本・書籍
2021/6/6 6:00

単館上映の映画が大化けしてブレイク!? 映画買い付けのコツとヒットの法則とは?~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

いつまでも心に残るニッチ作品の魅力

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はベストセラーや賞を取った本よりもあまり知られていない、でも誰かの心には確実に刺さる、そんな小説が好きでよく読んでいます。

 

映画好きにもそういった人は多いのではないでしょうか。ハリウッド映画よりも、単館上映の個性ある映画が好きという話もよく聞きます。万人受けを狙っていない、メッセージ性の強さに引きつけられますよね。

さて、今回の新書『職業としてのシネマ』(髙野てるみ・著/集英社新書)は、そうした単館系洋画配給ビジネスの裏側を教えてくれる本。

 

著者の髙野てるみさんは、フランス映画を中心とした洋画の配給会社「巴里映画」の代表取締役。これまで『テレーズ』『ギャルソン!』『パリ猫ディノの夜』といった映画を配給し、ミニシアターブームを作り上げた立役者のひとりです。映画への造詣が深いシネマ・エッセイストでもあります。

 

洋画の配給プロデューサーの仕事とは?

第1章「知られざる『配給』という仕事」では、映画業界の黒子とでもいうべき「配給プロデューサー」の役割が語られます。買い付けた映画作品を劇場にブッキングするだけでなく、来日した監督や主演俳優のインタビューを有力メディアに売り込む「宣伝」も大きな仕事。

 

髙野さんは「映画好きというだけで、この仕事を選ばないほうがいい」とアドバイスします。それは、宣伝すべき作品が自分の好きな映画だけとは限らないから。買い付けてから時間とお金を「かける(賭ける)」、リスクを伴う仕事でもあります。それでも手がけた作品がヒットすると、強いやりがいを感じるとか。文化を担う仕事でもあり、ビジネスとしてはギャンブル的な要素もあるのですね。

 

「映画ってどうやって買うんだろう?」という素朴な疑問に答えてくれるのが第2章。ビジネスの直接的な窓口は作品のプロデューサーかワールド・セールスを任されている会社。そこにかけあって金額を決めます。

 

映画祭で賞を獲得すると複数の配給会社で争奪戦が繰り広げられ、前渡し保証金「MG(ミニマム・ギャランティ)」の金額はつり上がってしまいます。髙野さんは「残り物には福がある」と、無理をせずに「掘り出し物」を探すスタンスで成功を収めています。

 

たとえばヴィルジニ・テヴネ監督の『ガーターベルトの夜』の場合、アート性とセンスの高さから、この監督は日本の女性に受けると確信した髙野さんは、パリに飛んでいきなり監督と直談判。そして監督からプロデューサーに頼んでもらい、ミニマムな金額で交渉成立にこぎつけました。

 

「シネセゾン渋谷」でレイトショーとして1日1回公開したところ、映画感度の高い人々に口コミで広がり、興行は大成功! 髙野さんの狙いは当たったのです。

 

ちなみに単館系洋画配給は初日の客層が重要で、オシャレにこだわる男女、または女子の仲良し2人組が集まるとヒットするとか。

 

本書はミニシアターを中心とした映画ビジネスがテーマですが、お堅いビジネス書ではなく、映画監督や女優さんのエピソードも豊富に挟まり、映画の魅力が伝わってくるのがポイント。

 

オンライン動画配信の定着、さらにコロナ禍によって、苦境に立たされているミニシアターですが、映画を愛する人たちがいる限り、その存在はなくならないでしょう。

 

 

【書籍紹介】

職業としてのシネマ

著者:髙野てるみ
発行:集英社

80年代以降、『テレーズ』『ギャルソン!』『ガーターベルトの夜』『サム・サフィ』『TOPLESS』『ミルクのお値段』『パリ猫ディノの夜』等の配給作品のヒットでミニシアター・ブームをつくりあげた立役者の一人である著者が、長きにわたって関わった配給、バイヤー、宣伝等の現場における豊富なエピソードを交え、仕事の難しさや面白さ、やりがいを伝える一冊。業界で働きたい人のための「映画業界入門書」である一方、ミニシアター・ブーム時代の舞台裏が余すところなく明かされており、映画愛好家にはたまらない必読書である。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。