本・書籍
2020/4/17 19:00

教養書はシニアだけのものじゃない! 哲学からブッダまで、若者の心もつかむNHK出版『学びのきほん』とは

いわゆる“教養書”は数多くありますが、それとは一線を画した“生きた学び”を手に入れる実践的教養書シリーズとして、NHK出版の『学びのきほん』は注目すべき存在です。

 

哲学や仏教など、どちらかというとお堅いテーマが多いものの、教養書ながら若い女性にも読まれているといいます。シリーズを通じて大ファンを公言する、@Livingでおなじみのブックセラピスト・元木 忍さんが、編集担当であるNHK出版の白川貴浩さんを訪ね、同書が目指すことや人に読んでもらうための工夫などをうかがいました。

 


学びのきほん
松村 圭一郎『はみだしの人類学ともに生きる方法』
齋藤孝『人生が面白くなる 学びのわざ』
各737円(NHK出版)

シリーズ7弾、8弾として3月に発売された最新刊。松村圭一郎さんと齋藤孝さんという多くのファンを持つ人気の著者が、かつてない斬新な視点で、「人類学」と「学びのわざ」を探っていきます。

 

わずか2時間で読破できる、時代を意識した教養本

元木 忍さん(以下、元木):NHK出版さんの『学びのきほん』シリーズは、タイトルに内容が凝縮されているのが心地よく、しかもとても読みやすいですよね。ぜひ編集者の白川さんにお会いして、お話を伺いたいと思っていました。

 

白川貴浩さん(以下、白川):ありがとうございます。『学びのきほん』は、哲学、古典、仏教、医学などの基本が2時間で読める実践的教養シリーズとして、昨年3月に創刊しました。新幹線の東京・新大阪間で1冊読み切ってもらうというイメージで編集をしています。

 

元木:1冊が本当にさらさらっと読めるので、読書が気持ちいいんです。知っていることの“学び直し”になるし、知らなかった“気付き”も学べるので、読書習慣や、教養書に興味のない方に向けたメッセージ性を感じました。

 

白川:まずは1冊読み切ってもらうことを大事にしています。例えば最近の新書では、1冊あたりの文字量はだいたい10万字ぐらいなんですが、『学びのきほん』では4万字程度に絞っています。小見出しも多くしていて、ネットの記事2本分ぐらいで1本の小見出しを立てていますね。ルビ(振り仮名)も多めに振って、読書慣れしてない方や中高生でも読めるように工夫しています。

 

元木:若い世代の読者獲得も意識されていますか?

 

白川:それはありますね。当社では『100分de名著』というNHKの番組のテキストを発行していますが、これは教養系に分類される読み物で、読者層のメインは60~70代です。『学びのきほん』シリーズでは、『100分de名著』の読者層に加え、若い方にも届く本作りを目指し、表紙も若い世代を意識したデザインになっています。

 

↑古今東西の難解な“名著”を100分で読み解いていく、NHKの人気番組をテキスト化した『100分de名著』。今夏で100タイトルに達するこのヒット本の読者層にも、『学びのきほん』は受け入れられているといいます

 

違う入り口から入った方が身につく教養もある

元木:昔は、電車で読むための本を1冊はかばんに入れたものですが、最近では、電車の中で読書をしている方も非常に少なくなっていますよね。そんなところからも、全体的に教養の低下が始まってしまったのかもしれませんね。

 

白川:特に“教養への入り口”がなくなってきていることに危機意識はありますね。ネットやSNSの台頭による“読書離れ”という時代背景もありますが、出版業界の変化もあります。以前ですと、教養の入門書は、1冊600〜700円で手に入る新書や文庫から入り、より専門的な知識を求めて単行本へ進んでいく、という段階がスムーズに行われていました。現在は新書・文庫も値段がかなり上がってきて、手にすることすらハードルが高くなってきています。

 

元木:『学びのきほん』シリーズの価格は、内容も充実しているしわかりやすい構成もなっているのに、驚くほど安いですよね。他の出版社なら、これで1000円はしますよ。

 

白川:手に取っていただく敷居を下げたかったのが、一番の理由ですね。教養って身近にアクセス可能であるべきだと思うので、新書や文庫より値段を抑えたんです。ただ、シリーズを進める過程で思ったのですが、とある一定の年代に読んでもらいたい、というより、こういう問題意識をもっている人に届けたい、と考えるようになりました。

 

↑『学びのきほん』の編集担当であり、発案者でもあるNHK出版の白川貴浩さん

 

元木:問題意識といいますと?

 

白川:教養の基本と聞くと、例えば哲学なら、プラトンから吉本隆明までの哲学史のABCを教えてくれると思われますよね。

 

元木:そうですね。体系立った知識を教えてくれる本だと連想しますね。

 

白川:この本はそうじゃないんです。例えば若松英輔さんの『考える教室 大人のための哲学入門』では、哲学史は扱っているんですけど、世にいわれている哲学ではなく、自分たちの生活、もしくは自分たちの人生に直結するような哲学のありかたを提示しています。

他のテーマも同様です。今まであった教養の入門書がある種“正門”から入るものだとしたら、私たちのやっているものは“横”から、あるいは“別の入り口”から入った方が、自分に根付いてより使えるものになる、ということを知らせる面があります。だからこそ、問題意識を持っている方にこそ読んでほしいと思ったのです。

 

元木:ライフスタイルに合わせた学び、ということですね。

 

↑「対話する」「考える」「働く」「信じる」という身近なテーマから、それぞれの中にある“哲学”を見つけていく。ABCから教える難解な本が多い中、哲学がよくわかる本として話題を集めた

 

教養は日常に取り入れていかないと意味がない

元木:そこが従来の教養本と大きく異なりますね。

 

白川:藤田一照さんの『ブッダが教える愉快な生き方』も、いわゆる「仏教のABC」ではありません。ブッダという人物を私たちの人生に引き付けてみたとき、“正門”から語られてきたブッダの歴史や偉業ではなく、「自分も実践してみたいブッダ像」が見えてくるわけです。

 

『からだとこころの健康学』の稲葉俊郎さんは、西洋医学だけではなく、東洋医学や健康医療を全部医学ととらえ、そこから健康を定義した方が、一般の人が健康を考える時に近道になるんじゃないかと仰っていて、従来の健康教養本とはまったく捉え方の異なる内容になっています。

 

元木:稲葉さんは医師でありながら、どこか仏教じみた考えを綴っておられ、仏教の藤田さんは逆に「仏教を使って健康になろう」というような、医師に近い視点で考えを書いておられるのが、とても新鮮でした。シリーズを通して読んでわかったのは、私たちは教養や知識を、生活と距離をおいたところにあるものと捉えがちで、生活にあまり取り入れていないんだな、ということですね。大事なのは頭で覚える知識ではなく、体で感じる知恵であって、だからこそ必要なんだと思いました。

 

白川:そこまで読んでいただいていると、うれしいですね。教養は学ぶだけではなく、日常に取り入れていかないと意味がない。取り入れてもらえることを目指して作っています。

 

↑『学びのきほん』は、2019年3月に創刊。3か月スパンで発売され、2020年2月までに6冊が刊行されました。テーマは哲学、古典、日本語、医学、健康、仏教。まっさらな状態で挑んでも、2時間後には知識が身に染みてきます

 

元木:このシリーズはどれを取っても共感があるし発見があります。ちなみに、発行部数はどれくらいですか?

 

白川:シリーズ6冊で累計13万部です。思った以上の反響がありました。

 

元木:きっと求められていたんですね。

 

白川:その判断は難しいところですが、現代はSNSやネットから情報を得るのが中心で、流れていく情報ばかりを浴びていますよね。でも、もし私たちが人生の危機に陥った時に本当に助けてくれるものは、流れていく大量の情報ではなく、1冊に込められた知識や知恵だと思うので、体に蓄積していく知識と出会うきっかけになればいいとは考えています。

 

元木:本には本の良さがあることはわかっていても、教養本は難解なものが多いですよね。いきなり読んでもチンプンカンプンで、読書の楽しさが生まれなくなってしまう。『学びのきほん』は、教養の扉を開く役目を担いながら生活の知恵が詰まっています。

 

白川:わからなくても感じればいい、というような部分もあります。

 

元木:SNSでは味わえない醍醐味ですね。

 

白川:けっしてSNSを否定しているわけではありませんし、SNSが情報の主流になっているのは事実です。大事なことは、本は、SNSの時間の使い方や情報の取り方に合わせていくことだと考えています。若い世代が、長い時間本を読むことができなくなっているのは、SNSにおける情報の使い方が細切れだからだと思うんです。先ほどもお話ししましたが、『学びのきほん』は情報を短く切って、SNSに慣れた方も違和感がないよう編集したことで、読みやすく感じていただけるんでしょうね。

 

元木:体に染み込ませる感じが好きですね。読んでいると勉強している気持ちになって、頭の中が整理された感じもあります。

 

ここからは、『学びのきほん』の制作の裏側をより具体的にうかがっていきます。本を手にとって欲しい、教養が読む人みんなの血肉になって欲しい、そう願う白川さんの工夫も見えてきました。



提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

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