手ごろな価格で性能十分な家電を多数手がける“バリューブランド”のルーツや、製品開発にかける想い、アプローチ方法についてインタビューを行う企画。今回は、Ankerのヒット商品を紹介しながら、同社の成長の経緯とモノ作りの哲学に迫る!
※こちらの記事は「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。
社名:アンカー・ジャパン
創業:2013年
本拠地:東京都千代田区
ヒット家電第1号:Anker Astro M3
元Googleエンジニアのスティーブン・ヤンが2011年に創業。2013年に日本法人を設立。初期はスマホ周辺機器で知られたが、現在はオーディオ製品やIoT家電なども手掛け、「Empowering Smarter Lives」をスローガンに成長を続ける。
【今回ピックアップする製品】
Android TVを搭載し単体で使える小型プロジェクター
Anker
Nebula Capsule II
実売価格5万9800円
Android TV 9.0を搭載し、バッテリーを内蔵したプロジェクター。720pのHD解像度&最大100インチで映像を投影できる。単体でもスマホと連携しても使えるほか、HDMI入力も備えてゲーム機も接続可能だ。
SPEC●投影解像度:1280×720ドット●輝度:200ANSIルーメン●動画再生時間:約3時間(Wi-Fi利用時は約2.5時間)●サイズ/質量:約φ80×H150mm/約740g
【開発ストーリー】スマホづくりで得た知見を応用して開発
Nebulaシリーズの特徴は高画質&高音質で小型のボディにAndroid TVを搭載し、生活に違和感なく溶け込む点にある。これを実現したのは、元々はスマホを手掛けていた開発者たち。スマホづくりで得た知見を生かし、持ち運びにくい大きさや満足できない音質といった従来のプロジェクターの弱点を解消することを目指した。
【この人に聞きました】
アンカー・ジャパン マーケティング本部 コーポレート・コミュニケーション統括
瀧口智香子さん
PR会社、LCC広報を経て、2017年に入社。Ankerグループの急成長をコミュニケーション分野から支える。
高コスパと厚いサポートの両立を目指して創業
Ankerグループの創業者であるスティーブン・ヤンさんは、検索エンジンの上級エンジニアとしてGoogleに勤務していた。ある日、ノートPCの交換用バッテリーを買おうとしたとき、信頼は置けるが価格の高い純正品と、価格は安いが品質やサポートが劣るノーブランド品の2つの選択肢しかないことに疑問を持った。「なぜ、手の届きやすい価格と、優れた機能性・品質・サポートを兼ね備えた製品がないのだろう?」——そんな、いちユーザーとしての疑問がAnkerグループの出発点だという。創業から2年後、2013年には早くも日本法人のアンカー・ジャパンが誕生する。日本における成功のトリガーは、やはり、現在も同社の代名詞的存在であるモバイルバッテリーだった。
「Amazonのモバイルバッテリーカテゴリで安定的に1位を獲得していたAnker Astro M3という製品がありました。13000mAhという大容量で3000円台という手ごろな価格設定が評価されていたんですが、当時は中国のメーカーで価格が安い点から漠然としたマイナスイメージを抱く方もおりました。そこでアンカー・ジャパンでは、Amazonのレビューはもちろん、個人ブログやメディアのレビュー記事まで目を通し、お客様が何を不安、不満に思っているかを徹底的に把握したんです。それから、信頼の醸成に向けてサポート体制を整えたり、お客様の声に基づいて製品の改善を図ったりという地道な工夫を重ねました。その結果、徐々に『アンカー・ジャパンは中国のメーカーだがサポートがしっかりしていて安心できる』と認識していただけました」(瀧口さん)
【Anker Astro M3】
こうして同社は、順調に発展を遂げていく。同社が日本市場をいかに大切にしているかは製品づくりからもうかがえる。
「Ankerグループの製品は基本的にグローバルで共通ですが、日本市場はアメリカに比べ、大容量のモバイルバッテリーであってもコンパクトさが求められる傾向があります。2016年に発売したAnker PowerCore 10000は、そんな日本市場の独自性を本社の開発チームに説明し、日本市場で“勝つ”ために開発した初めての製品です。こうして生まれた本製品はクレジットカードより小さな筐体で10000mAhの大容量を実現し、発売初日に2500個以上を売り上げるという記録を達成。現在までに、累計100万個以上という売上実績を誇るベストセラーモデルになりました」(瀧口さん)
【Anker PowerCore 10000】
事業が多様化しても変わらない顧客主義
当初はチャージング関連製品が中心だったAnkerグループだが、その後はオーディオ製品やロボット掃除機、スマートプロジェクターといった、スマホと高度に連携する製品へと事業展開を広げていく。同社がどの分野でも共通して実践しているのは「ソフトウェア的発想のものづくり」だ。
「お客様の声に基づいたスピーディな製品の開発・改善を徹底しています。弊社へのお問い合わせは電話とメールを併せて一日に700件超。Amazonレビューも加えると日本だけでも年間で数十万件の声が寄せられます。こうしたご意見やご要望を、どのメーカーよりも精緻に、迅速に分析し、製品改善や開発に生かして、最短で製品を市場に出していくことをAnkerグループでは大事にしているんです。弊社ではカスタマーサポート部門だけでなく、開発・品質管理部門やマーケティング&セールス部門もお客様の声をチェックしており、Amazonレビューの★の数を共通の製品評価指標としています。創業時から変わらず徹底しているのは『人の声から、ベストアンサーをつくる』という姿勢なんです」(瀧口さん)
【Eufy RoboVac G10 Hybrid】
【バリューブランドの真髄】顧客の声を求めて直営店を積極展開中!
ECサイトでの販売が中心だったころから利用者の声を商品改善に生かしてきた同社は、近年リアル店舗の展開に注力している。これは店頭での客の反応や動向など、既存の販路では得づらい情報を集めて生かす目的も。さらに、ドコモが展開するレンタルサービス「kikito」にも参加するなど、顧客とのタッチポイントの多様化を加速させている。