現代のブログやSNSのアーカイブは、広義の日記文学です。
『土佐日記』『仰臥漫録』『断腸亭日乗』……古典から近代までのすぐれた作品群にひけをとらない、現代最高峰の日記文学こそが、芥川賞作家・西村賢太による『一私小説書きの日乗』(西村賢太・著/ 角川書店・刊)というシリーズです。紹介します。
奔放な飲み食いの記録
十一月二十九日(火)
(中略)
午後一時過ぎ起床。入浴。
手紙を四本書いたのち、締切を延ばしてもらっていた、『野生時代』の連載随筆五回目にとりかかる。深更、八枚を書いてファクシミリにて送稿。
黄桜辛口一献五合と、コンビニ弁当の焼うどんに唐揚げ弁当、レトルトのビーフシチューを飲み食いして就寝。(『一私小説書きの日乗』から引用)
西村賢太さんといえば、受賞の報せを受けたとき「そろそろ風俗に行こうかなと思っていたところだった」という発言が有名です。
本書『一私小説書きの日乗』シリーズの見どころは、芥川賞作家によるあけすけな飲み食いの記録です。弁当ふたつ、ビーフシチューと日本酒の組み合わせなど、外見による期待を裏切らない大食漢&大酒飲みっぷりを披露しています。
あの人相風体や肉体労働のイメージからは中上健次、あるいは、無頼派と呼ばれた太宰治や檀一雄のような破滅的な生きざまが連想されます。しかしながら、本書を読むかぎりでは、かならず仕事を終えてから晩酌をおこなっています。意外にマジメです。
本書『私小説書きの日乗』は、2011年3月7日〜2012年5月27日までの日記を収めています。『苦役列車』(西村賢太・著)が第144回芥川賞に選ばれたのは、2011年1月17日の出来事ですから……受賞によって増えたという「数千万円の預金残高」にまつわる具体的な記述もあります。読んでみてのお楽しみ。
甲類焼酎をビーフシチューで呑む
八月二十ニ日(月)
(中略)
深更、缶ビール一本、宝一本弱。
レトルトのビーフシチューと、手製の目玉焼三つ。最後に、赤いきつね。
(『一私小説書きの日乗』から引用)
西村賢太といえば、宝酒造の甲類焼酎です。日記を読むと、毎晩のように720mlビンを1本空けています。くわしくは後述します。
お酒のアテには、「手製の目玉焼き」や「手製のベーコンエッグ」や「手製のウインナー炒め」がよく登場します。ひとり台所で作っているなんて……西村賢太ファンとしては「萌え」を感じる記述です。
注目すべきは、焼酎とレトルトのビーフシチューの組み合わせです。乙な飲み方をしています。セブン‐イレブンなどコンビニに立ち寄ることが多いようなので、もしかするとPB(プライベートブランド)のレトルトパックかもしれません。
晩酌のシメは、カップ麺(日清カップヌードル、緑のたぬき、赤いきつね)をすすることが多いです。晩酌における一連の流れは、西村賢太ファンならばマネせずにはいられないでしょう。
ここで突然ですが、西村賢太クイズ!
賢太先生が愛飲している、宝酒造『純』のアルコール度数は?