本・書籍
2018/4/10 13:30

「ライオンのおじいさん、イルカのおばあさん」――この春、赤ちゃんではなくご長寿の動物に会いに行く

上野動物園の赤ちゃんパンダ、シャンシャンの人気が止まらない。陽気がよくなったこれからの季節はますます来園客がふえるだろう。パンダだけでなく動物の赤ちゃんは皆ぬいぐるみのようで、とてもかわいく、見ているだけで笑顔になれるし、癒されるものだ。

 

が、私は一冊の本を読み、動物園や水族館にいる動物のおじいさんやおばあさんに、たまらなく会いに行きたくなった。『ライオンのおじいさん、イルカのおばあさん』(高岡昌江・文、篠崎三朗・絵/学研プラス・刊)には、66歳のチンパンジー、46歳のイルカ、23歳のライオンなど日本で最高齢の動物たちが登場する。

 

家庭にいるペットの犬猫も、高齢になるほど飼い主との絆が深まり愛おしくてたまらなくなるが、それは動物園や水族館の飼育員さんも同じようだ。彼らが語る動物たちの歩んできた日々、生きる姿には感動させられる。

※写真はイメージです

 

最長飼育記録を持つイルカのおばあさん

本書には7頭の動物が紹介されている。飼育員さんの話とともに、動物の履歴書、アルバムもあり、それぞれの人生がとてもわかりやすく構成されている。2016年の秋に発行された本なので、その後に亡くなってしまった動物も何頭かいるし、現在も元気で長寿記録に挑戦し続けている動物もいる。

 

その中で、私が実際に会っているのが、下田海中水族館の日本で最高齢のバンドウイルカのおばあちゃん“ナナさん”だ。

 

静岡で生まれ育った私は、毎夏に家族と伊豆に行っていた。海水浴を楽しみ、水族館でイルカのショーを見て、そして温泉旅館に一泊する、というのがわが家の年に一度の恒例の旅行だった。下田海中水族館にも何度も行ったから、そこでジャンプするナナを私はこの目で見ていた。

 

ナナの履歴書(2016年7月現在)によると、1970年頃に日本近海で生まれ、1974年に下田海中水族館にやって来た。ナナは8頭の子を生んだが、台風の時に海へ逃げた1頭を除き、すべてこの世を去っていることから、イルカが長生きするのは本当に大変なことなのがわかる。

 

ナナの好きな食べ物はサンマとイカ、好きなことはのんびり泳ぐこと、得意なことはスプラッシュジャンプ、苦手なことは血を採られることとある。履歴書には一日の暮らし、飼育員の紹介もある。

 

ナナは水族館に来て、しっかしりたトレーニングを受ける前に急いでショーにデビューしたため演技が上手ではないそうだ。そして、それは40年以上そのままに。

 

ほかのイルカだったら、ごほうびの魚を減らすところです。だけど、ナナにかぎってはオーケー。ナナはショーに参加したら、とりあえずオーケー。自由な演技をしても、とちゅうでやめてもどこかへ消えても、それでもオーケー。(中略)高齢だからといって、ショーに参加させないでごはんだけあげる、というふうにはしていません。(中略)何度もきてくださるお客さんには、ナナをよく知る方も多くて、ショーを見て笑ってくださるんですよ。ナナだから許されるし、ナナだから私たちもいっしょになって笑えます。こういうの、年の功っていうんでしょうね。

(『ライオンのおじいさん、イルカのおばあさん』から引用)

 

この他にも本書では、ナナの世話好きの一面など、その魅力が余すことなく語られている。

 

皆に愛されたナナおばあちゃんは、国内のバンドウイルカの最長飼育記録を更新したものの、残念なことに去年の10月31日に天寿をまっとうした。その知らせを聞いたとき、私は寂しくて涙が止まらなかった。

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