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歴史
2020/2/28 21:45

飲み込めない、稲米のなかで最悪な飯ってなに?――『戦国、まずい飯!』

「戦国」と聞くと、まず乱世を戦い抜く武将たちが思い浮かびます。

 

戦の日々で、さぞお腹も空いただろうな。山盛りの白米をもりもり食べて乗り切ったんだろうな……ってちょっと待った! 戦の後に白米をもりもりとか時代的に無理じゃない? じゃあ何食べてたの? というのが『戦国、まずい飯!』(黒澤はゆま・著/集英社インターナショナル・刊)を読めば見えてきます。

 

 

飲み込めないほどまずい「赤米」

戦国時代にはどんな米を食べていたと思いますか?

 

現代においては、稲作技術も発展してスーパーに行けば当たり前に精米された真っ白な米粒を購入することができますが、戦国時代は精米できる機械はそう多くないので、人力で精米していたそうです。さらに食べていた米も、「こしひかり」とかではなく、古代米の”赤米”。「赤飯とかの美味しいやつでしょ?」と思った方! それは今、品種改良されておいしくなったもので、当時の赤米は酷いものだったそうですよ。秀吉の朝鮮出兵のころ、日本に派遣された黄慎(ふぁんしん)という人の日記に「赤米まずすぎ〜」という内容が書かれてあったそうです。

 

但将官の外は皆赤米を用いて飯と為す 形は瞿麦(くばく)の如く 色は蜀秫(しょくじゅつ)に似 殆ど下咽に耐えず 蓋し稲米の最悪の者なり(「日本往還日記」)

 

瞿麦は燕麦、蜀秫は高粱の一種と考えられている。燕麦は細長い種子を作り、高粱は熱すと真っ赤に実る。そのような形状の赤米を将官以外の雑兵は皆食べていて、飲み込めないほどまずく、稲米のなかで最悪のものだというのである。

(『戦国、まずい飯!』より引用)

 

戦って、疲れて、お腹すいた〜と思っていても食べるのは飲み込めないほどまずい米。悲しくなりますよね(笑)。牛丼みたいな味の濃い丼飯なんてないわけですから、そう思うと辛い……! そんな時代を超えて今があると思うと、なんだか当たり前に白い米を食べている私も「何かしなくちゃ!」と思ってしまいますね。

 

 

干したご飯を戦に持参?

今のビジネスマンのように、仕事のように戦場に行き、「ただいま〜」と家に帰れるのであればいいですが、ずーっと移動し続ける戦もあるわけで。そんな時には、炊いたお米を干した「干し飯(ほしいい)」が重宝されたんだとか。これは、「炊いたお米を干せばいいんでしょ?」と思った方もいるかもしれませんが、細かな工程がいくつかあり、カビさせないように干し飯を作るのは色々とハードなんだそうです。著者の黒澤さんも炊飯したお米をそのまま天日干ししたら失敗してしまい、古書を読み返し、粳米(うるちまい)ではなく糯米(もちごめ)を使うことやいろんな発見をした上でリベンジされていました。

 

空の様子と天気予報をしっかり見極め、少なくとも三日以上好天が続く日を狙って、水少なめで米を炊く。炊きあがりの後は、米をしっかり洗い、今度はざるではなく、干し野菜用のネットに直接、一粒一粒、バラバラに撒くようにして入れた。

そして、待つこと四日。

ついに完成である。

(『戦国、まずい飯!』より引用)

 

実際に食べた感じは、炊飯器のふちに残っているカピカピになったお米の味なんだとか(笑)。黒澤さんのすごいところは、全部まずい! とわかっているのに、ちゃんと作って食べているとこなんですよね。昔の文献を読んだところで、想像つくじゃん! と思うのですが、それを現代で実践して、現代人の味覚でどう感じるかをしっかり味わっているところに感動してしまいます。

 

 

他にはどんな食べ物が紹介されているの?

この本は、上記でも紹介したように様々な戦国時代の文献を紐解きながら、現代で食べたらどうなるか? というのを実験したような内容になっています。そのため、たくさんの食べ物がどどど〜っと紹介されているわけではありません。もくじをお伝えしておきしましょう。

 

第1章 赤米 稲米として最悪のもの?

第2章 糠味噌汁 醤油は贅沢? 叱られた井伊直政

第3章 芋がら縄 戦国時代のインスタントスープ

第4章 干し飯 最重要の保存食を腐らせた武将とは?

第5章 スギナ はなはだ食べづらきもの 真田信之の述懐

第6章 粕取焼酎 ツボいっぱいに詰めてくれ! 真田信繁の好物

第7章 牛肉 宣教師の陰謀か? みんな虜の牛肉料理

第8章 ほうとう 戦国時代の麺食の実態とは?

第9章 味噌 行軍中にできる謎の味噌の正体を追う

(『戦国、まずい飯!』より引用)

 

個人的には「第7章 牛肉 宣教師の陰謀か? みんな虜の牛肉料理」も衝撃の内容で、楽しめました。この中で意外だったのは、織田信長の話。織田信長って、下戸だったらしいですよ! 私が大好きな「戦国無双」シリーズのゲームでは、お酒が好きそうな雰囲気で、ワインとか似合うなーというキャラなのですが、実は飲めないという説もあるんだとか……う〜ん、是非もなし!

 

『戦国、まずい飯!』はバラエティ番組を見ているような気持ちで戦国時代の文化を楽しめるので、受験勉強中の学生さんはもちろん、歴史とは縁遠くなった大人でも十分楽しめる一冊だと思います。花粉がなくなり、晴れが続く日を狙って「干し飯」を作って、遠征に出かけてみたいです(笑)。

 

【書籍紹介】

戦国、まずい飯!

著者:黒澤はゆま
発行:集英社インターナショナル

生米を水に浸すよう指示した徳川家康、醤油が欲しいと言って叱られた井伊直政、逃避行中に雑草を食べた真田信之…。歴史小説家である著者が、さまざまな文献を渉猟し、戦国の食にまつわる面白エピソードを紹介。さらに文献に登場する料理を再現して実食する。果たしてその味は…。美味いのか? まずいのか? 食を通して、当時の暮らしぶりを知り、戦国の世と先人たちに思いを馳せる。

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