僕はアコースティックギターが好きだ。自分で演奏するのはもちろんだが、ギター本体を眺めたり、プロのミュージシャンがどんなギターを使っているのかを調べたりするのも好きだ。
テレビなどでミュージシャンがギターを弾いていると「あれはどのメーカーのなんというギターか」というのをチェックしてしまう。ちょっと機材マニアな面があるのかもしれない。
あの人の使っているギターが気になる
もう20年以上前。テレビの深夜番組で60年代から70年代のフォークソング特集をやっていた。今は亡くなってしまった高田渡や遠藤賢司が出ていた。そのほかにも、岡林信康、なぎら健壱、斉藤哲夫、ザ・ディランIIなども出演しており、僕はその番組をビデオに録画して何回も見た。
当時はあまり気にしてなかったのだが、大人になるに連れて、そのようなフォークシンガーが使っているギターがなんなのか、興味が沸いてきた。
なかでも、なぎら健壱のギターが気になっていた。テレビで演奏するときにいつも使っているマーチンのギターがあるのだが、テレビで見る限り型番がわからなかったのだ。
ギターの側面、および背面を見るとわかるのだが、テレビ越しでは側面の木目があまり読み取れず、背面が写ることもあまりないので、わからずじまいだった。
なぎら健壱のギターがわかった
『プロがいちばん大切にしているアコギ』(アコースティック・ギター・マガジン・編/リットーミュージック・刊)という、プロのギタリストが絶大な信頼を置く「この1本」が紹介されている本がある。アコースティックギターの本は何冊か持っているが、これだけプロギタリストが使っているギターが出てくる本はあまりない。ワクワクして読んだ。
そして、そこになぎら健壱のギターが紹介されていた。使用ギターはマーチンのD-35だった。背面が3ピースになっている特徴的なギターなのだが、背面をなかなか見る機会がなかったのでわからなかったのだ。
なぎら健壱は、最近ではタカミネのエレアコなどを使っている姿も見かけるが、やはり僕にとってはD-35の印象だ。
“私、低音から弾くカーター・ファミリーだとか、カントリー・ピッキングの奏法で弾くから、低音が出ないとダメなんです”
(『プロがいちばん大切にしているアコギ』より引用)
なぎら健壱は、日本でも屈指のカントリーギターの名手。低音弦を中心に弾くので、弦はかなり太いものを張っているそうだ。
長年疑問に思っていた(しかも最近特に気になっていた)、なぎら健壱のギターの謎が解けて、すっきりした。
遠藤賢司は愛用のD-35と旅立ったのだろうか
実は、マーチンのD-35というのは、日本のフォークシンガーの使用率が高い。吉田拓郎やイルカ、遠藤賢司なども使っていた。昔からD-35は「弾き語りに向いている」と言われていたりしたが、その理由はよくわからない。多分、生音が大きいからだろうと思う。昔、楽器店の人にも「弾き語りならD-35だよ」と言われたことがあるので、そういう刷り込みがあるのかもしれない。
D-35使いは数多くいるが、中でも遠藤賢司のD-35は長年使い込まれた傷だらけのルックスがとんでもなくかっこいい。どうやら“フォークの神様”岡林信康から譲ってもらったものらしい。
そんな遠藤賢司も昨年亡くなった。本書の遠藤賢司のページにこんな記載がある。
“ホントにいい奴。死んで焼かれる時はこいつと一緒だと思っているよ。そのわりには乱暴に扱ってきたけどね(笑)”。
(『プロがいちばん大切にしているアコギ』より引用)
今頃、エンケンは空の上で愛用のD-35を弾きながら、寝図美(かつての愛猫)に「カレーライス」や「寝図美よこれが太平洋だ」などを聞かせているのだろうか。そう思うと、なんだかD-35がめちゃくちゃ欲しくなってきた。
【書籍紹介】
プロがいちばん大切にしているアコギ
著者:アコースティック・ギター・マガジン編集部(編)
発行:リットーミュージック
プロ・ギタリストが絶対の信頼を寄せるアコースティック・ギターを1本だけ紹介するという『アコースティック・ギター・マガジン』の人気連載コーナー、AGMギター・グラフ。2000年の連載開始より数多くのギタリストの愛器が登場したこのコーナーが1冊のスペシャル・ムックとなりました。ギブソン、マーティンなどのビンテージ・ギターからハンドメイドの一点ものまで、貴重なギターがずらり。レコーディングやステージで活躍してきた名手の愛器たちの写真は圧倒的な存在感を放っています。マルチ弦楽器奏者として大活躍中の高田漣、フラメンコ界を背負って立つ沖仁の2人による理想のギターについての対談も収録しています。