骨伝導イヤホンのトップメーカー、Shokz(旧名AfterShokz)が誇るハイエンドモデル「Aeropex」。筆者は昨年からこの品を愛用しており、”2021年に買って最もよかったモノ”と言えるほど、素晴らしいアイテムだと思っている。つけていることを忘れて寝てしまうほどに装着感が軽いうえ、屋内外問わず活躍する高い汎用性を持った本品は、2019年に登場してからずっと売れ続け、ユーザーからの評価も高い。この記事では、その衰えない魅力について具体的に語っていきたい。
骨伝導イヤホンは耳をふさがないのが魅力だが、問題点も
骨伝導イヤホンは、骨を通して振動を送り、鼓膜を通すことなく、内耳に音を伝える仕組みの製品だ。その魅力は、耳をふさがない点にある。骨伝導ではないイヤホンは耳をふさぐ形で装着するため、どのような形状のモノであっても大なり小なり外界の音を遮断してしまう。その点、外の音を”まったく”遮断しないこの魅力は、骨伝導ならではのものだ。
イヤホンで耳をふさいだまま外を歩くと、電車や車などの音が聞こえづらくなり、危険を招いてしまう。だが骨伝導イヤホンであれば、屋外を歩きながら安心して音楽を聴いたり、ハンズフリーで通話したりできる。そんな便利さから、筆者は数年前から骨伝導イヤホンを使ってきた。
だが、イヤホンがこめかみに直接触れながら振動するため、独特のむずがゆさがあるうえに、フレームの圧迫が強すぎる製品の場合はそのむずむず感が助長されてしまう。筆者はこれまで別の骨伝導イヤホンを使用してきたが、このむずがゆさが長年の問題だった。
つけたまま昼寝しちゃう。まるで”体の一部”に
そんな長年の問題点を解消したのが、今回紹介するAeropexだ。名前に「Aero(空気)」と入っているように、本品の装着感はまるで空気のようで、つけている事実を忘れるほどに軽い。筆者の実体験で言えば、つけたまま昼寝をしてしまうこともあった。まさに「体の一部になる」と表現しても過言ではない。
快適な装着感をもたらしている要素はいくつかある。まずは、質量が26gしかないこと。メーカーによれば、従来機種から30%の小型化と13%の軽量化に成功しており、「卵よりも軽い」と表現されている。あくまで筆者の感覚だが、卵とは比較にならないくらい軽い。
もうひとつの要素は、フィット感の絶妙さだ。Aeropexの素材にはチタンが採用されているが、このフレームが装着時の安定性と圧迫感のなさを見事なまでに両立している。
そして、振動の少なさも捨て置けない。冒頭で書いたように、骨伝導イヤホンで音楽を聴いていると独特のむずがゆさが発生してしまう。だが本品はそれを大きく削減。従来品より振動が軽減されていると製品サイトに記載されているが、明らかに振動の少なさを体感できる。骨伝導ならではの感覚がないといえばもちろんウソにはなるが、使用中のわずらわしさは皆無だ。
筆者が本品を初めて触ったのは、某家電量販店でのタッチ&トライイベントでのこと。試着・試聴をして、スペック確認後、すぐに購入することを決めた。触ってから、レジに行くまでだいたい5分くらいだろうか。音質などの評価点もあるが、一番筆者を魅了したのはその装着感。それほど、本品のつけ心地がよかったのだ。
音漏れ軽減、ノイキャンマイク、高い防水性能なども兼ね備える
Aeropexは、骨伝導イヤホンの完成形ともいえるほど、多くの機能を搭載しているのも魅力。その一端を見ていきたい。
まず、音漏れの軽減だ。製品サイトによれば従来機種より50%音漏れを減らしているという。骨伝導イヤホンはその構造上、どうしても音が漏れがちだ。だが、本品ではあまりに周りが静かな環境でなければ、それほど気にならないレベルにまで、音漏れが抑制されている。たとえば、エレベーター内で使うときに音量を下げる程度の配慮でよい。
もうひとつ語っておきたいのが、本品に内蔵されているデュアルノイズキャンセリングマイクだ。その性能は雑踏のなかでも通話ができるほど確かなものである一方、ノイズをしっかり削ってくれる。おかげで声を張り上げずとも通話の相手にしっかりとこちらの声が届く。音漏れが少ないから、相手の声が自分の周囲に響くこともない。
本品はスポーツやアウトドアシーンを念頭に開発されているが、この通話品質から考えれば、ノイズの多い環境で在宅勤務をしている人のWeb会議用としても自信をもっておすすめできる。
さらに、本品はIP67相当の防水・防塵性能を持っている。この規格は水中に浸漬しても有害な影響を受けず、粉塵の侵入を防ぐ性能を持っていることを意味する。水泳にこそ対応しないが、スポーツやアウトドアを中心に、あらゆるシーンで水を気にせず安心して使えるからありがたい。汚れてしまったときは丸洗いが可能だ。
バッテリーの駆動時間は8時間で、2時間でフル充電が完了する。装着感の軽さゆえずっと装着していたくなるから、ワガママを言えば駆動時間は10時間ほどあったらうれしかったが、いまのところこのバッテリー性能でも不満はない。なお、スイッチをオンにした際には「バッテリーは約半分です」などと音声でバッテリー残量を教えてくれるので、その点は親切だ。
なお、これまであまり触れてこなかった音質についてだが、骨伝導イヤホンとしてはかなり高いといってよい。骨伝導イヤホン全般に言えることとして、どうしても低音域がかすれがちなのだが、Aeropexはちゃんと低音を鳴らしてくれる。とはいえ、低音が特に強い! というほどではないので、ドスドスとした低音を楽しみたい人は、骨伝導イヤホン自体を避けた方がいいかもしれない。
ここまで魅力を語ってきたAeropexの実売価格は1万9998円(税込)。決して安い買い物ではないが、筆者はその価値があると思っている。
エントリーモデルやビジネスモデルとの差は?
ここからは、Shokzが販売しているそのほかのモデルとの比較を書いていこう。Aeropexのほかにも、Shokzの骨伝導イヤホンのバリエーションは幅広く、価格がAeropexの半分になったエントリーモデル、高品質なマイクを内蔵したビジネス向けモデルなども存在している。具体的に紹介していきたい。
まずは、エントリーモデルの「Openmove」(実売価格は税込み9999円)。採用されている骨伝導の技術が、Aeropexに比べて1世代前のものになるほか、バッテリー駆動時間が6時間、防水・防塵規格がIP55とスペック面でAeropexより劣っている。実際に使ってみると、装着感はそれほど変わらないものの、音楽再生時、振動板によるむずがゆさがあり、快適性の面でもAeropexとの差を感じた。
だが、2万円前後の製品が並ぶShokzの骨伝導イヤホンのなかにおいて、1万円を切るOpenmoveの価格の低さは際立っており、Shokzの製品に興味はあるが出費を抑えたいという方にはぴったりのモデルといえよう。
一方、ビジネス向けモデルの「Opencomm」(実売価格は税込み1万9998円)は、通話に特化した骨伝導ヘッドセットだ。バッテリー駆動時間が長く、一度の充電で最大16時間の通話が可能。充電時間も1時間とAeropexの半分となっている。もちろん、マイクはAeropexのものより高性能。仕事中、断続的に通話をする人のための製品だ。
さらに、よりとがったモデルもラインナップされている。通話こそできないが、最大1200曲の楽曲を保存できる4GBストレージを搭載したうえに、水泳に対応した完全防水モデルの「Xtrainerz」(実売価格は税込み1万9668円)や、テレビに接続できるトランスミッターが付属した「AS801-ABT01」(実売価格2万6268円)だ。また、Aeropexの基本性能はそのままに、最大音量を抑制したほか、サイズを少し落とした子ども向けモデル「Aeropex Play」(実売価格は税込み1万9998円)もあるので、親子お揃いにするのもいいだろう。
選び方は、Aeropexがとても優秀で完成度も高いため、どのような用途であっても基本的にはAeropexがファーストチョイスでいいだろう。それほどまでに、Aeropexがスゴい製品なのだ。だが、予算的にどうしてもという場合はOpenmoveで、ビジネス・水泳・テレビの用途専門に骨伝導イヤホンを用いたい場合は、そのほかのモデルが選択肢に入ってくる。
新たなハイエンドモデルのクラファンも実施中
なお、Shokzは、Aeropexと並ぶ新たなハイエンドモデル「OpenRun Pro」を発表し、現在クラウドファンディングを通して販売している。価格は2万3880円(税込)だ。OpenRun Proは最新の骨伝導技術を搭載。また、バッテリーは10時間持続し、急速充電にも対応するなど、多くの面でAeropexを上回る。ただし、防水・防塵性能はIP55にとどまっているなど、Aeropexのほうが優れている点もあるため、完全な上位互換というわけではない。製品名にRunと入っている通り、ランニングシーンでの使用を特に重視したモデルだ。
Aeropexは骨伝導イヤホンに求められる要素を高い次元で兼ね備えた”完成形”だった。今後は、リリースが発表されているOpenRun Proはもちろん、同社製品のさらなる進化に、ファンのひとりとして期待している。