ネットが生み出した「現代怪異」
現代の怪異は、実にさまざまな媒体で語られています。(中略)近年では、インターネットも重要な媒体となっています。1990年代後半以降、ネット上で生まれた怪異がたくさんいます。
(『日本現代怪異事典』から引用)
怪異とは、幽霊や妖怪だけに限りません。まことしやかに語られている「都市伝説」や「恐ろしいウワサ」なども、現代では「怪異の一種」として畏怖されています。口裂け女や人面犬のような怪異だけではなく、本書『日本現代怪異事典』には、ITの影響によって発生した「こわい話」も収録しています。
たとえば、NNN臨時放送(えぬえぬえぬりんじほうそう)という項目があります。発生日時が「2000年11月26日/2ちゃんねる/テレビ板」であること。深夜にテレビを観ていたら「謎のスタッフロール」が映しだされること。なぜか自分の名前が含まれていること。そして最後に「明日の犠牲者はこの方々です。おやすみなさい」という恐ろしいメッセージが表示されること。有名な赤い部屋との共通点についても論じています。
そのほかにも、鮫島事件(さめじまじけん)、禁后(ぱんどら)、八尺様(はっしゃくさま)、遺言ビデオ(ゆいごんびでお)など、2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)スレッドや怪談投稿コミュニティを発端とする「インターネット怪異」を収録しています。現代に即した内容です。
あなたには「知る」覚悟がありますか?
本来は創作された物語であったとしても、人から人へと伝わる過程でそれが架空の出来事である前提が失われ、実際にあった話であると認識されるようになることもあるでしょう。(中略)それらは現代における、怪異の誕生の仕方の一つです。
(『日本現代怪異事典』から引用)
怪異そのものを目撃したことがなくても、怪異にまつわる「語り」を見たり聞いたりしてしまえば、「いる」かもしれない……という不安が生じます。「存在しない」ことを確信できなくなります。怪異とは、わたしたちの「認知システムの脆弱性」が生み出すゴーストなのかもしれません。
本書『日本現代怪異事典』は、約300冊の底本、約30箇所の怪異アーカイブス、怪異を扱っている学術論文などを基礎資料としています。発生の経緯、派生や類型、初出や出典をまとめています。全500ページ。
そのほかにも、「五十音順」「類似怪異」「都道府県別」「使用凶器」「出没場所」ごとに索引があるので、うろおぼえの怪異も探しやすい。1000例を超える項目、およそ400点の出典リストが明示されています。民俗学や考現学や文化人類学の研究において「怪異にまつわるエビデンス」を検証するための一助となるはずです。お試しください。
【書籍紹介】
日本現代怪異事典
著者:朝里 樹
発行:笠倉出版
戦後から二〇〇〇年前後にネット上に登場する怪異まで日本を舞台に語られた一千種類以上の怪異を紹介!類似怪異・出没場所・使用凶器・都道府県別など、充実の索引付き。こっくりさん、カシマさん、口裂け女、トイレの花子さん、ベートーベンの怪、ひきこさん…など。