こんにちは、書評家の卯月 鮎です。関東に住んでいる身としては、旅行先に沖縄と北海道、どちらを選ぶかは言ってみれば究極の選択。友達と「コロナが落ち着いたら旅行しよう!」と約束していて、沖縄そばか海鮮丼か、ラフテーかジンギスカンか、いつも盛り上がっています。どちらも美味しい食べ物があって自然豊か。まあ、本書を読んだ今はかなり沖縄に傾いています(笑)。
沖縄の島々を巡りたくなる新書
『ゲッチョ先生と行く 沖縄自然探検』(盛口 満・著/岩波ジュニア新書)は、沖縄の不思議な生き物の生態を紹介する一冊。岩波ジュニア新書という中高生向けのレーベルですが、大人が読んでも驚くこと間違いなし。
著者の「ゲッチョ先生」こと盛口 満さんは生物学を専門とし、現在は沖縄大学学長。もともとは埼玉の私立中学・高校の理科教員で、長期休みを利用して憧れの西表島にたびたび旅行し、ついには移住してしまったという経歴の持ち主。沖縄に住んでもう20年になるとか。
『コケの謎―ゲッチョ先生、コケを食う』(どうぶつ社)、『めんそーれ! 化学――おばあと学んだ理科授業』(岩波ジュニア新書)など著作多数。埼玉の教員時代、生徒たちとタヌキやイルカの死体を拾って骨格標本を作る様子をつづった『僕らが死体を拾うわけ』(ちくま文庫)は、「こんな先生に生物を教わりたかった!」と高校生をやり直したくなりました。
沖縄の不思議な生き物たち
本書は春休みに沖縄にやってきた高校生の姉・あかりと中学生の弟・太陽を、那覇に住む叔父が案内するというスタイルで進んでいきます。第1章「沖縄島・南部」でまず向かったのは、那覇港の近くにある魚市場「泊(とまり)いゆまち」。赤い色をした目の大きな魚「赤マチ」、1mほどもある巨大なイカ「セーイカ」、オウムのようなクチバシ状の口を持つ「イラブチャー」など、あかりと太陽には見慣れない魚ばかり。
昼ご飯として買ったのは「骨がおもしろい」とおじさんが勧める、丸っこい顔をした「ダルマ(和名:ヨコシマクロダイ)」。頭と骨は魚汁、身はオリーブオイル焼きにして食べたあと骨をじっくり観察します。アゴを見ると人間の奥歯に似た歯があってビックリ! 胃には硬いウニや貝殻が入っていました……。イラストもふんだんに挟まり、モノクロとはいえ図鑑のように見ているだけでも楽しめます。
その後、姉弟とおじさんは、与那国島、石垣島、西表島、宮古島……と、それぞれ特徴的な自然と文化を持つ沖縄の島々を巡っていきます。ハイライトはやはり著者の盛口さんがこよなく愛する西表島を訪れる5章。
干潟を散歩して、明治時代に絶滅したジュゴンの骨を見つけて興奮し、「野生生物保護センター」でイリオモテヤマネコの頭骨を観察して普通のネコとの違いを探ります。イリオモテヤマネコは西表島に30年以上通っているおじさんも1度しか見たことがないとか。本当にレアな生き物なんですね。
一般的な観光名所の案内は一切ありませんが、沖縄の風と太陽と海の匂いが活字から漂ってくる一冊。生物本×旅行ガイドという切り口もユニークです。盛口さんの自然を愛する温かい人柄も手伝って、読んでいて心地良い気分になりました。
【書籍紹介】
『ゲッチョ先生と行く 沖縄自然探検』
著者:盛口 満
発行:岩波書店
博物学者ゲッチョ先生の案内で、生き物の宝庫・沖縄へ出かけよう! 都会の森でホタル観察、海辺で拾える巨大な豆、ふしぎなジュゴン伝説、樹上で子育てするカエル、イリオモテヤマネコが生き残った理由――沖縄島、与那国島、石垣島、西表島、宮古島を中心に、島々の個性的な自然や文化を、臨場感あふれるイラストと共に紹介。
【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。