本・書籍
2020/8/27 21:45

いろんな葛藤、いろんな事情。自分ならどうする? を考える新書『AV女優の家族』

「もし、自分の家族がAV業界にいたら」なんて考えたことはありますか?

 

今でこそリスペクトされ職業としても認められているものの、まだまだ偏見も多い業界ではありますよね。私自身、縁遠い業界なので「一体どんな世界なのだろう?」とわからないことがたくさんあります。ほとんどの方がどんな世界なのか想像がつきにくいお仕事なのではないでしょうか。

 

2020年6月に刊行された『AV女優の家族』(寺井広樹・著/光文社・刊)は、そんな「家族はどう思っているんだろう」「どうしてAV女優という道を選んだのだろう」「どんな気持ちで仕事をしているだろう」と、AV業界の見えていなかった部分を浮き彫りにしてくれる一冊でした。

 

「芸能 整形」で検索したことがきっかけで、AV女優に

『AV女優の家族』では、様々な経緯でAV業界に入ってきた方が6組紹介されています。今でも家族には内緒にしている人、AV女優の母親と娘の対談など、著者である寺井さんが取材した会話が丁寧に紡がれ、一言にAV女優と言ってもいろんな葛藤や事情を抱えながら頑張っているんだな〜と感じることができる内容です。

 

この中に登場する江上しほさんは、3歳から習っていた器械体操でインターハイに出場するほどの実力がある人。仕事で東京に来た際にスカウトされたことがきっかけで、芸能界へ憧れを抱くようになったそうですが、どうしても「整形」をしたかったのだとか。そこで見つけたのがAV業界だったと語ります。

 

__自分で気にされているところがあったんですか?

 

「そりゃありますよ。右目と左目の大きさが違うから直したいな、とか。あと頬周りが丸々しているのとか。親にバレない程度に自分の気になるところだけやりたいと思ってて。でも、それもお金がかかるし。それで色々検索していた時に、「芸能 整形」でヒットしたのがAVだったんですよ。事務所の方で整形させてくれるって書いてあって。あ、そうなんだ、AVの事務所って無料で整形もできて最高じゃん! って思って(笑)」

 (『AV女優の家族』より引用)

 

すごいキッカケ!(笑)

 

芸能界への憧れもあったため、AV業界にも抵抗がなく足を踏み入れた江上さん。しかし、事務所からは「整形顔じゃない」という理由で結局整形はしなかったんだとか。また、AV出演も「バレない」と思っていたそうですが、実際に作品が世の中に出始めると2〜3か月で親にもバレてしまい、『今の仕事を辞めなさい』と反対されたと語っていました。ここに至るまでの背景には、器械体操をしていたころのエピソードも絡んできたり、詳しくは『AV女優の家族』を読んでいただきたいのですが、ひょんなキッカケから人生って動き出すんだなぁと感じるエピソードが満載でした。

 

そんな江上さんは、2015年から2年間の間に200本以上の作品に出演しましたが、現在は引退し、フリーでタレント活動やヨガ・器械体操講師の活動をされているとのこと。また、AV女優や風俗で働いていた人たちのセカンドライフになるような「場」も作っていきたいと考えているそうです。インタビュー全体が明るくて元気いっぱいだったので、「これからの江上さんも、きっと大丈夫よ!」と応援したい気持ちになり、SNSやYouTubeを検索し、フォローしてしまいました(笑)。

 

芸人からAV男優へ。家族からは笑って応援された

この本は『AV女優の家族』というタイトルですが、ひとりだけAV男優さんのインタビューも掲載されています。出てこい中平くん2号という男優さんで、大阪でお笑い芸人をしたあと、声優を目指し状況しますが、元々興味のあったAV男優のオーディションに参加し、見事合格。2018年から活動されています。

 

本人曰く「生まれ変わってもまたAV男優になりたい」と語っているほどこのお仕事が大好きと言うことですが、家族(父親・母親・弟)へ打ち明けた時の反応がとてもユニークだったのでご紹介します。

 

__その時のご家族のリアクションはどうでした?

 

「それぞれ三人に個別で電話したんですけど、もうみんな見事におんなじリアクションでした。まず『AV男優やっている』って言ったら、『なんてぇ?』って言って笑っているんですよ(笑)。三人ともみんなおんなじリアクション」

 

__へぇー。びっくりするとか、怒るとかでもなく?

 

「なく。ま、びっくりはしていました。「えーっ!?』って。でも、笑ってました。で、最終的には『頑張れよ』って言ってくれて。でも、親父とお袋でちょっとだけ反応が違ってて。親父には『それは給料大丈夫なのか? 食べていけるんか?』みたいなリアクションで、お袋の方には『給料はいいだろうからねぇ』みたいな。男女の違いですかね」

 (『AV女優の家族』より引用)

 

男女だけでもこんなに差があるのか? と驚いてしまったのですが、もしかすると出てこい中平くん2号さんの家庭がとてもオープンだからということもあるかもしれませんね。結婚観についてもインタビューでは語っているのですが、本人はもうAV男優になる時に結婚は諦めたと言っていました。仕事との向き合い方、これからの未来のこと、本当にいろんなことを考えながらお仕事しているのだと感じたし、これだけプライドを持って仕事ができる天職を見つけられた出てこい中平くん2号さんが輝いて見えるインタビューでした。

 

みんな前向き! 考えるキッカケをもらいつつ、元気ももらえる一冊

この本を読む前は、「離婚した」とか「家族と縁を切った」とか「もう仕事が大変で……」など暗い話が多いのではないか? と思っていたのですが、読み終わったあとに感じたのは、私ももっとお仕事がんばろー! という前向きな気持ちでした。インタビューをしてきた寺井さんも「おわりに」で以下のように語っています。

 

インタビュー全般を通して感じられたのは、自分の人生を納得のいく充実したものにしたいという前向きな姿勢。そして他人にどう思われようと、何を言われようとプライドを持ってこの仕事をやっているというブレない信念と同時に、「家族からは認められたい」という切実な思いでした。

 

 (『AV女優の家族』より引用)

 

AV女優・男優という仕事に対して偏見を持っている方はもちろん、普段お世話になっているという方にもぜひ読んでいただきたい一冊です!

 

また、AV業界だけでなく、どんな仕事でも「プライド」と「信念」を持って仕事と向き合うことは必要なことだと感じました。そしてどんな仕事であれ、家族には認めてもらいたいという気持ちは一緒なんだと思いました。内容はエロくないので、知らない世界を知りたい方、最近仕事でやる気が出ない方、家族と仲直りしたいのにキッカケが掴めないという方、などなど、男女ともに気軽に手にとって読んでいただきたい一冊です。

 

 

【書籍紹介】

AV女優の家族

著者:寺井広樹 
発行:光文社

アイドル視され、今や憧れの職業にすらなりつつある一方、いまだに偏見も残るAV女優という生き方。そんなAV業界で最大のタブーが「家族」の話である。親にAV出演をどう伝えたのか、家族関係に変化は生じたのか、親戚にはいつ「身バレ」したのか、兄弟姉妹はどう思っているのか、子供には将来、自分の仕事を明かすのか―?これまで誰も足を踏み入れてこなかった「家族」にまつわるエピソードを、様々な立場の女優たちが赤裸々に語る。そこにあるのは、他人に何と言われようとブレない信念と同時に「家族からは認められたい」という切実な思いだった。

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