本・書籍
自己啓発
2020/11/9 6:30

もう「将来の夢は?」なんて聞けない。紀里谷和明が全人類に問いかける一冊『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた』

先日、元SMAPのメンバーだった森 且行氏が、悲願のオートレース日本一を獲得したというニュースが飛び込んできた。私の青春であり、永遠のアイドルである森くん。SMAPを脱退するとき、他のメンバーと「アイドル、オートレーサーと進む道は違うけどお互いに日本一になろう」と約束したことを、24年かけて叶えてくれた。これ以上、胸アツなことがあるだろうか。

 

やはり「夢」は、いくつになっても持ち続けていたい。「夢」があるから、毎日頑張れる。

 

無論、そのとおりだ。「夢だけ持ったっていいでしょ?」と嵐も言っている。けれど、その「夢」が見当たらない人が相当数いるのも事実。自分が何をしたいかわからない。やりたいことが見つからず、人生に迷ったり、焦ったり、悩んでいる人は、少なくない。

 

地平線を追いかけて満員電車を降りてみた』(紀里谷和明・著/文響社・刊)は、人生にモヤモヤを抱えている人にとって、大きな布石となる一冊だった。

紀里谷和明が4年半かけて完成させた渾身の一冊

紀里谷和明氏は、映画監督であり写真家であり、常に世界に向けて新しい試みを発信しているクリエーターだ。

 

そんな彼が、じつに4年半もの年月を費やして手掛けた本書。「成功したい」「自分を好きになれない」「やりたいことが見つからない」「仕事がうまくいっていない」「人生をあきらめかけている」5人の登場人物と、日本のどこかに存在すると言われている、とある劇場の支配人との対話形式で物語は進んでいく。

 

たとえば、「成功したい」と願う若者。お金が欲しい、モテたいという願望からはじまり、支配人と話をしていくなかで、次第に自分の中にある本音と向き合っていく。

 

本当はモテたいのではなく、モテている人だと思われたい。世間からうらやましがられたい。人からバカにされたくない。では、その「世間」や「人」とは、一体誰のことだろう?

 

会話が進むごとに、避けていた自分との対峙を余儀なくされる。禅問答のようなやりとりが続くことで、支配人に反抗する者もいるし、ヒステリックになる者もいる。けれども、次第に相談者の思考がクリアになっていく様は、まるで読者である自分自身の心まで整っていくような感覚だ。

 

「何になりたい?」ではなく「どうありたい?」

ひとつ、本書の中で特に印象に残ったシーンを例にあげよう。

 

子どものころ、おそらく誰もが聞かれたであろう「おとなになったらなにになりたい?」という質問。七夕の短冊には将来の夢を書いた……いや、書かされた。親戚が集まれば「花楓ちゃんは大きくなったら何になりたいんや?」というのが、常套句だったように思う。とりあえず、久しぶりに会ったら「大きくなったな~。もう○年生か! 身長いくつになった?」と尋ねるのと同じようなノリで。

 

けれど、この質問こそが、「自分は何者かにならなくてはいけない」という強迫観念を植え付けられているのでは? そう支配人は語る。

 

「何になりたい?」と聞かれたら、何かしらの職業名を答えなくてはいけない。肩書を持つ何者かにならなくてはいけない。幼心に、そう刻まれてしまうのではないかというのだ。

 

これには、いたく納得、賛同した。だからこそ、自分が何者にもなれず悩む大人がたくさんいるのではなかろうか。

 

では、どう質問すればいいのか。支配人はこうやさしく語る。「大人になったら、どうありたい?」

 

そう尋ねれば、答えは少し変わってくるだろう。何になりたいのではなく、どうありたいか。これは深い。とても深い。

 

この本を読み終えるスピードは人それぞれ

この本を、サクサク読める人もいるだろう。けれども、人によっては読みながら自己の人生を振り返り、考え、長い時間をかけて読み進めるだろう。時に心の奥底の痛い部分を突かれて、本を閉じたくなることもあるかもしれない。

 

じつは『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた』は、紀里谷氏や彼のまわりの人々(主に編集者たち)の実体験に基づいて描かれたとのこと。特に第4章に出てくる話は、紀里谷氏自身の体験談そのものだそうだ。そのことを踏まえて読むと、また違った感慨深さが味わえる。

 

きっと誰もが紀里谷氏の言葉に触れることで、心の奥底にしまい込んだ感情や、抱えている迷いに向き合い、明日が少し明るくなるヒントを貰えるのではないだろうか。時折挟まれる美しい風景写真にも、心洗われる一冊だ。

 

【書籍紹介】

地平線を追いかけて満員電車を降りてみた

著者:紀里谷和明
発行:文響社

総制作日数4年半に渡る超大作!!  ハリウッドデビューした日本人映画監督・紀里谷和明氏初の自己啓発小説(対話篇)がついに発売!!

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