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2019/12/12 21:45

「面白いとは、“差異”と“共感”の両輪である」――異色のテレビディレクターが語る「面白い」のつくりかた

原稿でもコラムでも、ブログのエントリーでも、ひとりでも多くの人に面白いと思ってもらえるものを書きたい。年の瀬が迫っていることもあり、焦りが募って煮詰まりがちな筆者に、福音がもたらされた。

 

面白いという感覚

「面白い」のつくりかた』(佐々木健一・著/新潮社・刊)の著者佐々木健一さんは、テレビ番組制作に長年携わってきた人物だ。情報の消費サイクルが早いテレビで、面白いことを追い続けてきた人の仕事の仕方にはものすごく興味がある。

 

「普通さぁ」という前置きで会話を始める人は結構多い。でも、その“普通”はその人が認識している“普通”であって、筆者のそれと合致するとは限らないし、ましてや世の中全般のそれと完全にクロスオーバーするとは言えないはずだ。“面白い”という感覚もまったく同じではないだろうか。

 

 

「面白い」を定義してみる

本書は、佐々木さんの次のようなひとことから始まる。

 

テレビ業界に足を踏み入れて以来、私にはずっと引っかかっていたことがありました。それは、「そもそも“面白い”って何?」という素朴な疑問です。考えてみれば、「面白い」という言葉は実に曖昧です。

 『「面白い」のつくりかた』より引用

 

何かの面白さを説明したり、定義したりすることはとても難しい。理路整然と説明しようとしたら、その過程でそもそも感じていた面白みが薄まってしまいかねない。しかし佐々木さんは、ある日自分なりの定義にたどり着く。

 

様々な番組制作の経験を積みながら、「面白いとは何か?」という問題について考えを巡らせ、ある一つの結論を導き出しました。それは、次のような一文にまとめられます。

「面白いとは、“差異”と“共感”の両輪である」

『「面白い」のつくりかた』より引用

 

面白いという感覚は興味の方向性とか知識の範囲にも関係するので、人によって異なるのが当たり前だ。“差異”と“共感”。コントラストを表す言葉であるらしいことはわかる。佐々木さんは、それぞれをどのようにとらえているのか。

 

“共感”という言葉は、ピンと来るでしょう。最近では巷でもよく「共感が大事」などと盛んに喧伝されています。では、“差異”とは何でしょうか。国語辞書に載る意味としては「違い」ですが、私の場合はもう少し広い意味(概念)として使っています。

『「面白い」のつくりかた』より引用

 

佐々木さんの場合、差異という概念にも意識を向けるようになってから、“面白い”ことだけをひたすら追いかける方法論に変化が生まれたようだ。ふたつの要素のコントラストを通して感じられるものを可視化しようとした。そんな言い方もできるだろうか。

 

 

差異がもたらすもの

“差異”については次のような文章が記されている。

 

過去に自分が激しく心を動かされた出来事を思い出してみてください。それまでの日常や平穏、常識といった普通の安定した状態に比べて、何らかの差異がある出来事や事柄に遭遇した時に心が揺さぶられたり、強く興味を惹かれたり、深く考えさせられたりしたはずです。

『「面白い」のつくりかた』より引用

 

佐々木さんは、人の心を動かすもの、人々の関心を呼ぶものが差異であると語る。このあたりの話は、ラグビー日本代表が2015年のワールドカップで南アフリカ代表に勝った試合を例に挙げながら進められる。あの試合まで、ラグビーは日本国内では決してメジャーなスポーツではなかったはずだ。

 

「無知」という状態は無関心や凝り固まった偏見などと結びつきやすい要素ですが、なにかをきっかけに「知らなかったことを初めて知る」という差異を得ると、たちまち「面白い」「もっとよく知りたい」というポジティブな感情に変化することがあります。

『「面白い」のつくりかた』より引用

 

優勝候補の南アフリカ代表を破った後、多くの人々がラグビーに対してポジティブな感情を抱くようになった。今思えば、それが2019年ラグビーワールドカップ日本大会の成功と、史上初のベスト8入りにつながったのだろう。ポジティブな感情というのは、参加意識とか一体感、そして“自分ごと”としてとらえる姿勢も含まれるはずだ。“差異”と“共感”。「面白い」を形成する両輪がおぼろげながら見えてくる気がする。

 

 

普遍的な「仕事に対する哲学」

「面白い」と「差異」の定義を踏まえ、章立てを見てみる。

 

第一章 そもそも「面白い」って何?

第二章 アイデアは思いつきの産物ではない

第三章 学び(取材)からすべてが始まる

第四章 「演出」なくして「面白い」は生まれない

第五章 「分かりそうで、分からない」の強烈な吸引力

第六章 「構成」で面白さは一変する

第七章 「クオリティー」は受ける情報量で決まる

第八章 現場力を最大限に発揮させる「マネジメント」

第九章 妄想こそがクリエイティブの源である

 

各章タイトルにキーワードとしてちりばめられた言葉に注目したい。どんな仕事に就いているにせよ、クリエイティビティと呼ばれるものが活かされるシーンは必ずある。日々の仕事を漫然とこなしているだけの人と、「面白いこと」を探し続け、差異を意識する人。どんなタイミングで、どういう形で訪れるのかは明言できないけれど、両者の間には違いが出て当然だろう。本書の性格についての文章もぜひ紹介しておきたい。

 

巷に溢れるビジネス書にあるような「明日から使える◯◯」「ライバルと差がつく△△の技術」といったすぐに役立つハウツーなどではありません。むしろ、様々なクリエイティブを生むための基礎となる、普遍的な「仕事に対する哲学」と言う方が相応しいかもしれません。

『「面白い」のつくりかた』より引用

 

仕事に対する哲学はすぐに自覚できないし、誰かに教わるものでもないだろう。でもこの本は、仕事のコアの部分を見つめ直し、それとの向き合い方を考えるきっかけを確実に与えてくれる。

 

煮詰まる状況がしばしば訪れる人。他に何かできることがあるはず、という漠然とした思いを抱いている人。そして、仕事をもっと楽しみたいと思っている人。ぜひ読んでみてください。福音になりますよ。

 

【書籍紹介】

「面白い」のつくりかた

著者:佐々木健一
発行:新潮社

どうしたら人の心をつかむ企画が思いつけるのか。「安易な共感を狙うな」「アイデアは蓄積から生まれる」–「面白い」を追求してきた著者がそのノウハウ、発想法を披露した全く新しいアウトプット論。

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