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2018/9/11 22:00

どんな専門書よりも犬と生きることが理解できる――馳星周『ソウルメイト』は犬を飼いたいと思う人の必読書だ

“犬の十戒”をご存じだろうか? インターネット上で広く世界に伝わっている有名な詩で、原文は英語で作者は不明、犬を愛する人々が何度も何度も読み返しては、飼い主のあるべき姿を模索しているのだ。

 

馳星周氏といえばノワール小説の旗手だが、犬のために東京から軽井沢へ引っ越してしまうほどの愛犬家としても知られている。『ソウルメイト』(馳星周・著/集英社・刊)は、犬と生きる意味を私たちに教えてくれる家族小説だ。7つの犬種と7つの家族の心温まる物語が収められているが、そのイントロに出てくるのが“犬の十戒”だ。

 

 

馳星周・訳“犬の十戒”

1 ぼくは10年から15年ぐらいしか生きられないんだよ。だから、ちょっとでも家族と離れているのは辛くてしょうがないんだ。ぼくを飼う前に、そのこと、考えてみてよね。

2 父ちゃんがなにをして欲しがってるのか、ぼくがわかるようになるまでは忍耐が必要だよ。

3 ぼくのこと信頼してよ。ぼくが幸せでいるためには、みんなの信頼が必要なんだから。

4 長い時間怒られたり、罰だっていって閉じ込められたりするのはごめんだよ。みんなには仕事だとか遊びだとか友達がいるでしょ? でも、ぼくには家族しかいないんだよ。

5 いっぱい話しかけてよ。人間の言葉はわからないけど、話しかけられてるんだってことはわかるんだ。

6 ぼくにどんなことをしたか、ぼくはずっと覚えてるからね。

7 ぼくをぶつ前に思い出してよ。ぼくはみんなの骨を簡単に噛み砕けるんだよ。でも、ぼく、絶対にそんなことしないでしょ?

8 言うことを聞かないとか、頑固になったとか、最近怠けてばかりだとか言って叱る前に、ちょっと考えてよ。食事が合ってなかったのかも。暑い中ずっと外にいて体調が悪くなったのかも。年をとって心臓が弱くなってるのかも。ぼくの変化にはなにかしら意味があるんだから。

9 ぼくが年をとってもちゃんと面倒見てね。みんなもいつか年をとるんだからさ。

10 ぼくの嫌なところに行くときは、お願いだから一緒にいてよ。見てるのが辛いとか、見えないところでやってとか、そういうことは言わないでよ。そばにいてくれるだけでいろんなこと、頑張れるようになるんだ。愛してるよ。それを忘れないでね。

(『ソウルメイト』から引用)

 

犬を飼いたいと思ったら、まず、この犬の十戒を守れるのか、家族でよく話し合う必要があるだろう。

 

 

最高のソウルメイトと出会うために

犬の十戒を守ると誓ったら、次は犬種選びだ。本書には、チワワ、ボルゾイ、柴、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ジャック・ラッセル・テリア、バーニーズ・マウンテン・ドッグという7種の犬が登場する。

 

犬を扱った小説を私はこれまで何冊も読んだが、犬種の特徴、性格がそれぞれのストーリーの中で、さりげなく、しかし的確に描かれていると感じたのは、この本がはじめてだった。七種の犬と、彼らと暮らす人間たちが織り成す物語を読んでいると、この犬種を飼ったらこんな生活になるかもと疑似体験ができてしまうのだ。

 

犬種選びはとても重要だと思う。住んでいる環境、家族構成などによってベストな犬は違ってくるからだ。

 

 

ダルメシアンか、ラブラドールか?

わが家の場合はラブラドール・レトリバーを選んだ。が、そもそもは『101匹わんちゃん』が大好きだった当時6歳の娘は、ダルメシアンを飼いたいと言い張っていた。しかし犬にとても詳しい知人が「ダルメシアンは猟犬だから全速力で走るのが好きな犬。映画の中でも走るシーンが多かったでしょ? 都会で飼うのは犬のストレスがたまるし、しかも子どもにひとりで散歩させるのは難しいと思う。妹として犬を飼うならラブラドールの雌にしなさい、きっといい相棒になれるから」とアドバイスしてくれたのだ。

 

それで娘を説得してラブラドールを家族の一員として迎えたが、これは大正解だった。社交的で温厚で、ぼんやりとした妹犬はどんなときも、一人っ子の娘を姉として慕い、寄り添い、支え続けて十数年を共に過ごし、共に成長してこられたのだ。

 

いっぽう、もしも私たち家族が大自然の中で暮らしていて、ノーリードで自由に散歩ができる環境だったならば、ダルメシアンは最高の家族の一員になっていたに違いないとも思うのだ。

 

 

人間を癒してくれる愛すべき犬たち

本書を読んでいると、言葉を発しない犬が、家族の心情をとてもよく理解し、必要なときにそっと寄り添ってくれることがわかる。

 

「チワワ」は不治の病に冒された妻が、ワンマンな夫に遺していく唯一の家族。大型犬しか犬と思っていなかった夫が、小さなチワワのつぶらな瞳に救われていく。

 

「ボルゾイ」は継父の犬で、息子の言うことはまったく聞かずにときには牙をむいていた。が、ある日、大切な家族を犬が自らの意思で勇敢に救い出すことになる。

 

「柴」は震災で命を落とした母の犬。警戒区域で野犬となったことを知った息子がボランティアに参加して大切な家族の一員を捜しに行く。

 

「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」は前飼い主に虐待を受け、捨てられた犬で人間を恐れていた。新しい家族に迎えられてもなかなかケージから出てくることはできずにいた。

 

「ジャーマン・シェパード・ドッグ」は引退した警察犬。その飼い主が、ある日、登山で犬が怖くてたまらない女性と出会い、恋がはじまる。

 

「ジャック・ラッセル・テリア」のしつけが出来ず、困り果てた都会暮らしの母子が、軽井沢に住む別れた夫に助けを求める。

 

「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」は病に冒され余命がわずかだと宣告された夫婦の愛犬。友人の別荘を借り、残された日々を大自然の中で過ごすことになる。

 

どの物語も、心にじんわりと響き、「ああ、犬と一緒に生きるってなんて素敵なんだろう」と思わせてくれる。愛犬家はもちろん、犬を飼ったことのない人にも、ぜひ読んでほしい一冊だ。

 

【書籍紹介】

ソウルメイト

著者:馳星周
発行:集英社

人間は犬と言葉を交わせない。けれど、人は犬をよく理解し、犬も人をよく理解する。本当の家族以上に心を交わし合うことができるのだ。余命わずかだと知らされ、その最期の時間を大切に過ごす「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」、母の遺した犬を被災地福島まで捜しに行く「柴」など。じんわりと心に響く、犬と人間を巡る7つの物語。愛犬と生きる喜びも、失う哀しさも包み込む著者渾身の家族小説。

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