本・書籍
2020/9/9 21:45

テレビでおなじみ「ブラックガイ」五箇公一先生が生物学から語るアフターコロナの生き方とは?

「肉食系女子」って、一時期は知らない人がいないほどのパワーワードだったはずだ。ただ、ここ半年間のものごとの移ろいの中、急速にリアリティが失われた。そもそも男子との物理的接触を前提にして成立するワードだからだ。

 

セックスバブル

いまだ勢いが衰えないコロナ禍のさなか、感染リスクを意識すれば、物理的接触は可能な限り避けるべき行いだろう。ただ、触れ合いが介在しない恋愛は想像しにくい。惹かれ合っている以上、物理的接触は必然以外の何物でもない。ごく最近、オランダ国立公衆衛生環境研究所が「セックスバブル」という概念を発表した。

 

身体的・性的接触は特定の一人の相手と行うべきである。ただしこれは、自分が病気にかかっていない場合に限る。加えて、パートナー以外の人間(家族や友人、職場の同僚など)と会う時は、必要性を十分吟味し、実行する前にパートナー同士でよく話し合って決定するべきである。

 

今、マスコミでさかんに取り上げられているのはマスク着用とかソーシャルディスタンスといった言葉だ。しかし実は、われわれが今突き付けられているのはそんなことよりもはるかにプリミティブな、人間の生物的存在にかかわる問題なのかもしれない。この原稿では、こうしたリアルな問題と対峙する本を紹介したい。

 

企画のスタートは生物学の「エロい」話

これからの時代を生き抜くための生物学入門』(五箇公一・著/辰巳出版・刊)のスタートは、比較的ライトなコンセプトだったようだ。

 

最初は、「大人向けに」生物学のエロい話を作ろうというコンセプトでスタートして、生物における性の進化の神秘や、多様でキテレツな交尾形態をメインに書くつもりが、インタビューを重ねるうちに、次第に人間という生物の「異質性」「特異性」に話題の中心が移り、そもそも「人間とは何なのか」といったやや哲学めいた話にまで話の風呂敷が広がってしまいました。

            『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』より引用

 

主流派科学の一部である生物学の枠組みの中で考えれば“変化球的”なアプローチでスタートした本書は、その通り学際的なテイストの一冊に仕上がった。

 

進化学的妄想

章立てを見てみよう。

 

●性のしくみ

●生物学から見る人間社会

●遺伝

●遺伝子優生論

●生物の多様性

●生物学と未来

●私と生物学

 

高校の生物の授業で習った進化の過程に含まれる種の保存という概念が、生殖行為を切り口にして語られることから始まる。かなり長い時間をかけて起こり続けてきた過程が、著者の五箇さんなりの解釈である「進化学的妄想」を軸にしてつまびらかにされていく。ただ、出発点のコンセプトはあくまでもエロい話。とっつきやすいかとっつきにくいかで言ったら、間違いなくとっつきやすい。

 

生物学的見地から考える不倫

第2章の「生物学から見る人間社会」は、身近で現代的なトピックを生物学の文脈に乗せて述べていく方法論が心地よい。不倫については、こんな文章が記されている。

 

結局、人間は古い野生動物の祖先から受け継いだ乱交・浮気・不倫の遺伝子と、人間ホモ・サピエンスとして進化する過程で選択された「一夫一婦制」という形質の両方を抱えて生きているということになります。

            『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』より引用

 

これをきっかけに話はLGBTをはじめとするさまざまな方向に広がっていくのだが、しっかりと据えられた生物学という主軸にそれぞれの話題が落とし込まれがら進んでいく文章はとても呑み込みやすい。

 

たとえの巧妙さ

もうひとつ言うなら、この本の読みやすさは各章のマクラと、たとえの巧妙さにある気がする。だからこそ、哲学的な話までが座りよくひとつの流れにまとまるのだろう。第7章で語られる五箇さんのプロフィールを読んで、この本が書かれた必然性を感じるのは筆者だけではないはずだ。こうした必然性は、出版のタイミングにも関与したようだ。

 

また、折しも出版を迎える直前に新型コロナが人間社会を襲い、世界中の人々が行動変容と生活変容を求められている今この時期に、本書の出版を迎えたことはタイムリーだった気もします。本書に記した人間社会の未来についての考察が、私たちが今後、どのようにwithコロナ時代を乗り越え、どのようなポストコロナ時代を作り上げていけばいいのかを考える上でのヒントになれば幸いです。

            『これからの時代を生き抜くための生物学入門』より引用

 

人間の生物としての長い営みは、もちろんこれから先もずっと続いていく。その過程にはエロさも不可欠にちがいない。しかしその背景に、人間を人間たらしめる無数の哲学的要素が存在している事実も忘れてはならないはずだ。われわれがこれからの時代を生きていく上で、一見何の接点もない哲学的要素と生物学的要素が思いがけない形で結びついた瞬間、ひときわ明るいきらめきが放たれるのだろう。

 

【書籍紹介】

これからの時代を生き抜くための生物学入門

著者:五箇公一
発行:辰巳出版

本書は、『全力! 脱力タイムズ』『クローズアップ現代』などさまざまなメディアに出演し、黒ずくめの服装とサングラスという風貌でダニやヒアリなどの危険生物について語る姿が話題となった、異色の生物学者・五箇公一による “人生に活かせる”生物学の入門書になります。堅苦しい生物学の講義ではなく、コロナが人間社会を襲っているいま、withコロナ時代、そしてポストコロナ時代という新しい時代を生き抜くためのヒントを、生物学を通して学んでいく一冊です。

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