職業柄、言い回しには気を遣っているほうだと思う。原稿を書いているとき、同じような意味の言葉が続きそうなときは、違う言い回しを使って書くというのは、基本中の基本だ。
なので、類語辞典のようなものが好きだし、小説や雑誌などでおもしろい言い回しなどを見つけると、ストックしておいたりすることもよくある。
言葉の意味だけではなく例文も掲載されている良著
『大人の語彙力「言いまわし」大全』(齋藤 孝・著/KADOKAWA・刊)は、タイトルの通り、さまざまな言い回しが掲載された書籍だ。その冒頭にはこう記されている。
「語彙力」は、「語彙数×運用力」で決まるというのが私の考えです。
(『大人の語彙力「言いまわし」大全』より引用)
確かに、いくらいい言い回しを知っていたとしても、それを実際に使えなければ意味がない。ちゃんと生きた文章なり会話の中で使えるようにならなければいけない。
本書は、その点に配慮。言葉の意味やポイントを解説するとともに、実際の例文が掲載されている。実際の文章の中で使われている例を読めば、どんな場面で使われているかが理解できる。かなり実用的な書籍だ。
而立、耳順。いったい何歳?
本書を読んでいて、ほほうと思ったのが、年齢に関する言い回しだ「不惑」は40歳のことを表しているのは割と知られているだろう。では、「而立」(じりつ)は何歳のことだろうか。これは30歳のことを表す。
『論語』の「三十而立つ」(さんじゅううにしてたつ)による。
(『大人の語彙力「言いまわし」大全』より引用)
そしてもうひとつ。「耳順」(じじゅん)も年齢に関する言い回し。こちらは60歳だ。
『論語』の「六十而耳順う」(ろくじゅうにしてみみしたがう)による。
(『大人の語彙力「言いまわし」大全』より引用)
もし、自分が60歳になったとき「私、今年60歳になります」や「今年還暦なんですよ」というより、「今年耳順になります」と言ったほうが、なんだかとても知的に見えないだろうか。ただし、話す相手が耳順を知っていればの話だが。
現代版の「オタク」が「好事家」
これまで目にはしていたけれど、ちょっと意味を間違えていた言い回しがあった。「好事家」(こうずか)だ。僕は、「下世話な人」という意味合いだと思っていたが、そうではなかったようだ。本書によれば「物好きな人、風流を好む人」という意味ということだ。
「当社の社長が好事家なもので、社内には珍しい美術品が飾ってあるんですよ」
(『大人の語彙力「言いまわし」大全』より引用)
なるほど。高尚な趣味を持っている風流家というような意味のようんだ。現代風に言えば「オタク」のような意味合いらしい。文例を見ても、「金にものを言わせた社長が高いものを集めて自慢げに飾っている」という感じにも読めてしまうので、注意が必要だ。
言葉は使いこなせてこそ意味がある
言葉というものは、知識として知っているだけでは役に立たない。やはり、使いこなせてこそだ。
本書は、言い回しの意味だけでなく例文も載っているので、どんなときに使うのかが想像しやすいのがポイント。気になる言い回しがあったら、普段の会話や文章内で使ってみてはいかがだろうか。
ただし、あまり使いすぎると「こいつ、なんだか難しいこと言ってるな」と思われてしまうので、ほどほどにしておくのがいいだろう。
【書籍紹介】
大人の語彙力「言いまわし」大全
著者:齋藤 孝
発行:KADOKAWA
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