本・書籍
2021/5/30 18:00

車のボンネットでご飯は炊ける? 理系研究者が食の疑問に体当たりチャレンジ!~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

理系研究者が料理を大実験!

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。人間は文系脳と理系脳に分かれるとよくいいますが、それなら私は徹頭徹尾文系脳。いまだに電子レンジは魔法だと思ってますし、冷蔵庫もとりあえず入れておけば食品が長もちする封印の箱だと思っています(笑)。まあ、封印にも限界があって、奥から干からびた野菜が発見されるんですけど。

そんな文系の私からすると、理系の発想で発明していく今回の新書『理系研究者の「実験メシ」 科学の力で解決! 食にまつわる疑問』(松尾佑一・著/光文社新書)はものすごく刺激的。

 

「炎天下の車のボンネットでお米は炊けるのか?」「マンガに出てきたタクアン製造マシンを実際に作れないか?」など、日常のちょっとした疑問から料理を科学し、装置を作っていく。まさに大人の自由研究です。

 

著者は放射線生物学・分子生物学を専門とする研究者で、国立大学で研究教育職に従事する松尾佑一さん。『彼女を愛した遺伝子』『生物学者山田博士の聖域』など、科学や科学者にまつわる小説も数多く手がけている作家でもあります。今回は初の新書。9本の科学エッセイが軽妙な文章でつづられていきます。

 

自転車でバターを作れば0カロリー!?

これはいい! と思ったのは、第2章の「ソーラー炊飯器」。「炎天下の車のボンネットで目玉焼きが作れる」という話はよく聞きます。しかし、松尾さんは目玉焼きがそれほど好きではなく、そのことを学生に話すと「じゃあ、お米は炊けませんかね?」と言われ、この実験が始まりました。

 

しかし、JAF(日本自動車連盟)の報告によると、ボンネットに近いダッシュボードの温度は79度。お米を炊くには98度で20分加熱が必要で、これでは温度が足りません。そこでボンネットでの炊飯はあきらめ、レンズで太陽光を集めるソーラー炊飯器を作ることに。

 

塩化ビニルシートにアルミホイルをスプレーボンドで接着して反射板を作り、300mlのコーヒー缶に黒ビニルテープを巻いて炊飯容器にする……。実験装置は組み上がりました。果たして太陽光だけでお米は炊けるのか?

 

第6章は「自転車バター」。スコーンを作っていた奥さんを手伝い、生クリームを振ってバターとホエーに分離させていたとき、「自転車を漕ぐ振動でバターを作れないか?」とひらめいた松尾さん。さらに、「自転車に乗って消費したカロリー数(A)」と「できあがったバターのカロリー数(B)」を比べたら面白いのでは? と考えました。

 

ということで生クリームを背負って自転車で1時間走ってみたところ……見事に失敗。生クリームはまったく分離しませんでした。ならば自転車を漕ぐと回転するクランクを利用して、生クリームが入ったペットボトルを振動させたら?

 

失敗してもそのデータを活かしてさらなる工夫をする。妄想や空想に終わらず、具体的な形にしてチャレンジする前向きさが、本書の読後感の良さにつながっています。

 

ほかにも、遠心分離器を使ってコーヒーの粉を取り除く「遠心分離コーヒー」、世界最小の調理器で作る「ポケットポップコーン」などに挑戦しています。手描きの図解やイラストも味がありますね。

 

ふとした思いつきをきっかけに始まる“実験メシ”の試行錯誤は、ロジカルかつコミカル。こうしたなかから私たちの生活を一変させる、とんでもない発明が生まれるのかもしれません。

 

【書籍紹介】

『理系研究者の「実験メシ」 科学の力で解決! 食にまつわる疑問』

著者:松尾佑一
発行:光文社

「ポップコーンの白い部分は何でできている?」「炎天下の車のボンネットなら目玉焼きが作れそう」――ふとした瞬間に湧き上がる食に関する様々な疑問、一度は感じたことがありませんか? 本書ではそんな疑問に大学で生物学を教える研究者が実際に実験して体当たりで解決します。世界最小の調理器具を作ろうとして、ポケットインサイズのポップコーン製造機を自作してみたり、いつでも美味しい手作り納豆を食べられるように、家でできる納豆の作り方を模索してみたり――。成功あり、失敗あり、ハプニングありのちょっぴり大人な自由研究がお腹と知的好奇心を満たします!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。