たとえば、スーパーのレジですぐ後ろに並んでいた人。あるいは、電車で真向いの席に座っていた人。そして、マンションの隣の部屋に住んでいる人。近ごろ気になって仕方がないことがある。口角が下がりまくっている人が多すぎるのだ。
何がそんなにつまらないの?
何がつまらないんだろう。何が気に入らないんだろう。目が合った瞬間に微笑みかけてほしいなんて、もちろん望まない。かといって、「あんな表情をしてると損なのに。かわいそうだな」なんてことは一切思わない。が、気にはなる。
「そういう顔なんだから、仕方ないじゃない」と奥さんは言う。うん。確かにそうだろうし、仕方ないことなのかもしれない。でも、それだけの理由では納得しきれない部分がどうしても残ってしまう。あまりにも子どもじみているだろうか。
口角が下がる理由
口角が下がるというのは、物理的な現象だ。口角を上げるのに使うのは「口輪筋」や「翼突筋(よくとつきん)」。この働きが衰える理由は食生活にあるらしい。柔らかいものばかり食べていると食べ物を細かく噛みくだく必要がなくなり、噛む回数も減る。こうした食生活を続けていると、口角を上げるのに使う筋肉が鍛えられる機会が必然的に減ってしまう。
それに、笑うことが少ないと顔の表情筋全体が下がって――要するに重力に負けて――、広頚筋(下顎部の下縁から上胸部にわたる頚部の広い範囲にわたる皮筋)がゆるんで皮膚全体がゆるんで皮膚の張りがなくなり、輪郭がたるんでいわゆるブルドッグフェイスになるという。
ただ、筆者がこの原稿で触れていきたいのは、外見的なことだけでは決してない。それは、“オーラ”という言葉でも表現できると思う。その人がまとっている楽しげな雰囲気とか、接しやすさとか、あるいは感じのよさ。外見的なものの向こう側にある、面と向かって接して初めて伝わってくる感覚。そういうものの話だ。
チャンスをもたらす“感じのよさ”
筆者が考えに考えて言葉にしたかったこと。それは『なぜあの人は感じがいいのか。』(中谷彰宏・著/学研プラス・刊)のまえがきにわかりやすく書いてある。
家庭教師を雇う時も、教えかたのうまいヘタは、その場ではわかりません。「感じがいいか、どうか」は、会った瞬間にわかります。「僕は教え方がうまいので、一度見てください」と、どんなにアピールしても、ほかに「感じのいい人」が来たら、その人が採用されるのです。チャンスがつかめるかどうかは、『感じがいいか、どうか』で分かれます。
『なぜあの人は感じがいいのか。』より引用
筆者はこのスタンスが正しいと思う。いや、むしろこれしかないと感じる。極論だという人は、もう少し読み進んでいただきたい。
道を聞く時に、道をよく知っている人にピンポイントで聞くのは不可能です。結局、「感じのよさそうな人」を探して聞きます。「感じのいい人」は、出会いが多いのです。
『なぜあの人は感じがいいのか。』より引用
中谷さんは言う。出会いが多い人は、新しいことを始めることができる。友だちができたり、仕事を任されたり、いろいろなチャンスが生まれる。だから、チャンスをもらうには「感じのよい人」になればいいのだ、と。
チャンスの芽は日常的なシーンにある
この本では、明確な定義が難しい“感じのよさ”という概念が、59種類の日常的なシーンを通してつまびらかにされていく。そしてこの過程の一つひとつが、チャンスの芽となるのだ。いくつか紹介しておこう。
・才能を感じのよさで逆転しよう。
・否定されることを楽しもう。
・相手の払っている努力に気づこう。
・単純作業を、ニコニコしよう。
・相手に「通常」を求めない。
59個のチャンスの芽は、以下のような7章に分けられている。
Chapter 1:感じのいい人が選ばれる
Chapter 2:メリットより、デメリットを見る。
Chapter 3:まわりのすごさが、わかる。
Chapter 4:面白がり方を、身につける。
Chapter 5:成長したいという、欲を持つ。
Chapter 6:楽しそうに、話す。
Chapter 7:1人の見方を、大切にする。
改めて思った。チャンスというのは、本当にごく普通の日常の中に転がっている。それに気づけるかどうかは、自分のスタンスによって決まる。ハリウッドで活躍するスティーブン・プレスフィールドという脚本家が書いた本にあった一文を思い出した。
ミューズ(芸術の女神)は、ただ待っていても訪れてくれない。だから机の上をきれいに保ち、自分自身も身ぎれいにして、ミューズを迎え入れる準備を常に整えておかなければならない。
こうした姿勢もまた、“感じのよさ”を醸し出し、まとっていくためのひとつの方法論なのではないかと思うのだ。
今日も口角上げていこう
「情けは人の為ならず」という言葉がある。『なぜあの人は感じがいいのか。』を読んだ今、筆者は「笑顔は人の為ならず」的なマインドセットを保っておこうと思っている。あえて硬いものばかり食べ、いつもニコニコしていよう。“感じがよい”自分がまとう空気は、ほかの“感じがよい”人がまとう空気と共鳴するにちがいない。その連鎖がさざなみのように広がって、口角が下がっている人がやがていなくなることは、間違いないのだ。
【書籍紹介】
なぜあの人は感じがいいのか。
著者:中谷彰宏
発行:学研プラス
あの人は能力がそこそこなのに、なんで仕事のチャンスを与えられるのか――。「感じのよさ」という点数がつかないふわふわしたもので、チャンスがつかめる人、つかめない人に分かれる。 今日からすぐに実践できる、信頼を勝ちとるコツを紹介。