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自己啓発
2020/3/11 21:45

失敗も挫折もすべてが未来の糧となる――『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』

僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(永田和宏・著/文藝春秋・刊)は、山中伸弥(iPS細胞研究所長)、羽生善治(将棋棋士)、是枝裕和(映画監督)、山極壽一(京都大学総長)の各氏による講演と、著者の永田和宏さんとの対談から成る。講演の内容をそのまま掲載し、その直後に行われた対談を付記するという立体的な伝わりやすい構成であり、しかも筆者が興味のある人ばかりが登場する一冊なので、ぜひ紹介したい。

 

数えきれない骨折がノーベル賞へと導いた?

神戸大学でラグビーに打ち込んだ山中先生は、ご自分でも覚えていられないほど骨折したという。整形外科の分野に進んだ背景には、こうした数えきれない骨折体験が大きな影響を与えた。スポーツと医学の関係性に大きな興味を抱いた山中先生は、この分野で生きていくことを決める。

 

しかし、山中先生にとって整形外科医が天職ではなかったことは、今や周知の事実のようだ。研修医のころは、20分で終わる手術に2時間かかったらしい。現場の医師としては致命的に不器用だ。指導医から「ジャマナカ」と呼ばれたりもした。でも、それがきっかけで研究医への道というオプションを考えるようになり、それがノーベル賞受賞につながる。山中先生の人生のターニングポイントは、数限りない骨折を経験したラグビープレイヤー時代だったのだろう。

 

 

挑戦し続ける天才棋士

2017年に史上初の永世七冠を達成した将棋の羽生善治氏は、「挑戦する勇気」をテーマに語る。史上最強の天才棋士と呼ばれる羽生氏でも、勝負ごとの世界に身を置いている限りミスは日常茶飯事だという。

 

羽生氏は語る。挑戦する勇気は、ミスの上にミスを重ねない意識によって培われる。それだけではない。結果だけを追い求めるのではなく、取り組んでいるものごとに感動できる要素を見出す姿勢も必要だ。羽生氏がこうしたものに気づいたのは、江戸時代に作られた詰将棋を夢中で解いていた十代のころだ。

 

既成概念にとらわれない、という言い方がある。ただ、羽生さんの話を読んでいると、既成概念にあえてとらわれるところから、まったく新しい発想が生まれることもあるような気がする。羽生氏のターニングポイントは、江戸時代の詰将棋を解いていた十代に、すでに訪れていたのかもしれない。

 

パルム・ドール監督も最初は使えない奴だった

2018年のカンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督は、当然だろうが、学生時代から映画を撮りたいと思っていたという。映画監督という職業を漠然とではなく、はっきりと意識していた。そして、「学生時代はただ映画を見ていただけの五年間」とさらっと語る。こういう風に、シンプルに語れる人が大成するんだと思ったりもする。

 

職業人としてのスタートはクイズ番組や情報番組、旅番組のADだったが、当時の仕事はくだらなく思えて仕方がなかったようだ。そういうオーラを消せないままディレクターになった最初の仕事で、「目の前の世界を自分の思ったとおりに捻じ曲げて変えていく」ような演出をしてしまい、現場で先輩のカメラマンにものすごく怒られる。

 

この体験が映画作りの現場で活かされた結果、“やる気のない”オーラを脱ぎ捨てて仕事と向き合い、カンヌ映画祭という映画人最高の舞台で最高の賞を受けることにつながったのだ。是枝監督のターニングポイントは、「ただ映画を見ていた五年間」の結果、必然的にもたらされたものだろう。

 

 

挫折と失敗に導かれた京大総長への道

京大総長の山極壽一氏は、不思議な人だ。失敗や挫折を必ず次のステップへ進む手段としてきた。それに加え、何かに打ち込むことが生み出すパワーの大切さ、そしてそのパワーから生まれる共鳴現象の大きさ、そんなものが感じられる。

 

山極さんは、半世紀にわたってサルとゴリラの研究に打ち込んできた人物だ。長い研究生活の中で失敗や挫折を何度も体験したが、そのつど新しい局面が開き、行くべき道を見ることができた。信じるものをとことん追求できる人生は幸せだ。しかしその裏側には、確実に待ち構えている挫折や失敗の連続への覚悟みたいなものがあるに違いない。だから山極さんは、講演の締めくくりに自信を込めてこう語る。

 

色々と挫折もありましたが、挫折によって新しい目を開くことができた。その意味で、自分の挫折体験にも感謝しています。

『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』より引用

 

山極さんの場合、ターニングポイントはこれまで重ねてきた一つひとつの挫折と失敗なのではないだろうか。

 

誰の人生にも、ターニングポイントとか運命の瞬間という言葉で表現されるものが確実に存在する。人生を振り返る人を見るという行いを通して、自分と重なる部分が少しでもあることに驚いたり、全く知らない世界を垣間見ることができて、さらに驚く。そういう気持ちは、上質なエンタテインメントに昇華していくことがある。エンタテインメントを通して学べることは多いのだ。

 

【書籍紹介】

僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう

著者:山中伸弥 羽生善治、是枝裕和山極壽一、永田和宏
発行:文藝春秋

京都産業大学での講演・対談シリーズ「マイ・チャレンジ一歩踏み出せば、何かが始まる!」。どんな偉大な人にも、悩み、失敗を重ねた挫折の時があった。彼らの背中を押してチャレンジさせたものは何だったのか。

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