朝起きてカーテンを開けると、ベランダから50メートルくらい離れたところにある私鉄の駅のホームが見える。並んでいる人たちも、入ってくる電車に乗っている人たちも一向に減っていない。もうすっかり定着しているはずのリモートワークのイメージとは程遠い。
オフィスが要らない時代
ただ、一流企業が自社ビルを売却するトレンドが続いている。また、東京の都心部に住んでいたビジネスマンが地方都市に移住し始めているという話もよく耳にする。オフィスの集合体であるビルの中で仕事をするスタイルの働き方は、このままフェイドアウトしていくのだろうか。
ワクチン接種率の上昇といったポジティブな情報と同じくらい、たとえば変異株の猛威などに関するネガティブな情報が毎日のようにもたらされる今、開催まであと1か月を切った東京オリンピックに関しても、リアルな全体像を思い浮かべることはできない。
ものごとは、1年半前に言われ始めた「新しい生活様式」寄りで進んでいるのか。ならば、そういうトレンドを頭の片隅に置いておくだけにとどまらず、強く意識しておくほうが時代に対して積極的である気がする。
思っていたよりもできているリモートワーク
働き方改革というキーワードも浸透している。半ば強制される形ながらも、こうした概念と具体的に取り組み始めるきっかけがコロナ禍だったはずだ。会議も商談も、飲み会さえもオンラインで行われるようになり、「ある程度までできる」「想像していたほどの違和感はない」と思う人が増える中、リモートワークに対する支持率も徐々に上がっている。
ただ、リモートワークに全体重をかけるのはまだちょっと自信がない人。働き方の軸のひとつとして、もう一度基本から確かめておきたい人。どちらも少なくはないだろう。この原稿で紹介するのは、リモートワークの本質について触れた実践的・実際的な一冊だ。
新しい働き方の羅針盤
『リモートワークで生きていく! リモート歴2年以上の私が教える完全ノウハウ』(稲員未来・著/インプレス・刊)は、2020年5月に執筆されている。コロナ禍の長期化が事実として受け止められ、今後の働き方がどのようになるのか本格的に模索し始める人の数が増えようとしていた時期だ。著者の稲員未来(いなかずみく)さんは、この時点ですでに週5日のほとんどを都内の自宅でこなしていた。
私がこの本を書きたいと思った理由は、自宅で仕事したいけどリモートワークなんて無理、スキルがないからできないと諦めそうになっている人に、「こんな働き方の選択肢もあるんだ」ということをぜひ知ってほしいと思ったからです。
「リモートワークで生きていく!」より引用
そして稲員さんがリモートワーカーとして走り出した約2年後、コロナ禍がやってきた。
どこから読んでもすぐに使える内容
すぐに使える本という印象が強い。章立てを見てみよう。
第1章 リモートワークとはなにか?
第2章 リモートワークで働くためのチェックポイント
第3章 リモートワークの事例紹介
第4章 リモートワークでぶつかる壁への対処
第1章でリモートワークの基本を確認し、第2章で自分とリモートワークとの親和性を探り、第3章で実例を通してリモートワークという働き方に自分を投影し、第4章でリモートワーカーとしての自分のあり方をシミュレートしてみる。そんな流れで読み進むことができるはずだ。
気になった項目をいくつか挙げておく。「リモートワークしやすい職種・雇用形態」「リモートワークのメリット・デメリット」「自宅環境のチェックポイント」「リモートワークで仕事相手からの信頼を得るためのコツ」「リモートワークに向いている人の特徴」。この本の実践的・実際的な性質は、こうした項目からも感じ取っていただけると思う。
筆者が特に力を入れて紹介しておきたいのは、第3章「リモートワークの事例紹介」だ。著者の稲員さん本人を含め5人紹介されているのだが、“20代女性・情報システム部門”とか“40代男性・事業開発”あるいは“30代女性・コンサルタント”など、幅広いバリエーションが示されている。ここにもこの本の実践的・実際的な性格が出ている。
実用アイデアも満載
最後の第4章ではリモートワークという働き方を初めて体験する人たちが遭遇しやすい状況についてのヒントが具体的な形で示される。たとえば、業務関連のやりとりだけではなく、雑談用のチャットグループを作るというのはとてもよいアイデアだと思った。
談話室は「雑談・ひとりごと・趣味の話・なんでもOK」のチャットグループです。作成された当初は「誰がどんな投稿をするのかな?」と見守っていたのですが、社長がひとりごとを呟いたり、かわいいネコの画像を投稿しているのを見て、「こんな内容でも投稿していいんだ!」と思ったであろうメンバーが次々に投稿するようになりました。
「リモートワークで生きていく!」より引用
リモートワークのコツは、本来は業務で使う道具を少し外した感覚で取り入れていくことなのかもしれない。また、そういう意識を忘れないように日々の仕事をしていくと、想像以上にうまくこなしていけるのかもしれない。これから先の時代、これまでスタンダードだった働き方はどうなるのか。そんな瀬戸際めいた今だからこそ読んでおきたい一冊。
【書籍紹介】
リモートワークで生きていく!
著者:稲員未来
発行:インプレス
自宅環境の整え方や便利なITツール、企業視点でのマネジメント法など、リモートワーク(テレワーク)に必須のポイントを網羅的に解説。リモートワークを始めたばかりの方、これからリモートワークを導入したいという方は必読の1冊です!