同棲していた彼氏に殴られ、裁判を起こした女性を描いたコミックエッセイ『ダメ彼を訴えます!!』(二星 星・著/ぶんか社・刊)。
人を殴って逮捕されることは日常茶飯事とは言わないけれど、よくあることです。でも、交際中の恋人を訴えるというのは、マンガとなって刊行されるほどのインパクトある事柄なのです。この背景には何があるのでしょうか。
即逮捕されないと捜査は1年後
『ダメ彼を訴えます!!』の作者・二星星さんは、結婚を前提に同棲を始めた同じ会社の年下男性に殴られ、鼻を骨折。駆けつけた警察に「彼を逮捕しますか?」と聞かれ、一瞬迷った彼女はその場では答えられませんでした。
2時間後にようやく決意した彼女が警察に「彼を逮捕してください」と頼んだ時にはすでに遅しで、被害届を出して捜査の順番を待たなくてはならないと言われてしまいました。そして捜査が始まり、彼が起訴されたのは事件からなんと1年後。現行犯で逮捕されないとこれほど時間がかかるものなのか! と読んでいてゾッとしてしまいます。
なぜ女性たちはDVを訴えられないのか
彼女が受けたのはDV(親しい関係間の暴力)です。実は今までこうした事件は「家庭内の揉め事だから」と、警察はあまり関わってはくれませんでした。それが次第に状況が変化してきたのは、約20年ほど前からです。おそらくDVがらみの殺人など、重大事件が増えてきたからなのではないでしょうか。
私の周囲でも、夫や同棲中の恋人に殴られたのに、それを訴えずに耐えている人が何人もいます。なぜ訴えないかというと、それが直接、彼女の生活に影響するからなのです。警察に「今すぐ逮捕してほしい」と告げても警察は「そうすると彼はしばらく家に戻れず会社にも行けないかもしれないけどいいですか」などと確認してくることがあります。そうすると、もし彼が仕事をクビにでもなったら生活はどうなるのだろうと不安になり、訴えられなくなる人が出るのだとか。
被害者が泣き寝入りしない社会に
そもそも、DVを受けた女性のほうが逃げたり隠れたりしなくてはならないのはおかしなことです。だからこそこのマンガのヒロインも闘ったのでしょう。そんな彼女の熱い思いに応えるようにスゴ腕弁護士さんがついてくれたのも本当に良かったです。この弁護士さんの素晴らしい弁護は必見です。「あまり利益にならないから」と彼女の依頼を断った最初の弁護士とは大違いです。
弁護士がDV事件を引き受けたがらないのは、賠償金の額も(大きな傷や後遺症がない限り)高額ではないため、儲からない案件だからでしょう。そして弁護を断られた被害女性は新たに傷つくのですから、本当に気の毒です。DVもいじめ事件も似たような感じで、密室であまり証拠もないので、立証することもなかなか難しく、勝てるかわからないというのも断られる理由にあるようです。
それでも私はこのマンガに新しい希望を見ました。今まで泣き寝入りしていた人たちが勇気を出して声を上げている姿は輝いて見えます。これからはDVの被害はもちろん、職場や学校でいじめられていた人も、法に訴えたい、このまま引き下がれない、と思う人が増えてくるはずです。
法律は困っている人の助けになることも多いもの。あきらめる前に、このマンガのヒロインのように法律の無料相談から始めてみると解決の足がかりが見えてくるかもしれません。
【書籍紹介】
ダメ彼を訴えます!!
編集:二星 星
発行:ぶんか社
口頭弁論、尋問、法テラス、宣誓書、陳述書、準備書面、示談、供述調書、認否反論。法律の素人が挑んだ約1000日の裁判記録。裁判用語の数々もわかりやすく説明!
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