風の吹くまま、気の向くまま。
『男はつらいよ』シリーズが大好きで、2019年12月27日から公開される『男はつらいよ お帰り 寅さん』(https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/movie50/)の予告を見ただけて電車の中で号泣してしまい、「この人大丈夫かな?」と思われたでしょう。また泣いちゃうので、予告編は見れていないのですが(笑)、寅さんのまっすぐな生き方、周りの人たちとの愛、マドンナが抱える苦悩、そして寅さんの笑顔。思い出すだけで、これを書きながらもウルウルしちゃいます。
2019年下半期、「1年後はオリンピックです!」とか「働き方改革で最高だぜ!」とか「ラグビーの世界大会だ!」とか「景気回復! いぇーい!」と明るい方向には行かず、喜怒哀楽の「怒」と「哀」ばかりが世の中に蔓延しているような、ちょっと呼吸しづらい日常を過ごしている方が多いのではないでしょうか?
そこで今回は、そんな毎日にクスっと笑えるような明るさをもたらしてくれる『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』(佐藤利明・著/中日新聞社・刊)から、あの世で寅さんのマドンナになりたい! 同じくフーテンの私がチョイスした、混沌とした時代でも忘れたくない言葉をお伝えします。
『男はつらいよ』はドラマから始まった! 映画化にはファンの抗議がきっかけ
1969年、今から50年前にスタートした映画『男はつらいよ』シリーズは、1997年の『寅次郎 ハイビスカスの花 特別篇』までの49作品が公開されています。40代以上の方は、リアルタイムで寅さんを知っているという方も多いかもしれませんが、サブスクリプション動画配信サービスで全シリーズが配信されているので、見たことある! 知っている! という20〜30代も増えてきているのではないでしょうか?
『幸福の黄色いハンカチ』『釣りバカ日誌』でもおなじみの山田洋次さんが監督した『男はつらいよ』シリーズですが、こちらはもともとドラマスタートだったそうです。
テレビの最終回(六十九年三月二十七日放送)で寅さんは、奄美群島の徳之島でハブにかまれて死んでしまいます。その衝撃の結末に、抗議が殺到、山田監督はそのファンの声に、ドラマの主人公が作者の手を離れ「みんなの寅さん」になっていることを知り、映画化を決意します。
(『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』より引用)
ちなみに寅さんを演じた渥美清さんは、寅さんの職業でもある口上を上手に話すテキ屋さんに小さいころから憧れがあったんだとか。こうして作品に憧れを投影したことで、渥美清さんの寅さんではなく、みんなの寅さんとして愛されたのかな? なんて思いますよね。ドラマからのスタートで、50年も世代を超えてたくさんの人に愛される作品って、後にも先にもないのではないでしょうか? だって、あのスターウォーズだって、1977年公開ですからね。日本が世界に誇れる、壮大な家族の映画ですよ!(笑)
寅さんは、「愛」の伝道師?
寅さんってどんなイメージ? と聞くと、多くの人は「あぁ〜毎回マドンナにフラれるんでしょ?」と答える人も多いでしょう。
……実際その通りなんですが(笑)、どのお話を見ても寅さんは愛らしいし、まるで初めて恋に落ちたかのように幸せそうな気持ちをするんです。寅さんシリーズは、ほぼ毎年お盆とお正月の1年に2作品発表していたので、同じ時代を寅さんが生きていたとすると、毎年2回は恋に落ちていたんです。すごい(笑)。そんな寅さんの恋愛論が、第16作『男はつらいよ 葛飾立志篇』で語られています。
ああ、いい女だなあ、と思う。
その次には、話がしたいなあ、と思う。
その次には、もうちょっと長くそばにいたいなあ、と思う。
(『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』より引用)
これは、劇中で考古学者でこれまで恋愛とは無縁の生活をおくってきた田所先生に「恋愛とは何か?」と問われて答えた内容です。さらに寅さんは、続けるのです。
「そのうちこう、なんか気分が柔らかくなってさ、ああもうこの人を幸せにしたいなあと思う。もうこの人のためだった命なんかいらない、もう俺死んじゃってもいい、そう思う。それが愛ってもんじゃないかい」。
(『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』より引用)
くぅ〜〜〜〜!!!
あまーーーい!!!
こんな思いで恋をしている寅さんを思うと、マドンナが惹かれていく理由もわかりますよね。それに寅さんは、誰に対しても本当に平等。ちょっとカッコつけて飾ってしまうときもありますが、どんな身分の人にも、どんな境遇でも、「寅さん」の芯はブラさずに向かい合います。そんな寅さんを見ていると、あぁ自分はなんてひねくれているんだと思ってしまったり、大事なことはちゃんと「ことば」で伝えよう! と思うんですよね。
主役の寅さんだけじゃない! 家族やマドンナたちにもいい言葉がたくさん
『男はつらいよ』シリーズは、寅さんを中心にストーリーは展開されていきますが、周りを固めるレギュラー出演している家族、そして旅先で出会うマドンナや友人たちが出演します。
レギュラー出演している家族は、倍賞千恵子さんが演じる寅次郎の妹・さくら、さくらの旦那さんは前田吟さんが演じる博、さくらと博のひとり息子の満男(2〜26作:中村はやとさん、9作のみ:沖田康浩さん、27〜49作:吉岡秀隆さん)、おいちゃんにおばちゃん、タコ社長、御前様、源ちゃんと個性豊かなキャラクターがたくさん登場します。
『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』には、そんなレギュラー出演している家族の言葉も一部ですが掲載されています。今回は、寅さんの妹、さくらの言葉をご紹介しましょう。
一度はお兄ちゃんと交代して、あたしのこと、心配させてやりたいわ。
(『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』より引用)
どうしてこの言葉が出たのか、映画をご覧の方は「うぅ〜(涙)」と思うでしょうが、映画を知らない人には「どんだけな兄貴なの??」な言葉でしょう(笑)。この混沌とした2019年下半期を、『男はつらいよ お帰り 寅さん』がパッと明るく前向きにしてくれるだろうと願いながら、公開までは『寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま』で、寅さんの言葉に耳を傾けていきたいと思っています。
【書籍紹介】
寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま
著者:佐藤利明
発行:中日新聞社
リアルタイムで映画を楽しんだ世代はもちろん、若い世代からも反響が続々! 『帝釈天で産湯を使い…』 『それを言っちゃおしまいよ』 『以後、見苦しき面体、向後万端お引き立ての程、よろしくおたのん申します』 ご存じ『男はつらいよ』シリーズの主人公といえば「フーテンの寅」こと寅さん。 シリーズのそこかしこに、しんみりすることばやあたたかいことば、クスッと笑ってしまうことばもあれば、時にはちょっぴり下品なことばも…。「寅さんのことば」すべてに寅さんの優しさ、大きな愛が溢れています。 本書では、娯楽映画研究家で、ラジオ「続・みんなの寅さん」パーソナリティーの著者が、そんな珠玉のことばたちを拾い集め、解説しました。