本・書籍
2019/9/12 21:45

「神様よりも裕福」な「クレイジー・リッチ!」なアジアの富豪の世界を垣間見てみる!

「クレイジー・リッチ!」という映画、ご覧になりましたか?

 

昨年の夏、公開されたハリウッド映画です。アメリカで大ヒットを記録し、評論家からも大絶賛を受けたといいます。出演者がほぼアジア系の俳優であったことも、ハリウッドでは珍しいことです。

 

私はこの映画をシンガポールに行く際、飛行機の中で観て、なんて面白いのだろうと驚きました。近来、まれに見るロマンティック・コメデイだと思います。

 

映画「クレイジー・リッチ!」と原作『クレイジー・リッチ・アジアンズ』

物語はひと言で言えば、シンデレラ・ストーリー。玉の輿に乗る方法という副題がつきそうな夢のお話。最初はそう思っていました。

 

日本に帰ってから、原作を読みたくてたまらなくなりました。映画が醸し出すロマンティックでゴージャズな余韻に浸ってはいたものの、「いや、なんというか、ちょっと違う。それだけではないんじゃないかな」という気持ちをぬぐいきれなかったのです。

 

そこで、早速、映画の原作となった『クレイジー・リッチ・アジアンズ』(ケビン・クワン ・著、山縣みどり・訳/竹書房・刊 )を取り寄せました。上下2巻もある長い物語ですし、登場人物があまりに数多くて、中国系の名前に慣れない私は、最初、頭の中がごちゃごちゃになりました。

 

物語の格となる三つの家族、ヤング家、ティエン家、シャン家の家系図をある程度頭にいれておかないと、誰と誰が夫婦で、誰が両親なのかわからなくなります。従兄弟となるともう絶望的です。

 

「『カラマーゾフの兄弟』じゃないんだからさ、もう少し、わかりやすくお願い」と、憎まれ口を叩きながらも、やがて私は本から顔を上げることができなくなりました。

 

翻訳家・山縣みどりの丁寧な解説や註に助けられ読み進むうち、これは単なる玉の輿物語ではないと気づきました。莫大な富を手にした家が、何をどう守ろうとしているのか、そのために何をすべきかについて、事細かに描いた物語だと気づいたからです。

 

彼らは人もうらやむ贅沢な暮らしを送っています。けれども、お金があるゆえの猜疑心に苦しみ、鬱屈した思いを抱え、たまらない不安にさいなまれています。だから、その苦しみを買い物と噂話で解消する日常を送るしかないのではないかとさえ思いました。それも何代にもわたって……。

 

シンデレラ・ストーリーの結末は?

物語の主人公は、中国系アメリカ人のレイチェル・チュー。生まれてすぐに父親を亡くしたため、母親の手ひとつで育てられました。チャンスの国アメリカで努力したレイチェルは、今ではニューヨーク大学で経済学の教授として活躍しています。

 

北京語を話すことはできますが、普段はアメリカ人として行動しています。学生を指導する態度は厳しく、アジア人だからといって卑屈になってはいません。

 

そんな彼女の恋人は、ニック・ヤング。レイチェルと同じ大学で歴史学を教えていて、二人は同僚でもあるのです。ただ、彼はシンガポールでも有数のお金持ち、つまりクレージー・リッチと呼ばれる大富豪の御曹司でした。

 

夏休みを前に、ニックはレイチェルを旅行に誘います。親友の結婚式で介添人をつとめるためシンガポールに帰郷するので、一緒に行って欲しいというのです。彼はレイチェルを家族や親戚に紹介してプロポーズしたいと考えています。ただ、自分が大富豪の跡取りだとは言えずにいます。レイチェルを萎縮させたくなかったのでしょう。

 

 

いざ、シンガポールへ

こうして、レイチェルはニューヨークを出発し、シンガポールの空港に降り立ちます。そして、夢のように豪華なホテル暮らしと、おいしいお料理で大歓迎され、自分が王子様に出会ったシンデレラだったことに気づきます。

 

ところが、夢はすぐに悪夢に変わります。アメリカでは母子家庭で育ったことにひけめなど感じていなかったのに、周囲から「財産目当てでやってきた計算高い女」という冷たい視線を受け、露骨な意地悪もされて、いじけてしまいます。何よりもニックの母親からの拒絶感あふれる態度……。

 

それでも、親友ペク・リンの助けを得て、レイチェルは蘇ります。そして、素敵なドレスを甲冑のようにまとい、毅然と結婚式に参加するのでした。そして……。物語の結末は、これから読む方のために言わないでおきましょう。

 

 

お金持ちも大変だ

映画にも本にも、派手を通り越しためまいがするような豪華なパーティが描かれます。

 

有名なマリーナベイ・サンズの天空のプールで、シンクロナイズドスイミングが行われるのですから、もう何が何だかわかりません。そんなまさかと思いつつも、億万長者が数多く暮らすシンガポールならあり得るなと思わせるストーリー展開に、私はすっかり魅了されました。

 

不思議なことに、私までがパーティに参加させてもらっているような錯覚に陥ります。描写が大変に具体的なので、目の前でパーティが行われてるかのような気分になるのです。それに、「シンガポールだもの、なんでもありよね」と思わせる力が『クレイジー・リッチ・アジアンズ』にはあります。

 

読み終わった後、ため息をつきながら思いました。

 

人間、お金持ちになるのはそれだけでもちろん大変です。けれども、賢いお金持ちになるのは、もっと大変です。親から受け継いだ巨万の富は、子どもや孫をスポイルし、駄目な人間にしてしまうこともあるでしょう。富は貧乏以上に人をむしばむものかもしれません。

 

 

著者ケビン・クワンについて

著者のケビン・クワンも主人公のニックと同じで、シンガポールの名家に生まれた中国人です。11歳までシンガポールで育ち、実際にクレイジー・リッチな人々の暮らしを知っています。特に、両親からくり返し聞かされたシンガポールの華やかな記憶は、彼の頭にしみついています。

 

クワン家はシンガポールからアメリカに渡るという選択をしました。当然、ケビン・クワンもアメリカで教育を受け、美術大学を卒業した後にクリエイティブ・スタジオを設立し、数々のプロジェクトを成功させています。『クレイジー・リッチ・アジアンズ』は、彼の作家としてのデビュー作となりました。

 

翻訳者である山縣みどりは、あとがきでこう述べています。

 

登場人物のひとり、ゴウ・ペク・リンが「神様よりも裕福」と表現したクレイジー・リッチとはすなわち、プラナカン(海峡華人)の富裕層。十五世紀末から東南アジアに移住し、地域コミュニティーに同化した中華系移民の末裔

『クレージー・リッチ・アジアンズ』より抜粋

 

ちなみに著者であるケビン・クワンもプラナカンの一人だそうです。

 

お金が大好きな人も、お金がなくて困っている人も、クレージー・リッチな生活をのぞいてみてください。憧れの億万長者。なってはみたいけれど、なったら大変そう……。けれども、のぞき見するのに、これほど面白いものはないでしょう?

 

【書籍紹介】

クレイジー・リッチ・アジアンズ

著者:ケビン・クワン (著)、山縣みどり (翻訳)
発行:竹書房

恋人ニックに誘われて彼の故郷シンガポールを訪れた中国系アメリカ人のレイチェルは、彼がアジア屈指の名家、ヤン家の御曹司であることを知る。億万長者の彼の一族の生活を目の当たりにしてレイチェルは戸惑うが、ニックの母や親族・友人たちは彼女を玉の輿狙いと決めつけ二人の仲を引き裂きにかかる……。シンガポール華僑の桁外れにリッチな暮らしぶりや、富、血筋、人脈への滑稽なまでの執着が、ユーモアと皮肉たっぷりに華やかに描かれる。

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