学術研究者によるフィールドワーク報告書が売れています。たとえば、バッタと対決するためにアフリカへ行った昆虫学者が書いた本が話題になりました(新書大賞2018)。
地方自治や行政学を専門としている研究者(准教授)が、9か月のあいだ労働着を身にまとい、ケガにそなえて破傷風の予防接種をして、実際に「清掃作業員」として働いた記録があります。『ごみ収集という仕事』(藤井誠一郎・著/コモンズ・刊)という本です。あなたの知らない「ごみ収集の世界」を紹介します。
清掃作業員の1日
肉の塊が入ったビニール袋が出てきた。回転盤が作動した瞬間、こちらも破裂。今度は肉の塊や汁を浴びてしまった。(中略)道路に肉片が散乱し、独特の臭いが蔓延した。
(『ごみ収集という仕事』から引用)
著者の藤井誠一郎さんは、大東文化大学法学部政治学科の准教授です。現場作業員としてごみ収集にたずさわることで「3つの改善点」を見出しました。
(1)水気を少なくする
収集車の回転盤にごみ袋を放り込むと、袋がやぶれて生ごみの汁が飛び散ります。作業者たちはプロフェッショナルなので耐え忍びますが……じつは、清掃職員がもっとも恐れているのは「飛沫が通行人にかかる」という事態です。それを気にしながらの重労働であり、心身ともに疲れ果てます。
(2) きつく結ぶ
時間に追われているため、片手で2〜3つのごみ袋をつかんで投げ入れます。そのとき、袋の結び目がユルユルであればごみ袋の中身をぶちまけることに。収集作業の妨げになるので、しっかり結びましょう。
(3)分別して出す
燃えるごみの収集日なのに、容器包装プラスチックやアルミ缶などが混ざっていれば、回収せずに置いていく決まりになっています。厄介なことに、収集所に違反ごみ袋を置いていくと、住民から「回収を忘れている!」というクレーム電話が寄せられるそうです。苦労がしのばれます。
ごみ収集は重労働ですが、市民の心がけによって清掃職員の負担は減ります。
軽小型のごみ収集車とは?
新宿区には小型プレス車や小型特殊車の車幅では通行できない狭小路地が多い。(中略)その対策として考え出されたのが軽小型車である。
軽小型車は、狭小路地の可燃ごみや不燃ごみの収集はもちろん、臨時ごみへの対応、機動性を活かした新宿二丁目や回収し忘れへの対応、クレーム処理と、あらゆる収集業務を担う。
(『ごみ収集という仕事』から引用)
ごみ収集車といえば、モーターの轟音が鳴りひびく「回転盤プレス式」を連想します。じつは、東京都新宿区のような狭小路地の多いところでは、軽トラックを改造した「軽小型車」が欠かせないそうです。
軽小型車の乗務は、歴戦のベテラン職員たちが務めています。なぜなら、軽トラックを改造した収集車にはプレス機能がないので、たくさん回収できるよう荷台に積み上げていくテクニック求められるからです。ごみ袋が崩れ落ちないよう「微妙にジグザクに運転する」という技術は、まさに職人芸です。
本書『ごみ収集という仕事』では、清掃職員の1日のスケジュールをくわしく紹介しています。