あなたの得意料理はなんですか? そう聞かれて答えに詰まった人にぜひおすすめしたいのが、3月27日に発売となるレシピ本『飛田和緒の得意が見つかる定番ごはん』(ワン・パブリッシング)。著者の飛田和緒さんに、レシピへのこだわりや「得意料理」の見つけ方、ご飯を作りたくない日のモチベーションの上げ方まで、たっぷりとお伺いしました。
飛田和緒(ひだ かずを)さん
会社員を経て料理家に。食べることが大好きな、自他ともに認める“食いしん坊”。幼い頃から大人が好むような料理も積極的に食べ、自分の舌で料理を覚えてきた。身近な食材で作る、無理のないシンプルなレシピが人気。
憧れのビーフストロガノフが得意料理になるまで
―この度発売となった『飛田和緒の得意が見つかる定番ごはん』には、飛田さんがおすすめする100品ものレシピが載っています。なかでも、一番の「得意料理」を教えてもらえますか?
一つ挙げるなら、ビーフストロガノフですね。20代の頃にアルバイトをしていた洋食屋さんの賄いで食べたときに、すごくおいしい! と感動してしまって。自分でも作ってみたくてシェフに作り方を聞いたんですが、「君には作れないよ」と言われたんですよ(苦笑)。悔しいから、シェフの手元を盗み見しながら作り方をイメージして、こんな感じだったら近い味になるかな? と家で挑戦してみたのがきっかけです。

―ビーフストロガノフというと、すごく手間がかかる憧れの料理という印象です。それが得意料理とは、さすがですね。
そう思うでしょう? ビーフストロガノフを出すと「こんなご馳走を作ってくれたの!」と必ず喜ばれるんですが、じつはとっても簡単なんですよ。牛肉の切り落としとお野菜、ほんの少しの生クリームさえあればOK、お肉をちょっと炒めて煮ておけばいいから、作り置きもできます。食べるときに温め直してご飯に乗せるだけで出来上がり。プラスでサラダを作れば、より華やかになりますね。
手間がかかっているように見えて、じつは作りやすいものをレパートリーにしておくと、とっても助かります。
―飛田さんにとって「得意料理」と、そうでない料理の違いはどこにあるのでしょうか?
やっぱり、何度も繰り返し作って、自然に体が動くくらいになったものが「得意料理」かな。私の場合、ビーフストロガノフはもう数えきれないほど作ってきたので、完全に目を閉じてだと難しいけど、薄目を開けてでも作れるくらいにはなっています。そうなると、絶対的に時短ですよね。作るのに時間がかからないから。
あとは、おうちにいつもある材料で作れる、というのもポイントです。買い物から始めないと作れない料理だと、すぐに取り掛かりづらいですからね。
今回の本では、多くのご家庭で常備されているであろう卵とお豆腐、それからお財布にやさしくてご馳走感のある牛切り落とし肉の3食材をベースにしたレシピを集めました。今日からすぐに挑戦してもらえるお料理ばかりなので、何度も作って得意料理にしてもらえたらうれしいです。
―ちなみに、飛田さんのビーフストロガノフは、現在が完成形でしょうか? それとも、まだまだ進化中ですか?
現段階では、本で紹介しているレシピが完成形です。でもじつは、これまでにも何度かビーフストロガノフのレシピを紹介したことがあるんですが、材料や調味料の分量が少しずつ変わってきているんですよ。というのも、私が作るのはレストランで出す料理ではなく家庭料理なので、そのときの自分が一番好きな味をレシピに書き起こしているから。若い頃はもっと味が濃かったけれど、いまは年を重ねたので少し軽めに仕上げていたり。進化、とは少し違うかもしれませんが、その時々でお料理って変わっていっていいんじゃないかなと思います。
私のレシピを参考にはしていただきたいですが、その日の体調や冷蔵庫にある食材に合わせて、いろいろなアレンジ大歓迎。もしもイメージ通りの味にならなかった日があっても、「こんなふうにもできるんだ」とおいしくいただいてくださいね。
料理は“引き算”こそ難しい。材料と調味料を極力省いたシンプルなレシピがこだわり
―飛田さんがレシピを作る際のこだわりを教えてください。
一番は、材料と調味料をできるだけ少なくシンプルにしている点です。どちらも、すぐに手に入るものが大前提。今回も、最初に考えたレシピから、材料や調味料をいくつか省いたものがありました。お料理って、いろいろ足していくのは比較的簡単ですが、引き算が難しいんですよ。できるだけシンプルに、私の出したい味に近づけるか。再現性もこだわったポイントです。
ですから、先ほど「アレンジ大歓迎」とお伝えしましたが、まずは一度、レシピ通りに作っていただきたいなと思います。やはり、食材や調味料を代用すると、お伝えしたい味にはならないんですよ。一度作ってもらって、そのうえで、お好みの材料や調味料、火加減でアレンジして、どんどん本にメモを書き込んでいってもらえたらと思います。
―自分の好きな味、家族の好みの味を探していくのも、お料理の楽しみのひとつですね。
お料理って、お菓子作りと違って途中で味見ができるじゃないですか。だから、どんどん味見をしてほしいですね。途中で味を見ながら、好きな味に近づけていけば、失敗もないですから。
―飛田さんのお話を聞いていると、本当にお料理を楽しまれている様子が伝わってきます。とはいえ、時には作りたくない気分の日もあると思うのですが、そんな日はどうしていますか?
自分の好きなものを作るのが、テンションを上げるのに一番ですね。家族の好みを優先している方も多いかもしれないけど、「今日は私が食べたいものを作ったよ!」と付き合ってもらうのもいいんじゃないかな。あとは、台所を片付けたり、包丁を研いだりして、料理をする環境を整えておくこともちょっと気持ちが上がりますね。お鍋を無心で磨いてピカピカにしてから作り始めたり。
台所を担当している人は、本当にやることが多くて大変ですよね。毎日お料理を作っている方を私はすごく尊敬しています。皆さん、よくやってる! お疲れ様! と伝えたいです。
次なるレシピ本のテーマは「ナンプラー」? 常に新しい味を読者に届けたい
―改めて、今回の本をどんな方に届けたいですか?
ひとつは、この春から新しい生活を始める方。大学入学や社会人になって一人暮らしを始めるような方に、ぜひお手に取っていただきたいです。じつは私の娘も一人暮らしを始めまして、お料理に挑戦しているみたいなんですよ。いろいろ試行錯誤して頑張っているようで、完成した料理の写真がLINEで送られてきます。今回の本に載っているレシピはコンビニでも手に入る身近な材料がほとんどなので、新生活で忙しい方や料理初心者の方にも作りやすいレシピばかりだと思います。
あとは、毎日台所を担ってきて、さまざまな料理を作ってきたけど、ちょっと基本に帰りたい、自分の味を見つけたいという方にも、この本はおすすめです。きっと、新しい「得意料理」が見つかるきっかけになるんじゃないかな。

―最後に、今後の夢や挑戦したいことをぜひお聞かせください。
娘が巣立って自分の時間がかなりできたので、コロナで中断していた旅に出たいですね。旅先でいろいろな新しい味に出会って、皆さんにもお届けできたらと思っています。
最近、魚醤(魚介類を発酵させて液状にした調味料)にハマっているんですよ。代表的なのはタイの魚醤であるナンプラーですが、日本各地にもいろいろな種類の魚醤があります。出汁替わりになるので、ちょっと味が足りないときにとっても便利です。奥が深くて使える調味料なんですが、敬遠されている方が多いので、この壁を崩していきたいですね。ワン・パブリッシングさん、次は魚醤のレシピ本を出しませんか?(笑)
そんな新しい味をどんどん取り入れて、皆さんに楽しんでもらえるレシピを届け続けたいと思っています。