みなさんは「骨伝導イヤホン」をご存じでしょうか。あるいは使ったことはありますか? 一般的なイヤホンは空気の振動を鼓膜から聴覚神経に伝えて音を聴く仕組みとしていますが、頭蓋骨を振動させて音を聴覚神経に伝える骨伝導イヤホンも少しずつ増えています。
ピュアに音質を追求した骨伝導イヤホンが誕生した
骨伝導イヤホンは振動素子を内蔵する部位をこめかみなど頭部に密着させて使うので、一般的なイヤホンのように音を聴くためにイヤーピースで耳を塞ぐ必要がありません。周囲の環境音を聞きながら音楽リスニングが楽しめることから、スポーツタイプのワイヤレスイヤホンにその技術が広がっています。
また今年に入ってからビデオ会議のための必携ツールとしてワイヤレスイヤホンが脚光を浴びています。耳を塞がないで済む骨伝導イヤホンならば周囲から不意に声を掛けられてもすぐさま反応できるので、特にマイクを内蔵するハンズフリー通話対応の製品はビジネスパーソンに注目されています。
このほどハイエンドクラスのカスタムイヤホンを精力的に手がけるブランド、Unique Melodyから骨伝導の技術を取り込んだ画期的なイヤホン「MEST」が発売されました。骨伝導にダイナミック型とバランスド・アーマチュア(BA)型、静電型を含む4種類のドライバーを片側に計8基搭載する5ウェイ構成のイヤホンがどんな音を楽しませてくれるのか、レポートしたいと思います。
片側4種・8基のマルチドライバーを搭載
MESTはルックスも高級感が漂うピュアなオーディオリスニング志向のイヤホンです。価格は税込で16万9950円とやはりハイエンド。2ピンタイプのプラグを採用するケーブルを着脱交換して音のカスタマイズが楽しめます。
補聴器開発のノウハウをバックグラウンドに持つUnique Melodyは、2008年から本格的にオーディオ向けカスタムIEMを手がけてきました。創業からの12年間に培ってきたノウハウをベースに開発された最新モデルのMESTにはカーボンファイバー製のシェル(外殻)を採用しています。
カーボンファイバーは通常イヤホンのシェルに使われるアクリルよりも軽く頑丈ですが、成型が難しいマテリアル。Unique Melodyでは熟練したスタッフがシェルをひとつずつ丁寧にハンドメイドで形を作り、光の乱反射により美しく輝く螺鈿のような外装に仕上げています。実物を目の当たりにすると、驚くほど手間を掛けてつくられているイヤホンであることがよくわかると思います。
このコンパクトなシェルの中に、片側8基ものドライバーが搭載されていることもにわかに信じがたいものがあります。内部構造の詳細は分解図を参照してほしいと思いますが、ドライバーの構成は低域用にダイナミック型を1基、中高域用のBA型を2基と別途高域用BA型が2基、そして超高域用に静電型が2基。
シェルを振動させて音を伝える骨伝導ドライバー
この7つのドライバーから生まれる音をイヤホンのノズルから空気振動による「気導音」として出力しながら、8つめのドライバーとして搭載した多層圧電セラミック骨伝導ドライバーにより振動に変えて、骨から聴覚神経に伝える「骨導音」として豊かな音楽リスニング体験を実現するユニークな技術が本機の魅力です。
分解図を見る限りは骨伝導ドライバーを肌に近い位置に置いて密着させる構造にはなっていません。メーカーの解説によると、骨伝導ドライバーはイヤホンのフェイスプレートからシェル全体に振動を伝えているそうです。音楽プレーヤー機器のボリュームを上げてみてもイヤホンが小刻みに振動するような感触はありません。あくまで気導音で伝えるサウンドをしっかりと練り上げて耳に届けながら、骨導音で豊かな音の味付けを整えたようなバランス感覚です。
MESTのシェルは密閉型ですが、音楽を聴く際に鼓膜にかかる空気圧の負担を下げるため、内部に金属製の細いエアフローチューブを配置して、シェルの外側に設けた小さな孔から圧を逃がす構造としています。抜けが良く、とてもクリアなサウンドが再現できる秘密がここにあります。ちなみにこの孔からリスニング中の音楽が外に漏れたり、リスニング環境のノイズが飛び込んでしまう心配は不要でした。
このMESTでしか味わえない音楽体験がある
音質はAstell&Kernのハイレゾ対応プレーヤー「A&ultima SP2000」でチェックしてみました。音の粒だちと立体感がとにかく鮮明です。音のきめ細かさを失わずに、滑らかな階調感を描きながら豊かな音場の広がりを感じさせてくれるイヤホンは多くはありません。
ライブ録音の楽曲はステージに漂う緊張感もリアルに伝えてきます。ステージに立つボーカリスト、バンドの楽器の定位がとても立体的です。引き締まったタイトな低音がアップテンポなロックやポップス、EDMなどのタイプの楽曲によく合いました。
骨伝導ドライバーの効果は思わず息を吞むほどリアルな立体感に最も色濃く反映されています。ボーカリストの姿が目の前に浮かび上がり、輪郭線の描写はとても緻密。押し出しがエネルギッシュなだけでなく、甘く包み込むような余韻のふくよかさも絶品です。身体の指先にまで音楽が染み渡っていくような不思議な感覚を楽しみました。
3Dオーディオともまたひと味違う立体感が楽しめて、ハイレゾ音源の情報密度を余すところなく伝える圧巻の音楽体験はMESTならではのもの。少し高価ですが、すり減るほどに聴き込んだ音楽をまた何度も聴きたくなるほど、ユーザーを魅了する力を持っているイヤホンだと思います。ぜひ一度、ゆっくりと聴いてみることをおすすめします。
【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】
【この記事を読んだ方はこちらもオススメ】