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2019/12/5 6:00

初代横浜ベイスターズ社長・池田 純から学ぶ社会に立ち向かうための「バトルマニュアル」

石の上にも3年、という。まず断っておきたいのだけれど、筆者はここで、前時代的な精神論に基づく耐えることの美しさについて語るつもりはまったくない。3年――正確には2年半――という長さの時間枠の中で、人はどれだけのことを経験できるだろうか。

 

なぜ、池田 純は反省するのか?

横浜ストロングスタイル』(池田 純・著/文藝春秋・刊)は、著者池田 純さんの反省の弁から始まる。

 

野球にたとえれば、打席に立つことすら許されませんでした。なぜなら、僕が愚かだったから。自分にこの2年半、どんなことが起きるのか、見抜くことができなかった僕が、愚かだったから。

『横浜ストロングスタイル』から引用

 

本書は、池田さんがDeNAベイスターズの社長を辞した2016年からの2年半にわたる詳細なドキュメンタリーだ。池田さんは2011年史上最年少の35歳で横浜DeNAベイスターズ初代社長に就任し、2016年まで5年間社長を務め、球団は5年間で単体での売上を52億円から100億円超へ倍増し、黒字化を実現した。その大成功の直後の2年半の体験についての本の書き出しが、自分の愚かさを認める反省の弁。

 

池田さんはベイスターズを退任後、Jリーグ特任理事や、明治大学学長特任補佐兼スポーツアドミニストレーター、日本ラグビーフットボール協会特任理事、さらにスポーツ庁参与などを務め、スポーツ全般や大学スポーツ、ラグビー界発展のために尽力した。

 

そのどこが「愚か」だったというのか。詳しくは本書に譲るが、それは「変えたい」「変えなくてはならないんです」「一緒に戦ってください」という周囲の言葉を信じてしまったことだったのかもしれない。

 

でも、信じることが決して愚かではなかったことは、2年半という時間の流れ自体が大きな伏線となり、本書という具体的な形になって昇華した。

 

 

実践的なバトルマニュアル

本書は池田さんが書いた“バトルマニュアル”というとらえ方で読むのが正解だろう。より広い範囲にわたる戦況を判断する戦略的思考から、白兵戦にも適用できるはずの戦術的思考まで網羅している。加えて、組織の硬直化を具体的に把握するための危険回避マニュアルとしての側面が強く感じられる。

 

まずは、章立てを見てみよう。

 

第1章 ベイスターズ社長退任から、Jリーグの世界へ

第2章 ラグビーの世界

第3章 大学スポーツの世界

第4章 日本スポーツ発展のためのリーダー論

第5章 スポーツと地域活性化・地方創生

第6章 スポーツの近未来

 

大学からプロまで、スポーツをさまざまなスコープを通して見つめ続けてきた池田さんは、自らについて次のように語る。

 

ひとことで表せば、結局僕は「ファイター」です。日本という社会の中では、きわめて異質な存在であることは、重々承知しています。そのため、思い切り損をする側面があることも、よくわかっています。

『横浜ストロングスタイル』から引用

 

個人的には、ワールドカップの余熱もあり、第2章を特に興味深く読んだ。ネタバレを恐れずに言うなら、街づくりとエンタテインメントの核にスポーツを据える“青山ラグビーパーク”構想にワクワクする人は少なくないはずだ。

 

 

戦う理由

2019年1月に“日本のスポーツ界のど真ん中”から一度離れる決心をした時点においても、池田さんが戦う姿勢を忘れたことはなかった。

 

僕はベイスターズのときもこの2年半も、日本のスポーツ界のど真ん中で、変化を恐れず発展を遂げていくために、まず自分が矢面に立ち、本質的で合理的な意見をストレートに言い続けてきたつもりです。

『横浜ストロングスタイル』から引用

 

そういう池田さんが求めていたものは何か。

 

僕はこれまで、ベイスターズをはじめ、さまざまな企業のリーダーを務め、結果を出し続けてきました。組織を「維持・管理」するだけではたどり着けない非連続の成長を求めて、開拓者精神を持って、ブルドーザーのように新しい景色と未来を切り拓いていく「イノベーション・パイオニア」型のリーダーとして。

『横浜ストロングスタイル』から引用

 

ならば、池田さんが嫌うものは何か。

 

本当に言いたいことや言うべきことすら言えず、現状を否定することもできない。和を乱さず、荒波を立てず、曖昧であることが評価され、消極的な判断、真似事や中途半端なことばかり。その組織の責任を誰が背負っているのか、顔とビジョンと戦略がまったく見えてこない。

『横浜ストロングスタイル』から引用

 

愕然とした。筆者が会社組織に属していた最後の年は1994年。当時感じていたもやもやしたものは、いまだになくなっていないみたいだ。

 

 

大切にすべきもの

そして池田さんは、“大切なこと”について次のように記している。

 

どんなことがあっても、あきらめないことの大切さ。

どこかに必ず道があること。

あきらめなければ必ず何かに出会えること。

挑戦し続けることの大切さと意味。

『横浜ストロングスタイル』から引用

 

どこかで見たような言い回しだ。そう思う人がいるでしょ?  でも、単なるスローガンとして使われる“こうすれば必ず道が開けるはず”という言葉と、2年半の実体験に裏打ちされた高い熱量のメッセージは、響き方が全然違って当たり前だ。

 

1980年代半ばから1990年代の半ばにかけて筆者が実感し、いまだに生き残っているもやもやしたものと躊躇することなく立ち向かい、ブルドーザーのように押し込んでいく池田さん。その姿の向こう側に、“レイジング・ブル”という異名で知られたアメリカの名ボクサー、ジェイク・ラモッタのシルエットが見える気がするのだ。

 

 

【書籍紹介】

 

横浜ストロングスタイル

著者:池田 純
発行:文藝春秋

横浜DeNAベイスターズの初代球団社長として大きな実績を残したあと、「改革を一緒にしてほしい」と頼まれ、さまざまなスポーツに関わった彼を待ち受けていたのは、そこに渦巻く保身と忖度、変わりたくない人との陰湿な権力争いだった。それらに翻弄され、絶望しながらも真っ向勝負を挑んだ2年半。彼は、その生き方を決して曲げることはなかった。

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