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2021/5/26 18:00

スマホを見ても迷子になってしまう人におすすめ!『方向音痴って、なおるんですか?』著者・吉玉サキさんインタビュー!

「角を曲がると目的地の方角がわからなくなる」「駅から出て最初の一歩は勘」「徒歩10分と書いているのにその時間内にたどり着けない」など、方向音痴で困った! ことはありますか?

 

そんな方向音痴な人に寄り添ってくれる『方向音痴って、なおるんですか?』(交通新聞社・刊)が2021年5月21日、雑誌『散歩の達人』のウェブメディアさんたつの連載を経て発刊されました。

 

著者は『山小屋ガールの癒されない日々』(平凡社・刊)でも人気の、ライター・エッセイストの吉玉サキさん。吉玉さんが過去にnoteへアップした記事「方向音痴専用ナビを作ってほしい」を読んださんたつの編集部(本書にも出てくる中村嬢さん)が、吉玉さんへ依頼したことから連載がスタートしたそう。今回は、吉玉サキさんに方向音痴あるあるや、方向音痴をなおして(!?)これからやってみたいことを聞いてみました。

 

吉玉サキ

ライター・エッセイスト。札幌市出身。北アルプスの山小屋で10年間働いた後、2018年からライターとして活動を始めた。近著は『山小屋ガールの癒やされない日々』(平凡社)。山では迷ったことがないが、下界では方向音痴。

 

あなたはいくつ当てはまる? 『方向音痴あるある』

——『方向音痴って、なおるんですか?』を読ませてもらったのですが、「なんで?」と思うことがたくさんありました。特に「最初の一歩を勘で歩き出す」という方向音痴あるあるには驚きで!

 

吉玉 私も最初の一歩はとても怖いんですよ。けれど、勘しか頼るものがないので、もう仕方なくその一歩を踏み出しているんです。実際に歩き出して、GoogleMapが思った方向に向いていれば「良かった」と思うし、違っていたら……。

出口がひとつしかないような田舎の駅や慣れている場所なら、その目的地へなんとかたどり着けるんですけど、都内の大きな駅っていくつも出口があるだけじゃなく、上下のレイヤーも加わるじゃないですか。新宿駅だと小田急線をよく使うのですが、降りた時って地下だったり地上だったりするし。その時点で出口が分からなくなります。

 

——複雑な駅、多いですからね。Twitterでも「#方向音痴ってなおるんですか」のキャンペーンが行われていますが、こんなにも皆さん悩みながら生きていたのか! と感じました(笑)。

 

●キャンペーンツイート(5月31日まで募集中です)

 

吉玉 面白いですよね。こちらの方のツイートとか、フランダースの犬みたいな情景を思い浮かべてしまいました。この感覚はすごく理解できるんです。

 

 

——そうなんですね! 吉玉さんも「マリオカート」のツイートをされていますが、現実の世界だけでなくゲームの中でも方向感覚が分からなくなってしまう?

 

 

吉玉 はい。なんどもジュゲムにブブ〜って言われます(笑)。

 

——ワハハ! ちなみに本書の中でも書かれている10個の『方向音痴あるある』ですが、私は「東西南北ではなく前後左右で言ってほしい」は分かりますけど……って感じでした(笑)。なので、吉玉さんと一緒に街歩きしたら楽しいだろうなと思って読ませてもらいました。

 

【方向音痴あるある】

1.地図をくるくる回してしまう
2.駅にある案内図など「北が上じゃない地図」を見てもそのことに気づかない
3.カーナビやグーグルマップのナビ機能に酔う
4.最初の一歩を勘で歩き出す
5.ショッピングモールで同じ店にばかりたどり着く
6.個室居酒屋がニガテ。トイレから戻ってこられない
7.東西南北ではなく前後左右で言ってほしい
8.太陽を当てにする
9.グーグルマップに向かってしゃべったり怒ったりする
10.駐車場に止めた自分の車を探し出せない

 

吉玉 一緒に歩いたらきっとイライラしちゃうと思いますよ(笑)。5年以上住んでいる家の近隣でも、知らない道を通ると分からなくなってしまいますから。実家の母が東京へ遊びにきた時、家の近所のスーパーに寄ってから「近くに公園があるんだよ」と行くことになったのですが、出発点が家じゃなくなってしまったからか、たどり着けなかったんですよ。家から徒歩5分圏内でそれが起こってしまうので。

 

——住んでいる場所でもそうなんですね!

 

吉玉 あと道が全部90度、直角に曲がっている、カーブもなく直線の道を歩いているという感覚もあって。空想地図作家の今和泉隆行(いまいずみ・たかゆき)さんとの対談で、よく行く町田駅周辺の地図を描いて、その地図を見てもらったんですが、『わぁ、全部縦横になってる!(笑)』と言われちゃいました。

 

方向音痴を自覚したのは、大人になってから

——そんな吉玉さんが「私って方向音痴かも?」と思ったのはいつごろからなのでしょうか?

 

吉玉 いつぐらいだろう、う〜ん……。大人になってからだと思います。上京したのが19歳くらいなのですが、当時は積極的にあちこち遊びに行っていました。けれど、就職活動中の説明会会場にたどり着けずスーツで迷子になることなどが重なっていき、「方向音痴かも?」と自覚するようになりました。

 

——では、幼いころは特に迷うこともなく?

 

吉玉 子どものころは、そもそもひとりで知らない場所を歩くことがなかったので、自分でも「方向音痴だ」と認識するタイミングもなかったのかもしれませんね。街の中を歩いていても「〇〇に行きたい」と言えば、周りの友だちが先陣を切って「こっちだよ!」と誘導してくれていたので、ついていくキャラだったんですよ。私自身も周りの子も「方向音痴」という自覚がなかったのかもしれませんね。

 

——『方向音痴って、なおるんですか?』の中で、札幌のお友達“トモちゃん”にお題を出してもらって街を巡るコラムがありましたが、トモちゃんは「方向音痴だったよね」と言ってましたね(笑)。

 

吉玉 昔から友人には、気がつかれていましたね(笑)。

 

——うふふ。吉玉さんは、山小屋で働かれていた様子を『山小屋ガールの癒されない日々』に書かれています。登山しない人からすると山の方が迷うように思うのですが……。

 

吉玉 山道って正解は1本しかないんですよね。正解の道があって、間違えて入っちゃいそうなところは「ここ違うよ!」って×印が書いてあるので迷いません。あと、私は主に人気の山を登るので「踏み跡」を見ればたどり着くことができるんです。

けれど下界には正解の道がないので……。行きたい道に印がついていれば行けます。

 

——下界! 迷路みたいな感覚になっちゃうんですかね?

 

吉玉 そうですね。方向音痴じゃない人は、「絶対にこの道じゃなくても大体の方角が分かれば、最終的にはたどり着けるから」って言うんですけど、目的の方角が角を曲がると分からなくなってしまうんです。

 

知らないところへ行く恐怖感は、すこ〜し和らいだ

——『方向音痴って、なおるんですか?』では、4人の専門家と対談や街歩きをしながら方向音痴について紐解かれています。目から鱗だったエピソードなどはありますか?

 

吉玉 認知科学者の新垣紀子(しんがき・のりこ)教授とのお話は「なるほど」でした。方向音痴じゃない人にとっては、教えてもらうまでもなくやっていることだと思うんですけど、地図と現実の景色を照らし合わせる時に目印を2つ以上見つけることで、自分の位置関係の把握ができるようになりました。

夫にこれを言ったら「教えてもらわなくても子どものころから知ってた」と(笑)。

 

↑目印がひとつの場合。左手にデパートがあるが、これだけでは現在地が特定できない(絵と図 デザイン吉田)

 

↑目印がふたつの場合。左手にデパート、右手に交番がある場所を地図上で探せば、現在地を特定できる(絵と図 デザイン吉田)

 

——なるほど(笑)。私はゲームをやりながら地図に強くなったと感じるんですけど「こうやって地図を見ようね」って教わらないですからね。

 

吉玉 そうですよね。自分の好きなことや関心を持てるようになると、なんでも覚えられるなって、今回の連載を通じて感じました。

そもそも、街に対して好奇心がある方じゃないと思っていたんですけど、東京スリバチ学会の皆川典久(みながわ・のりひさ)さんと四谷の街歩きをしたのもすごく面白かったんですよ。知的好奇心がくすぐられて「おもしろ〜」となっちゃって。

 

——地図をどう読むかよりも、街に興味・関心を持てるようになったことで地図を見ること、街歩きが楽しくなってきたのは素敵ですね!

 

吉玉 地図研究家の今尾恵介(いまお・けいすけ)さんも方向音痴らしいんですよ。けれど、「迷うのも楽しいよ」と対談していく中で教えてもらって。今尾さんは、あえて地図を見ずに電車がなかなか来ないような田舎の道で迷っているともおっしゃっていました。

 

——迷うのも楽しいかぁ〜。今日、吉玉さんとお話をするって思いながら寝たからかもしれないんですけど「会議室にたどり着けない〜!」って焦りながら、走り回る夢を見たんです(笑)。楽しくはなかったです!

 

吉玉 私も迷う夢、よく見ますよ! めちゃくちゃ焦りますよね(笑)。

けれど、連載のおかげで「知らないところへ行く」ことへの恐怖心は少し和らいだと思います。とはいえ、いまだに初めての場所で「打ち合わせです」とか言われちゃうと、プラス30分は余裕を見て行くようにしています。たどり着くまでにドキドキしてしまうし、たどり着いてからがお仕事なのになんだか着いただけで一仕事終えているので(笑)、終わるころにはぐったりしていますよ。

 

一人の時間も楽しめるような人になれたら、と思えるようになった

——いやぁ大変だ(笑)。『方向音痴って、なおるんですか?』は、方向音痴に悩む人は吉玉さんと一緒に「なるほど!」と成長していくような一冊になっていますし、当たり前に地図を読める人にとっても、街を楽しむ新しい視点をもらえるところがたくさんあると思いました。これから吉玉さんがやってみたいことはどんなことでしょうか?

 

吉玉 出不精のわりに、知らない街が好きなので、いろんな街に行ってみたいと思っています。編集部の中村さんと歩いた谷中も「わ! 猫がいる〜」とかお話ししながら気兼ねなく街ブラができてとても楽しかったんですよ。今度は、城下町とかを着物を着て歩いてみたいですね。

 

——いいですね〜! 一人旅ですか?

 

吉玉 基本的には友達や夫とか、誰かと一緒に歩くのが好きなんですよ。谷中も中村さんと一緒だったから楽しかったと思うんです。いつかは、一人旅、一人で街歩きも楽しめるようになりたいなぁとは思います。

 

——過去に一人旅はされたことありますか?

 

吉玉 昔、18きっぷで実家のある札幌から東京まで一人旅をしたことが一度だけあるんですが、大きい駅があまりないので、迷いようもなくて(笑)。一人旅をしたいと思っている方向音痴さんは、18きっぷの旅おすすめですよ。もう来た列車に乗ればたどり着けますから。

 

——面白い! 最後になりますが、これから『方向音痴って、なおるんですか?』を読まれる方にメッセージをお願いします。

 

吉玉 ネタバレになるかもしれませんが(笑)、この本自体、私が克服したってほどでもないし、具体的な解決策が書いてあるようなノウハウ本ではありません。対談させてもらった4人の達人がどのように街を楽しんでいるか、今までにない視点に触れていただくことで、街の楽しみ方を知っていただけると思います。方向感覚がなくても、迷っても街は楽しい、楽しめるということを伝えられればと思います。

 

 

「方向音痴」というと、ちょっとネガティブに感じてしまうことですが、明るくポップに「道が分からなくなっちゃうんですよね〜」とお話ししてくれた吉玉さん。

 

私としては「迷ってはいけない!」「間違えてはいけない!」という気持ちで歩いていることがほとんどだったので、知らない街の知らない道を「分からなくなってしまった」とちょっぴりドキドキしながら歩いてみたいなとも思いました。

 

目的地にたどり着くだけが正解ではなく、そこで迷ったことや困ったこと、そこで見つけたお店など、街は目的地以外にも発見がいっぱいあるはず。普段、地図係をしている人はスマホからちょっと目を離して街を眺めてみてはいかがでしょうか? また方向音痴で悩むあなたも、『方向音痴って、なおるんですか?』を読んでから街を歩くときっと今までのドキドキが楽しく変わるはずですよ!

 

【書籍紹介】

方向音痴って、なおるんですか?

著者:吉玉サキ
発行:交通新聞社

方向音痴の克服を目指して悪戦苦闘! 迷わないためのコツを伝授してもらったり、地図の読み方を学んでみたり、地形に注目する楽しさを教わったり、地名を起点に街を紐解いてみたり……教わって、歩いて、考える、試行錯誤の軌跡を綴るエッセイです。

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