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2020/7/10 21:45

ネットでの行き過ぎた正義感は「中毒症状」なのかもしれない−−『人は、なぜ他人を許せないのか?』

不倫が発覚した芸能人がネットで一斉に叩かれるという傾向が、最近強まっている気がします。なかには批判だけでなく、仕事が降板になり、活動自粛に追い込まれる人も。不倫は決して許されるものではありませんが、ネットで激しく非難する人が大勢いるのはなぜなのでしょうか。

 

 

なぜ不倫した芸能人にイラつくのか

不倫は法的にNGとされている行為です。けれどさまざまな理由から多くの既婚者が不貞をし、そして各地の裁判所ではその慰謝料を求めての闘いが繰り広げられています。裁判で結果が出たら、判決以上の償いを相手に求めることはできません。判決に納得ができなかったら上告し、高等裁判所などで争うしかないのです。

 

けれど、有名人の場合、法で定められた罪以上に重い制裁を受けることがあります。ネットで四方八方から罵声を浴びてしまい、活動に支障が出るケースが増えているのです。このように一斉にネットで誰かを叩く行為はネット私刑(リンチ)とも言われます。

 

不倫が報じられた芸能人のなかで、最も叩かれるのは、反省の色が見えない、と視聴者が感じるケースです。既婚者を略奪しようとしたり、SNSで匂わせ行為をしたことが発覚すると、大炎上してしまうことがあります。全く関係ない他人のはずの芸能人の態度に、なぜ、イラッとしてしまうのでしょうか。

 

 

正義感は中毒になる

脳科学者の中野信子さんが書かれた『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム・刊)では、芸能人の不倫スキャンダルに熱くなる人の心理が解説されていました。人はイメージの一貫性を求めるため、清純派として売っていた人に不倫報道が起きると、だまされた、裏切られたと感じてしまうのだそうです。確かに「この人が!?」という衝撃が大きければ大きいほど、怒りの書き込みも激しい気がします。

 

相手が悪いことをしたのだから何を言ってもいいのだとばかり、ネットで思う存分叩いている人がいます。中野さんによると、人を罰する時には、快楽物質であるドーパミンが放出されるのだとか。ひとたびその快感の虜になると、次に非難する対象を常に探しているような状態、「正義中毒」に陥ってしまうそうです。

 

 

一度の失言が刻まれる

情報化社会は、テレビ番組の録画やラジオ番組の録音を可能にし、その録画をインターネットに拡散するという、かつてはできなかった「証拠の突き付け」を可能にしました。有名人がラジオでぽろっと発した言葉が、一晩のうちにネットを駆け巡ることもあります。そんなつもりで言ったわけではなくても、一部分だけ取り上げられ、大きな誤解を生むこともあるでしょう。

 

昔は「人の噂も七十五日」と言われ、ある程度時が経てば不祥事も忘れられていくものでした。けれど、今は何かの拍子にすぐ「あの人は過去にこんなことをしていた」などと誰かが書き込んでしまい、また世間が思い出してしまうということがあります。そのため、発言には今まで以上に細心の注意がなされるようになりました。これはいいことでもありますが、一度の発言が命取りになってしまうという窮屈さも生んでいる気がします。

 

老子に「天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず」という言葉があります。これは、天の網の目は悪人を決して逃さないというような意味です。自分がわざわざ鉄拳を下さなくても、いずれは自然と天罰が下る、そんな風に考えられるようになれば、誰かを責めてどこまでも追い詰めたいという感情にかられずに済むのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

人は、なぜ他人を許せないのか?

著者:中野信子
発行:アスコム

世の中に渦巻く「許せない」感情は、なぜ生まれるのか? 歪んだ正義感の裏に潜む、驚くべき脳の構造に迫る!

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