本・書籍
2021/2/28 6:00

素粒子物理学は究極のブロック遊び!? 物理学者の頭の中を覗く~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

あなたの頭の中は文系? 理系?

こんにちは、卯月 鮎です。私の頭の中は文系一色。理系で特に数字に強い人がうらやましく感じます。原稿を書いているときも数字を間違うことがしばしば。本の値段や作者のデビュー年など、数字だけは3回見直すようにしています(笑)。数字に対する感受性がゼロなんでしょうね。

 

それでも、昔は実家や友人の電話番号を覚えていました。しかし、今ではすっかりスマホ任せ。もし、スマホを忘れたらどこにも連絡が取れません。覚えている数字といえば「いい国つくろう鎌倉幕府」くらい。まあそれも今では違う説が複数あるらしいですが(笑)。

さて、今回紹介するのは『物理学者のすごい思考法』(橋本幸士・著/集英社インターナショナル・刊)。まさに物理学者の頭の中をのぞける1冊です。

 

著者の橋本幸士さんは、大阪大学の教授で超ひも理論を専門とする物理学者。カジュアルに超ひも理論を解説する内容が好評で、マンガ化もされた『超ひも理論をパパに習ってみた』でも知られています。

 

本書は「小説すばる」に連載された科学エッセイとブログをまとめたもの。普段、物理学者が何を考えて生活しているのか。「物理学なんて難しい……」と思われるかもしれませんが、軽妙な語り口でしっかりオチもついた各4ページずつの読みやすいエッセイとなっています。

 

「無限」も「肉」も気になってしょうがない!?

第1章は「物理学者の頭の中」。職業病とも言える独特の思考回路が紹介されています。よく使われる定番のフレーズ「若い君たちには無限の可能性があります」も物理学者にとってはひっかかる表現。「無限」に過敏に反応し、「無限」とはどのくらいの大きさなのか考え込んでしまうとか。家族でギョーザを作っていて、タネに対して皮が足りなそう。そんなときも、タネと皮がピッタリなくなるギョーザの定理を編み出してしまう……。文系の日常とは大幅に違いますね(笑)。

 

第2章は「物理学者のつくり方」。橋本さんの少年時代、学生時代が語られます。父が持って帰ってきたダイヤブロックから始まり、今でも娘とブロック遊びを楽しんでいる橋本さん。ブロックは、極めて単純で種類の少ない構成要素を大量に用いて、新しい形や機能を生み出す遊びで、これは物理学の素粒子(17種類)と同じ……とのこと。素粒子物理学は究極のブロック遊び! お子さんを科学者にするならブロックがオススメかもしれません。

 

そのほかにも、家族で行った焼肉屋で「肉」という文字を見て、なぜ漢字には左右対称のものが多いのか、焼けた肉もそっちのけで思考の世界に入ってしまったエピソード。

 

メガネを外すと周囲の情報がシャットアウトされて集中するのに便利だが、電車でそうしていたら向かいの席の女性に睨み付けたと勘違いされた失敗談など、ほのぼのとした日常が伝わってくる話題が多数。

 

見えている世界がまったく違い、ちょっとした異世界ファンタジーの趣きもある一冊……なんて感じるのは、私の頭の中が小説脳だからでしょうか。

 

【書籍紹介】

物理学者のすごい思考法

著者:橋本幸士
発行:集英社インターナショナル

物理学者は研究だけでなく、日常生活でも独特の視点でものごとを考える。通勤やスーパーマーケットでの最適ルート、ギョーザの適切な作り方、エスカレーターの乗り方、調理可能な料理の数…。著者の「物理学的思考法」の矛先は、日々の身近な問題へと向けられた。超ひも理論、素粒子論という物理学の最先端を研究する学者の日常は、「異次元の視点」に満ちている!ユーモア溢れる筆致で物理学の本質に迫る科学エッセイ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。