よく「歴史は繰り返す」なんて言葉を聞きますが、ミニマリストやシンプルライフを極めた人たちが明治から大正時代にもいた! ということをご存じでしょうか? 「明治時代はそもそもシンプルだったでしょ!」と侮るなかれ。この時代の人たちの暮らしぶりを知ることで、現代にも必要な生き方のコツを学ぶことができます。
歴史の教科書からでは読み取れない当時の暮らしを知れるのが『簡易生活のすすめ』(山下 泰平・著/朝日新聞出版・刊)。この「簡易生活」とは、明治時代に西洋から伝わり、著名人たちが試行錯誤して取り組んでいたもの。あの芥川龍之介や坂口安吾なんかも簡易生活者だったそうです。今回はこの簡易生活についてご紹介していきます!
今こそ知りたい「簡易生活」とは?
そもそもこの考え方は、明治28年ごろ、フランス人牧師のシャネル・ワグネルさんが書いた『The Simple Life』がベースと言われています。ワグネルさんの本には『物欲に溺れず簡素な生活を送り、思いやりを持ちましょう』くらいの意味でしか語られていなかったそうですが、日本人はこの「簡易生活」を独自解釈。アレンジしていく人が増え、知識人から庶民へと多方面に広がり、浸透したそうです。当時の人々は「簡易生活」をどのように解釈していたのでしょうか?
簡易生活は生活を改善し、自分の能力を発揮できる環境を作り上げ、自分の人生を素晴らしいものにするための手法である。それを実現するため、次のように行動する。
・理屈で考えて合理的に判断をする
・最新鋭の便利なものは利用する
・機能を基準に物を選ぶ
・極力無駄を排除する
・他人の能力を発揮させて活用する
(『簡易生活のすすめ』より引用)
これって今でも通用する考え方だと思いませんか? 簡易生活はただ単に、何もないなかで暮らす……というシンプルな暮らし方ではなく、「最新鋭の便利なものは利用する」とか「機能を基準に物を選ぶ」とかめちゃくちゃ合理的だったのです。
明治時代は、物がないなかからいい物を選ぶということでこの考え方が使われていたと思うのですが、便利なものが増えすぎて、他人のレコメンドに頼りがちな現代人に必要な考え方だ! と、ちょっと感動してしまいました。
朝食にパンを食べることの先駆けは、簡易生活だった?
2020年3月に出たアンケート結果によると、朝ごはんでパンを食べる人は56.6%(参考:https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-3302/)と過半数に及んでいる日本ですが、なんとこのパン文化は、「簡易生活」でも言われていたことだったそうです。
『六十三大家生活法:比較研究』(石上録之助、忠誠堂、大正八年)は、当時の先進的な人々による生活法を集めた書籍である。その中に「改良麺麭(パン)主義鴨居工学博士式生活法」の項がある。改良麺麭主義とは簡易生活の一種で、朝食をパンにして時間を節約しようというものだ。
(『簡易生活のすすめ』より引用)
今は炊飯器のタイマーもあるし、電子レンジもあるし、ちょっと歩けばコンビニだってあるので、食べることにかかる時間はどんどん短くなっていますが、当時はご飯を炊いて味噌汁におかずを作って……と火を起こすところから考えると作る時間は約2時間! 7時に朝食を食べるためには5時から支度をしなければ食べられなかったと思うと、買ってきたパンで朝食にできるというのはかなり魅力的だったでしょう。
しかし、当時のパンは今と違い不味かったため、この方法は浸透しなかったそう……。それから時代は流れ、美味しいパンも作れるようになりましたが、こうやって先代の研究者たちが「どうやったら便利になるか」「もっと簡易にできないか?」と追及してくれた想いを感じると、気軽にパンを食べられている今に感謝したくなりますね。
人間関係も「簡易」にしちゃう、簡易生活
生活を簡易にすることで、自分の生活時間を豊かにしよう! と簡易生活が行われてきたわけですが、人間関係も「簡易にしてしまおう!」という動きもあったそうです。今は携帯電話やSNSがあるので、好きな時に誰とでも連絡を取り合うことができますが、明治時代の主な連絡手段は電話もなかったので「直接会う」がほとんど。そのため、いきなり家に来客が! なんてのは当たり前だったそうです。
当時、この来客をしんどいと思った安養寺生さんは、訪問者へのルールを考え『簡易生活会』(『家庭雑誌 三巻四号』明治三十八年四月二日)という著書の中でこう発表しました。
・来客に対する茶菓及び食事の廃止
・形式的贈答品の廃業
・無用のお世辞の禁止
・招待せざる客に対する食事代の請求(一汁一菜金五銭、但し何人に対しても酒を供せず)
(『簡易生活のすすめ』より引用)
さすがにやりすぎでは? と思ってしまいますが(笑)、簡易生活の基本である合理的な判断をするとなるとこれが妥当だったのかもしれないですね。
今は来客はありませんが、SNSの通知や携帯電話からの連絡に置き換えて考えると、これを実践したい! と思う人も中にはいるかもしれませんね。今風にアレンジするならば、
・通知をオフにする
・SNSで意味のない「いいね」やリアクションをしない
・ダラダラとオンライン飲み会をしない
あたりでしょうか?(笑)
便利になりすぎた現代だからこそ、先人たちが考えた「簡易生活」を見直すことで、自分の人生を素晴らしいものにできるかも? と思うのです。今回ご紹介した以外にも『簡易生活のすすめ』には様々な生き方の知恵が紹介されています。昔の人たちの面白い発想は、自粛生活で頭が固まってしまった人にも刺激になること間違いなし! 今を不便だなーと感じたり、自粛生活辛い……と感じる人も『簡易生活のすすめ』を読んで、明治時代の元気な暮らし方からちょっと勇気をもらっちゃいましょう!
【書籍紹介】
簡易生活のすすめ
著者:山下泰平
発行:朝日新聞出版
究極のシンプルライフがかつて存在していた。簡易生活とは、明治時代に西洋から入り、明治・大正・昭和初期に、知識人や庶民の間で密かなブームになった生活法である。実用がすべて・簡易で簡素・余計は排除―。すると無駄な付き合いや虚飾が排除され、個人の能力は最大化されるという。しかし、独自な解釈をした者たちもいて…。気苦労の多かった明治人が残した日々の知恵とは。