私たちが日頃の会話で何気なく使っている名言。誰による名言かは知っていても、その言葉が生まれた背景まではあまり知られていない。
『名言の真実』(出口汪・著/小学館・刊)は、そんな名言の数々の裏側に迫った一冊だ。良い意味と思っていた名言が実はざんねんな言葉だったり、あるいは反対の意味だったり、読みながら私は「え~っ!」「まさか!」と思わず叫んでしまった。
うっかり使うと恥をかく名言の数々
本書の構成は、
パート1 日本の偉人のざんねんすぎる名言
パート2 世界の偉人のカンチガイされている名言
パート3 真相を知ると仰天することわざ〔日本編〕
パート4 誤解されそうなことわざ〔世界編〕
となっている。この見出しを見ただけでも興味津々になる人が多いだろう。全部で65の名言やことわざの真相が詳しく解説されていて、どのようにしてその言葉が生まれたのか、その真の意味は何だったのか、さらには名言を吐いた人物像にも迫っている。
さっそく、いくつかを抜粋してみよう。
天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず
福沢諭吉による名言だが、実はこのあとに「といへり」と続くのだそうだ。「といへり」は「~といわれている」ということ。福沢はアメリカの独立宣言に感銘を受け、1866年に発表した『西洋事情』でその全文を和訳した。独立宣言の前文には「すべての人間は生まれながらにして平等である」と書かれていて、「天は人の上に~」も同じ意味だ。しかし、福沢は実際には、日本の現状を嘆いていたのだという。
平等を謳っているようだが、そのあとに、「現実には身分の上下も貧富の差もあり、この世は不平等だ」といっている。学問を奨励するために、つかみとして使っただけ。
(『名言の真実』から引用)
これがこの名言の真相なのだ。そして、格差が生まれる背景には“学問”があり、学問をすれば賢くなり、よい仕事に就けるが、しなければ愚かになると説いたのだ。
地球は青かった
人類初の有人宇宙飛行を成功させた旧ソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンが、宇宙から地球を見て言ったとされる名言。水の惑星である地球の美しさを称える誌的な表現として広く知れわたっている。が、しかし、これはただの観測報告だったというのだ。
実際に彼が発したのは「空は非常に暗く、地球は青みがかっていた」という言葉で、客観的な観察報告にすぎなかった。ガガーリンは軍人でもあったので、冷静に発言しているのは当然のことだろう。
(『名言の真実』から引用)
言葉が後日に独り歩きし、いつの間にか広まってしまったのが真相というわけだ。
月とすっぽん
私たちが日常的によく使う「月とすっぽん」。表面的には似ていても、ふたつがまったく別で、比較すらできないことのたとえだ。
もともとは「月と朱盆(または素盆)」ということわざに由来し、「しゅぼん(すぼん)」が「すっぽん」になまったという説がある。
(『名言の真実』から引用)
朱盆は漆塗り丸いお盆のことだ。慶応年間(1865~1868年)の歌舞伎役者の演技などの評判を記した『鳴久者評判記』には、似て非なるもののたとえとして「朱ぼんに月」が取り上げられているそうだ。
朱盆がいつごろ「すっぽん」になってしまったのかというと、それは幕末の頃のようだ。当時、すっぽんには「丸」という異名があったため、いつの間にか「月とすっぽん」に変わってしまった、それが真相のようだ。
二の足を踏む者は負ける
これはイギリスのことわざで、尻ごみをしているとチャンスを逃してしまうから即断即決をせよという処世訓だ。英文でも主語はHeではじまるので、男性に向けられた言葉のようだが、そもそもは女性に向けられたものだったというのだ。
はじめて使われたのは18世紀、イギリスの劇作家で詩人でもあったジョゼフ・アディスン(1672~1719年)の作品でだ。アディスンは、代表作の悲劇『カトー』に“The woman that hesitates is lost(ためらう女は負ける)”、というセリフがあり、「プロポーズをためらっていると、相手は別の女と結婚してしまうぞ」と、危機感をあおっている。
(『名言の真実』から引用)
やがて、時を経て、この言葉は状況に応じて「He」と「She」に使い分けられるようになっていったのだそうだ。
知れば知るほどおもしろい!
この他にも、
和を似て貴しとなす(厩戸皇子)
三本の矢(毛利元就)
武士道と云うは死ぬことと見つけたり(山本常朝)
ペンは剣より強し(エドワード・ブルワー・リットン)
翼よ、あれがパリの灯だ!(チャールズ・リンドバーグ)
人民の人民による人民のための政治(エイブラハム・リンカン)
井の中の蛙大海を知らず
果報は寝て待て
お客さまは神さま
などなど、名言やことわざの意外な真相にきっと驚くだろう。本書を読めば雑談のネタが増えること間違いなし!
【書籍紹介】
名言の真実
著者:出口汪
発行:小学館
名言は“ざんねん”だった。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」(福沢諭吉)――平等な世の中を目指す言葉のようですが、『学問のすゝめ』では「実際には格差があって、それを生むのは学問をしたかどうか」だといっています。つまり、「負け組になりたくなければ勉強しろ!」という意味で、平和や平等とはなんのつながりもない“名言”だったのです。このように、名言や格言、ことわざなどの前後をひもといて、真意を明らかにしていきます。あなたがあいさつなどで引用していたあの名言、じつはまったく違う意味だったかもしれません。