人は誰でも、生まれ育った故郷には愛着を持つものだ。「うちの田舎なんか何にもありませんよ」と地元をディスる人だって、高校野球では故郷の出場チームを応援するし、地元出身の芸能人には親しみが湧く。最近、B級グルメやゆるキャラなどのご当地ブームが盛り上がりを見せている。「秘密のケンミンSHOW」などのテレビ番組も人気だ。
ところが、住民の郷土愛が強すぎるためなのか、隣り合う自治体同士が因縁のライバル関係にあるという例も少なくない。
■時間が経っても解決しない!?
『日本全国因縁のライバル対決44』(浅井建爾・著/主婦の友社・刊)には、因縁のライバル関係にある様々な市町村の例が掲載されている。驚きなのは、紹介されている多くのライバル関係が、つい最近始まったものではないということだ。明治初期とか江戸時代まで遡る例が異様に多いのである。
例えば、福島県の会津若松市と山口県の萩市は、江戸末期の戊辰戦争で戦いを繰り広げた関係だ。1988年ごろ、萩市が持ちかけた姉妹都市締結を会津若松市が断ったとされる。すでにその時代に生きていた人などいないわけで、そろそろ和解してもよさそうなものなのだが、未だに両者の関係は微妙といわれる。
おそらく、親から子へと伝えられ、相手への敵対意識が醸成されているのだろう。子ども時代に刷り込まれてしまうためか、時間が経てば解決しそうな問題が解消されないのである。ライバル関係は人対人だとあまり表面化しないが、自治体対自治体だと争いになってしまうのだ。
■県庁所在地を巡る、前橋市と高崎市の熾烈な戦い
北関東の群馬県の例を見てみたい。群馬県の県庁所在地は前橋市だが、隣には交通の要衝として発展した高崎市がある。本書では両者について、ライバルと言うより敵対関係にあると解説している。事の発端は、明治初期の県庁移転問題だ。もともとは高崎に県庁がおかれたのだが、軍事上の都合から前橋に県庁所在地を移転。そのまま前橋が県庁になってしまったのだ。高崎市民にしてみれば、自分たちが群馬の中心になるはずだったのにという思いがあり、前橋に対する対抗意識が生まれたという。
以後、高崎は前橋を追い抜くべく都市計画を進めてきた。前橋は政治の中心で高崎は経済の中心と、ある程度のすみわけがされていたが、高崎は経済力を背景に大学や音楽ホールの整備など、文化施設を充実させていく。そして、ついに人口でも前橋を追い抜いたのだ。
そのような経緯があるので、仮に両者が合併すれば人口は70万人を突破し、政令指定都市になれる規模なのだが、頑なに行わないのだそうだ。
■“燕三条”と“三条燕”が生まれたワケ
新潟県の中央部にある燕市と三条市。この地域を訪れた県外出身者は、奇妙な名称に気づく。新幹線駅は“燕三条”だが、高速のICは“三条燕”になっているのだ。混乱を招くこの名称は、いったいどうして生まれたのだろうか。
原因は、燕と三条の長きにわたるライバル関係にあった。江戸時代、燕は職人の街で、三条は商業の街だった。本書によると、燕の職人が作った品物を三条の商人が安く買い取って販売したため、燕の人々は独自の販路を見出そうとした。しかし、三条商人の圧力で計画が潰されてしまったという。そのため、両者は敵対意識を持つようになったというのだ。
上越新幹線の建設が決まったとき、両市は誘致合戦を繰り広げた。打開策として、両市の境界に駅が設けられることになったのだ。しかし、肝心の駅名がなかなか決まらない。燕と三条のそれぞれの地名を盛り込むことまでは決まったが、燕と三条、どちらを先にするかで議論が紛糾した。そこで、地元出身の政治家・田中角栄が仲裁に入ることになった。燕三条駅は駅長室を三条市に置く代わりに、燕を先に置く“燕三条”で決着。一方、近くに建設されていた高速道路のICを燕市におく(出入口は三条市)かわりに、三条を先に置く“三条燕”にすることになったのだ。
■地方創生の時代、自治体は協力すべき
今年開通した北海道新幹線でも、駅名で紆余曲折があった。「新函館北斗」駅は当初は「新函館」駅になる予定だったが、駅が置かれる北斗市長が「北斗駅にすべきだ」と発言。さんざん迷走した結果、「新函館北斗」という、なんとも奇妙な駅名で決着してしまった経緯がある。
地域のシンボルである駅名などは火種になりやすいといえるが、一方で、現代は地方創生が叫ばれる時代だ。バトルを繰り広げるのではなく、力を合わせて協力する体制が求められているのではないだろうか。(文:元城健)
【参考文献】
日本全国因縁のライバル対決44
著者:浅井建爾
出版社:主婦の友社
『あまちゃん』や「マイルドヤンキー」に代表される、「地元愛」。しかし、郷土を愛するがあまり、他県や他地域への強烈な対抗意識が生まれることも。人はつい地元のことになると、「絶対うちのほうが都会」「いや、うちのほうが東京に近いから都会」、はたまた「うちは京都の荘園があった」、さらには「スタバもタリーズもうちのほうが数が多い!」「妖怪の数ならうちが圧勝!」などなど、他人からしたらどーでもいいことに熱くなってしまうのです。 本書では、巷伝わる、どうもうまくいっていない県や市町村同士のバトルを、面白おかしく書いてみました。読んだらきっと、地元に帰りたくなるはずですよ。