本・書籍
2025/4/17 20:45

朝ドラ「あんぱん」の題材アンパンマン以外も注目! 絵本セラピストが選ぶ大人になった今こそ読みたい絵本4選

2025年3月31日に初回放送を迎えた連続テレビ小説『あんぱん』のモデルとなるのは、人気絵本『あんぱんまん』の生みの親であるやなせたかしさんと小松暢(こまつ・のぶ)さんご夫婦。

 

子どもの頃に身近な存在だったアンパンマンが題材とあって、楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。今回は、アンパンマンだけでなく大人になった今こそ読みたい絵本を、絵本セラピストの竹下りこさんに教えていただきました。

 

子どもの頃とは違う?
大人だからこそできる絵本の読み方とは

子どもの頃に読んだ絵本を、大人になった今読み返してみると、当時とは違った感想が生まれることも。子どもと大人では、絵本の読み方や捉え方にどんな違いがあるのでしょうか。

 

「子どもは絵本のなかに自分自身が入り込み、主人公になりきって物語を体験しています。物語のなかでワクワクしたりハラハラしたりという感情の動きを楽しみ、その楽しさを何度も体験したくて繰り返し読み聞かせをねだってくるのです。
それに対し大人は、空を飛んだり魔法を使ったりという、絵本に出てくる世界は実在しないことを知っています。そのため、絵本のなかに入り込むのではなく、無意識に自分の内面を投影して絵本を読むようになります
たとえば、絵本に出てくる動物が仲良しの友達とふざけ合っている場面があるとします。それを大人が読むと、幼い頃によく遊んだ友達とのたわいもない会話や遊びを思い出し、懐かしさに浸ったりするかもしれません」(絵本セラピスト・竹下りこさん、以下同)

 

大人は絵本を通して自分の経験や価値観などの内面を映し出すかのように読んでいます。大人ともなればさまざまな経験を経ているので、内面も捉え方も人それぞれ。それを言語化するというのは、大人になったからこそできる楽しみ方です。

 

「最近では、大人同士で絵本を持ちよって感じたことを共有する『絵本会』がオンライン・オフライン問わずさまざまなところで開かれています。絵本の捉え方を共有し合い、ほかの人はどんな感想をもったのかを聞き、そこからまた自分の内側と向き合えるのも、大人ならではの絵本の楽しみ方ですよね」

 

絵本の魅力をもっと味わえる4つの楽しみ方

絵本の感想を言葉にして伝え合うこと以外にも、大人だからこそできる絵本の楽しみ方はまだまだたくさんあります。4つの楽しみ方を竹下さんに教えていただきました。

 

1. 小説や映画よりも、物語の世界に短時間で浸れる

「日常生活の忙しさに追われて毎日時間がなかったとしても、例えば寝る前の数分間で物語の世界に浸れるのは絵本ならでは。小説や映画よりも短い時間で気軽に楽しめますよ」

 

2. 行間を想像する楽しさがある

「絵本の文章は子どもでも理解できるよう、短い言葉でわかりやすく書かれています。単純にわかりやすいだけでなく、作者が選び抜いた言葉を使っているので大人の心にも響きやすいのだと思います。ぜひ言葉の世界に浸ってみてください。作者は言葉にどんな想いを込めたのだろうと想像を膨らませてみるのもおもしろいですね」

 

3. 美しい絵に癒される

「子どもの目を引いたり伝わりやすくするために、綺麗な色を使って描かれた絵本がたくさんあります。なかには絵画として飾りたくなるほど美しい絵本も。疲れた日はしっかりと読み込まなくても、美しい絵をパラパラと眺めているだけで癒されますよ」

 

4. プレゼントとして選ぶ

「最近は自分のために絵本を買う人だけでなく、友人やお世話になった人へのプレゼントとして絵本を選ぶ人も増えています。詩の絵本やページごとに素敵なメッセージが書かれた絵本、インテリアとしても飾っておける仕掛け絵本などはプレゼントとしてよく選ばれていますね」

↑美しい絵と言葉に癒される『きょうはそらにまるいつき』作:荒井良二(偕成社)。「一日の終わりにそっと手に取りたくなる絵本です。表紙の絵も素敵なのでインテリアとしても飾りたくなります」

 

自分に合った絵本はどうやって探す?
大人に読んでほしい絵本の特徴

↑竹下さんも書店員として店頭に立つ、東京・神保町の絵本専門店「ブックハウスカフェ」には約1万冊を超える絵本がずらり。

 

絵本の魅力がわかったところで、さっそく自分に合った絵本を探してみたいと思います。ですが、書店の絵本コーナーには子ども向けの絵本がずらり。そのなかから大人が手に取るべき絵本の特徴とは?

 

「大人向けの絵本も増えていますが、子ども用の絵本にも心の機微が丁寧に描かれていて、大人が読んでも感動する作品はたくさんあります。なので、大人向け・子供向け問わず、タイトルや絵など自分が惹かれた絵本を手に取って開いてみてください。手に取ったときの紙の質感や、開いたときの絵の美しさ、テキストのフォントデザインや大きさなど、実際に見てみることで心惹かれる絵本がわかると思います。
テーマで選ぶなら、物語に限らず、詩の絵本や、当時の写真を載せて歴史を伝える絵本、社会問題を題材にした絵本、インテリアにもなる芸術性の高い絵本などは興味をもたれる人が多いようです。まずは自分の興味に合ったテーマから選んでみるのもいいですね」

 

インターネットで調べるときは、絵本専用サイトや絵本に詳しい人が運用しているブログなどもあるので、そうしたサイトで紹介されているものから読んでみるのもいいそうです。「今は情報がたくさん書かれた親切なサイトもたくさんあります。ですが、やはり書店に足を運んで選んでみるのが一番です」と竹下さん。

 

「絵本専門店や大型書店であれば、絵本の種類も豊富ですし、テーマ別に絵本を並べている書店も多いので選びやすいと思います。絵本専門店はもちろんですが、大型書店にも絵本コーナー担当の書店員さんがいらっしゃる場合が多いので、迷ったときは書店員さんに相談するのもおすすめです」

↑「絵本専門店は特に、絵本好きの店員ばかりなので気軽に相談してみてほしいです」と竹下さん。

 

絵本セラピストが選ぶ
大人向けのおすすめ絵本4選

「自分で探す前に、まずはおすすめの絵本を手に取ってみたい」という人のために、ベストセラーから最新作まで、竹下さんにおすすめの絵本を5つ教えていただきました。

 

1. 世代問わず長く愛されるベストセラー作品

100万回生きたねこ』作・絵:佐野洋子(講談社)

100万回死んで100万回生まれ変わったという、数奇な人生を送るとらねこが主人公の物語。強くて立派なとらねこが、初めて涙したわけとは――。

 

「読む人によってさまざまな捉え方が生まれる一冊です。例えば、読みながら愛する人に思いを馳せたり、最愛のねこが亡くなったときのことを思い出したり。なかには、主人公のとらねこと物語に出てくる白いねこのやり取りを見て、『彼を振りむかせるためのテクニックを学べた』という若い女性もいました。たくさんの人に読まれている作品なので、感想を誰かと共有し合う本としてもぴったりだと思います」

 

2. 仕事で疲れたときや落ち込んだときに読みたい絵本

わたしとなかよし』作:ナンシー・カールソン、訳:なか川千尋(瑞雲舎)

世界各国で大人気の作家、ナンシー・カールソンの翻訳絵本。人付き合いの第一歩は、まず自分を好きになることから。自分を大事にすることの大切さを教えてくれる一冊です。

 

「私自身、いろいろなテーマで絵本セラピーをしておりますが、絵本セラピーを通して一番伝えたいことはこの一冊に凝縮されていると思っています。主人公の豚の女の子は、自分のことが好きで、自分を大事にすることの素晴らしさをシンプルな言葉で伝えてくれます。まずは自分を大事にすることができて、初めて周りに優しくできるのかもしれません。仕事で疲れたときや、失敗して落ち込んだときにはぜひこの絵本を手に取ってみてください」

 

3. 忙しい毎日に、一息つく時間をくれる

うさぎじかん』作:刀根里衣(NHK出版)

6匹のうさぎファミリーが主人公の絵本。国内外に多くのファンをもつ絵本作家・刀根里衣さんの作品。かわいいうさぎと美しい四季折々の風景が繊細なタッチで描かれています。

 

「どのページにもかわいいうさぎの絵とともに、癒されるメッセージが添えられています。ストーリーを読むというよりも、お気に入りの1ページを探してみるのも楽しいかもしれません。肩の力が抜けるメッセージがたくさん書かれているし、絵を見るだけでも癒されますよ。寝る前や、ちょっと一休みしたいときに読みたくなる一冊です」

 

4. 大切な人の気持ちを理解したいときのヒントになる

あのひのきもち』作:かさいまり、絵:岡田千晶(金の星社)

2025年2月に発売された作品。仲良しの友達であるリスくんとネズミくんのお話で、お互いの気持ちをわかり合おうとすることの大切さを教えてくれます。かわいい絵にも注目です。

 

「お互いの気持ちを言葉で一生懸命説明したり、体を使って表現したり。何とかして気持ちを伝え合おうとする2匹の姿に、自身の友情や恋愛を重ねる人も多いかも。相手との関係で迷ったときはちょっと立ち止まってこの絵本を読んでみてください。相手の気持ちを考えたり、どうすればわかり合えるんだろうと想像したり、かわいらしい動物のやり取りからヒントがもらえるかもしれません」

↑『あのひのきもち』の1ページ。わかりやすい言葉のなかに、考えさせられるメッセージがぎゅっと詰まっています。

 

紹介したなかで気になる絵本があればぜひ読んでみてください。また、新しく出会う絵本だけでなく、子どもの頃に読んだ絵本を改めて読んでみるのもおすすめです。

 

「きっと子どもの頃に読んだときとは違うポイントで感動したり、新しい受け止め方を発見できたりするはずです。忘れていた懐かしい記憶がよみがえってくることがあるかもしれません。絵本の力を借りながら、ぜひ自分の心と向き合う、気づきと癒しの時間を作ってみてください」

 

Profile

絵本セラピスト / 竹下りこ

絵本セラピスト協会認定絵本セラピスト、こどもの本専門店「ブックハウスカフェ」書店員、大人に絵本ひろめ隊隊長。癒しと気づきのワークショップ「大人のための絵本セラピー」や大人にも絵本の魅力を伝える「大人に絵本ひろめ隊入門講座」を全国各地で開催。絵本の力を借りて「目の前の人を笑顔に」をモットーに活動を行っている。
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