「え、新大久保ってコリアンタウンじゃないの?」
『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(室橋 裕和・著/辰巳出版・刊)を読んで最初に思った感想がこれでした。10年以上前、上京してきたばかりの私が母親を連れて、韓国人俳優のチョン・ウソンのグッズを買いに行った以来、縁のなかった街・新大久保。
情報番組でタピオカだ〜、ヤンニョムチキンだ〜、チーズダッカルビだ〜と聞いていたので「第二の原宿みたいな感じでしょ?」なんて思っていましたが、それはあくまで表面の新大久保だと思い知りました。今回は「新大久保ってコリアンタウンでしょ?」と思っている人にも知ってもらいたい、人口の35%が外国人の街・新大久保の「今」をお伝えします。
もちろんコリアンタウンだけど、それだけじゃない!
最初にお断りしておくと、新大久保はもちろんコリアンタウンです。注目を集めたところで言うとヨン様ブームに始まりますが、それだけじゃなくなっている……というのが2020年現在の新大久保。『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』によると、東京メトロの東新宿駅からJR山手線・新大久保駅までのあたりに韓流が密集しているのですが、山手線の高架をくぐって西側に行くと、世界が変わってくるのだとか。
同じ大久保通りでも、こちらに並んでいるのはネパール人やバングラディッシュ人の経営する雑貨屋や、ぜんぜん日本語表記のないあやしげな中華料理、ハラル食材店、国際送金の店、外国人向けの不動産屋……そこに広がっているのは、アジアの人たちの「生活の街」だった。なんだ、観光地よりもこっちのほうが面白いじゃないか。
(『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』より引用)
しかも、2020年7月時点で大久保1・2丁目における人口の35%が外国人だというから驚き。小学校も様々な言語に翻訳された学級通信が掲示板に張り出され、インターナショナルスクール状態なんだとか!
著者の室橋裕和さんは、こんな多国籍化している新大久保で一体何が起きているのか? を体感したいと考え、お引越ししたという方。元々タイで10年ほど暮らしていたそうですが、その時の雰囲気とも似ているのだとか。
外食に出かけても同席しているのは外国人ばかり、近所を元気に走り回るのはベトナム人の女の子、日本食が食べたくてもお店がほとんどない、家具を買いに行って「14時に持っていくよ!」と言われたけど、連絡があったのは15時過ぎだったとか、とにかくエピソードが濃い。「新大久保は韓流好きの若い子たちが集まる場所だから」とどこかで決め付けていた自分もいたのですが、こんな話を読んだら行きたくなってきてしまった……!
でも、どうしてこんなことになったの?
コリアンタウンだけじゃなくなった背景には、2011年の東日本大震災があったといいます。震災を受け、母国に帰る中国人と韓国人が増えたそうなのですが、その穴を埋めるかのように、ベトナム人、ネパール人が増えていったのだとか。
東南アジア、南アジア系の人々に対し、留学ビザが下りやすくなったのだ。そして新宿区は日本語学校が乱立する地域だ。留学生はしぜんと外国人の多い新大久保に集まってくるようになる。人が増えれば店も増え、店がさかんに人を呼ぶ。震災後の10年足らずで、新大久保は一気に多国籍化していった……のではないかというのが、マッラさんの推測である。
(『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』より引用)
このマッラさんは、1999年から発行されている『ネパリ・サマチャー』の編集長。新大久保にオフィスを構え、日々取材しながら在日ネパール人のためにネパール語の新聞を発行しています。元々、品川区の西小山で飲食店を経営する傍ら『ネパリ・サマチャー』を発行してきたそうですが、現在は『ネパリ・サマチャー』一本で、ウェブ版まで作っているというから驚き! ウェブ版をのぞいてみると、新聞には「03」から始まる電話番号のネパール料理のお店やカフェが広告を出していたり、資格取得について書かれている記事も発見。ネパール語なので読めませんが、母国から日本に移り住んでいる人にはどんなにかうれしい新聞だろう……としみじみしてしまいました。
日本人も住む街、新大久保
これだけ国際色豊かな街ですが、もちろん日本人も住んでいます。著者の室橋さんだって住んでいるし、ここで生まれ育った方もいらっしゃいます。100年近く代々この土地で商売をしてきた人だっていらっしゃいました。『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』には、2020年3月でお店を閉めてしまった靴屋のオーナーさんの声も掲載されています。
「100年、続きましたからね。そりゃあ残したいと思いましたよ」
街の観光地化、多国籍化にどうにか対応しようと苦心してきたが、ここ数年の韓流ブームの主役は10代の女の子たちだ。ヨンさまの頃にはお金のある40代から60代の女性が多かったが、いまは違う。まだ学生の若い韓流ファンにとって、例えば3000円の靴でも大きな買い物なのだ。日本人の住民は高齢化し、靴の需要はあまりない。東日本大震災以降に増えた東南アジア、南アジア系の外国人もときおり来店するが、どうしても客単価は低く、売り上げは年々下がるばかりだった。
(『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』より引用)
わかってはいることですが、どこか悲しく感じてしまう部分もありますよね。
私はまだ自分の目で新大久保の街を確かめていないので、あくまで本を読んだ感想になってしまいますが、この変化し続ける新大久保の街から、未来の東京そして日本を知れるような気がしました。今年のうちに、この目でしっかり新大久保を確かめたい! そんな気持ちになっている、今日このごろです。
『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』には、新型コロナウイルスと戦う新大久保の姿も描かれています。また変わりゆく街の中で暮らす日本人はどんな気持ちなのだろう、未知の国である日本で暮らしながらコミュニティを築いていく人々にはどんな苦労があるのだろう、ブームを生み出す消費者は「ブーム」だけで終わらせていいのだろうか、など一冊読むだけで頭がパンクしそうなくらい考えることがたくさんありました。
ボリュームもたっぷりなので、秋の夜長にもおすすめです! 2〜3年後の新大久保は全く違う街になっているかもしれない……そんなことも考えながら、今いる日本、そして自分の住む街にも目を向けてみたくなる一冊になると思いますよ。
【書籍紹介】
ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く
著者:室橋裕和
発行:辰巳出版
“よそもの”によって作られ、常に変貌し続ける街・新大久保。気鋭のノンフィクションライターが活写した、多文化都市1年間の記録。
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