外出自粛が続くなか、飼っているペットに癒されている方は多いだろう。あるいは、もしもペットがいたら退屈しなかったのに……、と憧れの気持ちを持っている方も少なくないはず。
『犬がいるから』(村井理子・著/亜紀書房・刊)は、犬を飼っている人も、飼っていない人も、ページをめくるたびにワクワク、ドキドキ、そして、思わずゲラゲラと笑ってしまえる一冊。大型犬のラブラドール・レトリバーが家族に加わったらどんな暮らしになるのかを疑似体験でき、癒されること間違いなしだ。
やっぱりラブラドールを飼いたい!
私はもう二度とラブラドールを飼うことはないだろうと思ってきた。なぜなら見送ったラブは唯一無二の存在だったからだ。ペットロスは克服できたものの、家族とも次に飼うとしたら他のどんな犬種がいいか? などと話していたのだ。本書を読むまでは……。
ところが、この本を読み進むうちに、愛犬との思い出と重なる部分も多くあり、読み終えた瞬間には「やっぱりラブラドールをもう一度飼いたい!」と叫んでいたのだ。
本書の著者の村井さんは、物心ついたときからずっと犬が側にいたそうだ。どの犬との思い出も宝物で、見送ったどの子も「100%犬」として一緒に暮らしてきたという。ところが、この本の主人公・黒ラブラドールのハリーだけは特別で、人間ではないけれど人間に近い感情を持った犬だと感じているそうだ。
たぶんラブラドールの飼い主は私も含め、みんな同感だと思う。そう、ラブラドールは限りなく人間みたいな犬なのだ。
ラブの子犬は破壊マシンのよう
介助犬や盲導犬として活躍するラブは賢い犬、と誰もが思っている。しかし、賢いからこそ好奇心旺盛で、子犬時代は家の中のものを次々と破壊していくイタズラに飼い主の多くは悩まされる。
村井家にやってきた黒ラブ・ハリーも、神妙な顔つきで大人しかったのは初日だけで、二日目からは、走り回り、飛び跳ねて、一週間後には破壊活動を開始したそうだ。
破壊されたものは数知れず、家具という家具にはすべて歯型がついた。(中略)ベランダの分厚い床板を食いちぎられた日には、笑うことしかできなかった。寝室のドアを嚙みまくった日は、叱ることが無意味に思え、「全部食われてからとりかえりゃいいや」と諦めた。とにかく、ハリーの両目がランランとしている間は、一切、油断してはならない。黒ラブの賢さたるや、想像を遥かに超えるものだった。
(『犬がいるから』から引用)
わかる、わかる。わが愛犬は、イエローラブの雌だったが、まったく同じで、人間の触ったものにはすべて噛みつき、本、靴、リモコンなどありとあらゆるものを破壊してしまったのだ。きっとラブの飼い主さんは、みんな「同じ同じ」と苦笑いしていることだろう。
それでもやっぱりラブが好き
それなのに、なぜ私はこんなにもハリーが好きなんだろう。なぜこんなにも、この犬がかわいいと思うのだろう。(中略)ハリーはきっと素晴らしい犬になる。ちゃんと育てれば、最高のパートナーになってくれるに違いない。(中略)きっと、私が一生忘れられない犬になるだろうから。
(『犬がいるから』から引用)
イタズラを散々繰り返されても、村井さんはハリーに強く惹かれ、夢中だったという。個体差はあるだろうが、やんちゃなラブラドールも1歳半を過ぎたころから落ち着きはじめ、その後は、最高のパートナーとなっていく例がほとんどだ。
が、本書を読んでいると、そこに至るまで、ハリーが成犬になるまでのドタバタが、読者にとっては愉快でたまらないのだ。
大型犬の怪力にご注意!
ラブを抱っこできるのは生後4か月くらいまで。大型犬は、子犬時代にすでに体重は20~30キロになってしまうから、怪力に振り回されることになる。
ハリーの強い引きで、ギシギシと音を立てるリードを握り締めながら、ハリーの後頭部をひっぱたいてやりたい衝動と戦うのに忙しい。お前は馬か! 猛獣か!と、怒り心頭で歩く。心優しき大型犬飼育の先輩のみなさんが、「一歳を過ぎたら落ち着くから」、「もう少しだから」と励ましてくれる。でも、「そういえば私は肩が外れた」、「お友達が手首を骨折した」、「顔からアスファルトの道路に突っ込んでズルむけになった」など、不安になるような情報も提供してくれる(なぜか満面の笑みで)。
(『犬がいるから』から引用)
村井さん一家は琵琶湖西岸という、犬にとって運動をさせやすい環境に暮らしているから、ハリーはとても幸せだと思う。本書に収録されている琵琶湖で泳ぐハリー、浜辺を疾走するハリーの写真はパワフルそのもの。
村井さんは、その怪力に振り回される日々を、おもしろおかしく綴っていて、読み手は大変だなぁと思いつつもページをめくりながらゲラゲラ笑ってしまう。ハリーが巻き起こす数々の事件は爆笑ものだ。
ラブは子守が上手
村井さんには双子の息子さんがいて、ハリーはその子たちをいつも見守り続けているという。
子どもに対するハリーの態度は、大人に対するそれとは全く違い、明らかに穏やかなものなのだ。(中略)ハリーは子守がとても上手だ。子どもたちが集まる場所に自分も必ず参加しては、何もせずに、ただそこにいるという偉業を成し遂げている。それも毎日だ。
(『犬がいるから』から引用)
ラブラドールは赤ちゃんや、子どもに対しとてもやさしいのだ。ハリーは現在は成犬となり、逞しく、頼りがいのある存在として、村井ファミリーを見守っているそうだ。
【書籍紹介】
犬がいるから
著者:村井理子
発行:亜紀書房
新しい家族が加わった!みるみる大きくなっていく黒ラブラドール・レトリバー「ハリー」との愉快でやさしい日々をいつくしむように綴る待望のエッセイ集。
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