最近、モンスタークレーマーの話を見かけます。店員のしたミスを執拗に責め立て、土下座を強要して逮捕された例もありますし、服に熱いお茶をかけられたと何時間も店長をいじめる人もいるようです。
最近増えているようにも見えますが、こうした人たちは、なぜ生まれるのでしょう。
クレイマー発生の理由分析
『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』(NHK「クローズアップ現代取材班」・編著/文藝春愁・刊)は、モンスタークレーマーの現状や対策などをルポしている書籍。ここでは大学教授などの複数の識者がモンスタークレーマーを分析しています。
景気停滞鬱憤タイプ
複数の識者が、景気停滞をクレーマー発生の理由に挙げていました。収入面に不安を抱えると、それが大きなストレスでとなるようです。法政大学経営大学院・藤村博之教授は「働いても豊かになれないイライラや不満が溜まり、それを発散させようと、立場の弱い人へと向くのではないか」と分析しています。本人も気づいていないストレスが、店員やコールセンターのオペレーターいじめへと向かっている可能性もありそうです。
あきらめない高齢者タイプ
また、高齢者が、クレーマー化する事例も増えています。精神科医・片田珠美さんは高齢化社会となり高齢者の数が増えているということも踏まえたうえで、核家族化が進み、高齢者の知恵を披露する機会が減り、自分が必要とされている実感が欲しくてクレーマーとなる例も挙げています。企業に提言をしている、つまり自分がしていることは有意義なことだと考えている人もいるのかもしれません。
SNS拡散タイプ
近年増えているのが、SNSにお店の悪口を書き込み拡散させるタイプのクレーマーです。これは、お店とクレーマーだけの問題ではなくなり、周囲のお店へのイメージもダウンさせかねません。関西大学社会部の池内裕美教授は「情報化社会が一因となって世の中全体が疲れているから苦情が増えている、という気がしなくもない」と分析しています。長時間SNSに接する日頃のストレスがクレームへと向かっているのでしょうか。
テクノ依存症と評価社会
テクノ依存症という言葉があります。ゲームやネットに没頭して、人間に対してのコミュニケーションが苦手となるというものです。オンラインの世界は白か黒かがハッキリ出やすいのです。ゲームなら勝ちと負け、ネットでもYESかNO、もしくはミシュラン形式の星評価、さらにフリマサイトなどで自分自身も評価されてしまうというかつてなかった社会で、人々は従業員や商品にも厳しいジャッジを下しがちになっているのかもしれません。
また、白黒はっきりつくオンラインで過ごす時間が長いと、ちょっとしたヒューマンエラーにイライラしてしまう人もいるようです。オンラインの世界では起きない「想定外のミス」への許容度が低くなっているのを私も感じます。怒りをぶつける相手にも家族や生活があるということを想像しようとはしない人が増えているのではないでしょうか。
弱者が声をあげる時代
本書を読むと、最終的には法的手段に出ることでクレイマーと対決するしかなさそうです。これは、学校でのいじめ事件とも似ています。今まではいじめられた生徒は泣き寝入りすることが多かったのですが、最近はいじめの加害生徒を訴える事例も増えています。また、夫婦間暴力(DV)や保護者による子への虐待も、最近は配偶者や保護者が逮捕されるニュースがよく出ます。
理不尽な責めに耐えてきた従業員らも、ついに声をあげざるをえなくなった、それほどにクレームが精神的に耐え難くなってきたのかもしれません。いじめやDVや虐待も、命の危険があるようなほどエスカレートすることがあります。モンスタークレーマーに責められ、心の調子を崩し、退職せざるをえなくなった人もいるのです。法の専門家の助けも借りながら、高圧的な客に対してNOを言う。そんなお店がこれからは増えてくるでしょうし、そうあってほしいと思っています。
【書籍紹介】
カスハラ モンスター化する「お客様」たち
著者:NHK「クローズアップ現代+」取材班・編著
発行:文藝春秋
従業員のささいなミスでキレる、暴言を吐く、終わらないクレーム、威嚇・脅迫、金品や土下座の要求、いきなり実名をさらしてネットにあげるーーモンスター化する「お客様」が増えている。パワハラ、セクハラと並び、今や世界的な現象になっているカスタマー・ハラスメント(顧客からの悪質なクレームや迷惑行為)。かつては反社会的勢力のやり方と言われたような刑法スレスレの悪質クレームを、今やごく普通の一般市民が行う。どこでどんなことが起きているのか。なぜ、起きるのか。どうすれば良いのか。NHKの人気報道情報番組「クローズアップ現代+」で2回放映し、大反響を呼んだ「カスハラ」の実例と分析、処方箋を、放送し切れなかった情報までまとめて、待望の書籍化!
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