書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。
「シルクロード」、その魅力とは?
こんにちは、書評家の卯月 鮎です。かつてテレビは一家に一台が当たり前でした。うちもご多分にもれず、子どもだった私にチャンネル権はなく、渋~いNHKの番組がご飯時には流れていました。
テレビはついていても一家団らんはお堅いムード(笑)。それでも、NHK特集「シルクロード」のテーマ曲と砂漠を渡るラクダたちの風景はいまだに記憶に残っています。大学で歴史学を専攻したのも、もしかしたらすり込まれた「シルクロード」の影響だった……かも。テレビは世界の窓口でした。
今回の新書『シルクロード~流沙に消えた西域三十六か国』(中村清次/新潮新書)の著者・中村清次さんは、NHKに入局後、1979~1981年にNHKの番組『シルクロード』の取材班団長をつとめ、当時のシルクロードブームの立役者となった人物。
退職後はNHK文化センターの講師としてシルクロード講座を担当しているそうです。今回の本はNHKのラジオ番組「カルチャーラジオ」のテキスト『シルクロード 10の謎』に大幅な加筆・修正を加えたものとなっています。
砂漠の道に隠された秘密とは?
第1章は「『楼蘭の美女』は、どこから来たのか」。世界有数の美しいミイラとして知られる「楼蘭の美女」のルーツに迫ります。約3800年前のミイラである楼蘭の美女は、1992年に展覧会のために日本に来ています。私も上野の国立科学博物館に見に行きました。
楼蘭はタクラマカン砂漠に存在したオアシス都市。司馬遷の『史記』に登場し、7世紀以降に姿を消しました。ここに住んでいたのはどんな人たちだったのか?
「楼蘭の美女」や同年代のミイラの分析によると、紀元前1800年ごろの古代楼蘭人は、インド・ヨーロッパ語を話す原ヨーロッパ人に極めて近い人種だったとか。いまだ謎多き楼蘭のルーツが垣間見えた気がします。
第2章は「さまよえる湖」ことロプ・ノール湖のエピソード。ロプ・ノール湖は琵琶湖の数倍ある巨大な湖でしたが、干上がった湖の痕跡を発見したスウェーデンの探検家・ヘディンは、「さまよえる湖」説を1905年に唱えました。
この一帯は標高差があまりなく、雪解け水を運ぶ河が流れを変えると、それに伴い湖の場所もおよそ1600年周期で南北に動き、元の湖岸にあった楼蘭もその際に廃れたというのです。実際に1934年にこの地を再訪したヘディンは、自身の予想通り、水の流れが変わっているのを確認し、この説は立証されたといわれました。
しかし、NHK特集「シルクロード」のための事前調査の結果、地理学や考古学の立場から反論が行われています。なぜ湖は動いたように思えたのか。その理由とは……。
東西の文化をつなぐシルクロードには多くの謎が眠っています。シルクロードを通って玉を運んだ謎の民族・月氏の正体は? オアシス国家で発見された巨人のミイラが着けた仮面は何を表すのか?
新書ということもあって写真が少なめなのはやや残念ですが、丁寧な文章によってシルクロードの謎と歴史がわかりやすくまとまっています。シルクロードが覆い隠していた宝箱に再び出会える1冊。ページをめくるとノスタルジックな歴史旅行が待っています。
【書籍紹介】
『シルクロード 流沙に消えた西域三十六か国』
著者:中村清次
発行:新潮社
シルクロード――それはなぜ、日本人にとって懐かしさを感じさせるのか。あの「NHK特集 シルクロード」取材班団長として、ブームの立役者の一人となった著者が、タクラマカン砂漠の謎や、楼蘭の美女と呼ばれる美しいミイラの秘密、さまよえる湖として有名なロプ・ノールの真実の姿、楼蘭の消えた財宝の行方、そして敦煌はなぜ捨てられたのかなど、今なお多くの謎が眠るシルクロード、西域三十六か国を案内する。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。