのために素材にこだわり、製造にもこだわる。
例えば筆者が愛用しているライカM(Typ240)は、本体シャシーはマグネシウムを使用し、トップカバーとベースプレートは真鍮の削り出しだ。日本メーカーのカメラでは、ダイヤル類がアルミ削り出しはあっても、トップカバー自体が削り出しの機種は存在しない。ほかにも、APS-CサイズのライカTL2はボディ全体がアルミ削り出しで繋ぎ目のないユニボディ。アルミブロックから45分もかけて削り出している。このように、ライカはコストがかかってもベストな製造方法を選択するのだ。
高い解像力と強い逆光耐性を備えたレンズ
また、レンズに非球面レンズやアポレンズを積極的に採用し、すべての製品で高い解像力と強い逆光耐性が得られる。光学系には樹脂レンズは一切使わず、すべてガラス製なのも画質にこだわるライカの姿勢だ。
“手にする喜び”が得られる存在感
そして可能な限りハンドメイドにこだわる。レンズ製造時のヘリコイドのすり合わせも手作業だ。手にすると職人によるクラフツマンシップが伝わる。これがライカを手にする喜びに繋がるのだ。単純にスペックの数字にとらわれるのではなく、「モノ」としての存在感と使い心地、そして優れた画質が高い次元で融合している。それがライカの魅力なのだ。
ライカのラインナップとおすすめモデル
様々なカメラをラインナップするのもライカの特徴だ。中判デジタル一眼レフのライカSシステム。6400万画素のライカS3と3750万画素のライカS(Typ007)だ。どちらも撮像素子のサイズは45×30mmのライカプロフォーマットを採用している。
35mmフルサイズのミラーレス機はライカSLだ。マウントのLマウントは、パナソニックとシグマと締結したことで話題となった。
【おすすめライカ①ライカSL】
ライカSL
2400万画素の撮像素子と、視認性に優れた440万ドットのEVF「EyeResファインダー」を搭載し、4K動画撮影も可能。35mmフルサイズのLマウントの1号機でもある。同じLマウントのパナソニックやシグマのレンズと共用が可能になる。
そして60年以上続く、ライカのアイコニックな存在といえるのが、35mmフルサイズレンジファインダー機のライカMシステムだ。通称「M型ライカ」。最もライカらしいスタイルを持ち、世界中の写真家に愛用されている。デジタルのライカM10-P、ライカM10、ライカMなどのほかに、フィルムのライカM-A、ライカMPもラインナップする。
【おすすめライカ②ライカM10-P】
ライカM10-P
これまで厚みがあったデジタルのライカMシステムボディだったが、ライカM10からフィルムのライカMボディと同じ厚みになった。ライカM10-Pは、さらにタッチパネルや静音化されたシャッターなどを搭載したプロ仕様機だ。
またデジタルカメラでは当たり前にある背面モニターを省略し、巻き上げレバーのようなサムレストを持つ、まるでフィルムカメラのようなスタイルのライカM10-Dや、モノクローム専用機のライカMモノクロームなど、ほかのメーカーにはない個性的な機種も存在する。
そして35mmフルサイズセンサーを搭載するコンパクトカメラも存在する。それが、2019年3月に発表されたばかりのライカQ2だ。ズミルックスf1.7/28mm ASPH.を搭載する、ライカQの後継機になる。
【おすすめライカ③ライカQ2】
ライカQ2
ライカQのデザインやズミルックスf1.7/28mmを受け継ぎながら、4730万画素CMOSセンサーを搭載。35mm、50mm、75mm相当にクロップも可能だ。EVFは368万ドットのOLED。防塵防滴構造の採用や4K動画機能など、ライカQから大きくパワーアップした。
APS-Cサイズのミラーレス機は、ライカCLとライカTL2。どちらもLマウントを採用し、ライカSLや、これから発売されるパナソニック、シグマのLマウントレンズも装着できる。ライカCLはEVFを搭載したトラディショナルなデザインだが、ライカTL2はアルミ削り出しのユニボディを持ち、背面は全面タッチパネルでスマートフォンのような操作性を持つ。またAPS-Cサイズのコンパクトカメラとしては、水中に潜れるライカX-Uがある。
【おすすめライカ④ライカCL】
ライカCL
ライカSLと同じLマウントを採用したコンパクトなミラーレス機。2400万画素のAPS-Cセンサーは高い解像力を持ち、優れた視認性のEVFも搭載する。小型で高画質、そしてトラディショナルなデザインから、Oskar’s Legacy(オスカー・バルナックの遺産)と呼ばれる。
そのほかのコンパクトカメラでは、フォーサーズセンサーを搭載したライカD-LUX7、1型センサーを持ち、携帯性に優れたライカC-LUX、一眼スタイルのライカV-LUXなどがある。さらに、意外なところではインスタントカメラのライカゾフォートも発売されている。
【おすすめライカ⑤ライカC-LUX】
ライカC-LUX
現行のライカでは最も小さな機種。しかし2000万画素の1型センサーを搭載し、レンズは24~360mm相当の光学15倍の高倍率ズームを持つ。EVFやタッチパネルも装備し、RAWの記録も可能。初めてのライカとしてもおすすめできる。
【おすすめライカ⑥ライカゾフォート】
ライカゾフォート
ライカ初のインスタントカメラ。フィルムは富士フイルムのチェキと互換性がある。ライカがインスタントカメラとは不思議に思うかもしれないが、インスタント写真はオリジナルが1枚しか存在しない。それも「写真の本質」を追求したひとつの形なのだ。ライカのなかで最も手に届きやすい価格も魅力だ。
ライカといえば35mmカメラの産みの親なので、デジタルでも35mmフルサイズにこだわっていると思われがちかもしれない。しかし実際は中判デジタル、35mmフルサイズ、APS-C、フォーサーズ、1型、また35mmフィルム、インスタントカメラをラインナップする。これだけ多彩なフォーマットを持つのはライカだけだ。自分の撮影スタイルによって最適な機種が選べる。それは「写真の本質」を追求するライカの姿勢の現れと言えるだろう。
ライカはどれも高価ではあるが、長く愛用できるのが魅力だ。発売からすでに10年経っているデジタルカメラでも、今も愛着を持って使っている人も多い。ライカは決してコレクションのために存在するのではない。最高の写真を撮るために、最高のカメラと最高のレンズがある。それがライカだ。ぜひライカを手にして、そのフィロソフィーを体感してもらいたい。
協力:楽天市場