本・書籍
2021/2/21 6:00

3日間牛乳につけ込み、3回煮こぼすとカラスの肉が美味しくなる!?カラス対策ベンチャー創業者のアイデア~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

鳴き声研究者がカラスのだまし方を語る

こんにちは、書評家の卯月鮎です。喫茶店で隣のお客さんのおしゃべりが気になってしまうことってよくありますが、私は一時期カラスの会話が気になっていました。というのも散歩ルートによく2羽のカラスが電線の離れたところに止まりながら、鳴き合って会話していたのです。

 

定例の業務連絡か、はたまた惚れた腫れたの噂話か……。その掛け合いはなんとなく楽しそうで、もしかしたらカラス界のお笑いコンビで、ネタ合わせでもしていたのかなと勝手に想像しています(笑)。

さて、今回紹介するのは『カラスをだます』(塚原直樹・著/NHK出版・刊)です。賢いカラスをいかにだますかというアイデアに満ちた本。また、迷惑にも思える“黒い隣人たち”との共存方法を探る本でもあります。

 

著者はカラスの鳴き声を専門とする研究者で、研究データを生かしてカラス対策ベンチャー「CrowLab」を起業した塚原直樹さん。「カラス料理研究家」という変わった肩書きも持っています。18年間カラスと向き合ってきて得た知見がユーモアたっぷりに語られ、面白くて、なるほどな内容です。

 

カラスのミートパイは絶品!?

1章は「カラスを動かす」。起業前に山形市の依頼を受け、「カラス誘導大作戦」を行うことになった著者。「いてほしくない場所」である山形市役所では天敵であるタカの鳴き声やカラスが敵と戦うときの「グワッグワッ」という声を流し、「いてもいい場所」である山形地方裁判所や山形県郷土館ではカラスがねぐらに帰るときの「アー アー アー」を放送する……。これでカラスの群れを動かすことに成功しました。

 

著者によればカラスの鳴き声は音声を画像化する「ソナグラム」を使うとなんと41種類に分類されるそうです! なかでも「挨拶の鳴き声」「威嚇」などわかりやすいものは6種類。こうした声をうまく利用すればある程度カラスを誘導できるわけです。

 

第2章は「カラスになりきる」。カラスは真っ黒というイメージですが、よく観察すると「構造色」という規則正しい微細な構造によって黒の中に青や紫の色が現れる仕組みとなっています。

 

さらにカラスは人間には見えない紫外線を認識する能力があり、カラス同士では黒に見えていない可能性が高いのだとか。意外にカラスは自分たちをカラフルだと思っているかもしれません(笑)。

 

カラス料理について書かれた第4章も興味をそそられました。ただ処分されるよりも食資源にしたほうがいいと考えた著者は、まず塩焼きにしてみたところ、「硬いグミ」よりもはるかに硬く、独特の臭さで、味は鉄分が強い……。

 

そこで臭みを取るため3日間牛乳に漬け込み、3回煮こぼしてブーケガルニ(香草の束)とともに数時間煮込んだ「クロウシチュー」を作ったところ、これは好評。ただし独特のカラス臭がうっすら追いかけてくる……。

 

さらなる研究の結果、甘味を追加し、硬さを克服したカラスのミートパイが完成。味は絶品だとか。チャンスがあれば味見してみたいですね。

 

数年前に話題となったカラス本『カラスの教科書』は生態学的な研究者の視点でしたが、本書は社会的なカラス対策という視点が入り、人間側の苦労も書かれています。酒の席で思い付いたアイデアをすぐに実行に移す、著者の高いバイタリティも文章から伝わってきます。都市に生活する私たちにとって一番身近な鳥であるカラス。うまく付き合っていくのが理想ですね。

 

【書籍紹介】

カラスをだます

著者:塚原直樹
発行:NHK出版

テレビでも話題の「カラス語」研究者にして全国から引っ張りだこのカラス対策専門ベンチャー創業者が、長年の鳴き声研究のエッセンスから科学的な追い払い方までを、豊富な事例とともに楽しく解説。さらに、自分の目で確かめた事実のみに基づいて、カラスはなぜ黒い? 襲われないためにはどうすればいい? 肉を美味しく食べるには? などの疑問にも試行錯誤のままに詳しく答えます!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。