本・書籍
2021/7/27 6:15

よその家の事件ではない。DVの深い闇——『目に見えない傷』

DV(ドメスティックバイオレンス)という言葉は、同居する家族や恋人など親密な関係にある、またはあった者から受ける暴力のことを意味します。今までは家庭での(限定しないほうがいいかなと)個人の問題だと考えられてきたのですが、近年、これが大きな事件への起爆剤になっていることがわかってきたのです。

 

犯人がいる部屋に帰る恐怖

DVは大変特殊な事件です。なぜなら、加害者と被害者が同居している、または近い距離にいるため、事件後も一緒に暮らさなくてはならないからです。たとえ警察に逮捕されても、家族の場合、加害者が戻ってくるのは被害者が眠る部屋なのです。つまりお互いが離れない限り、再発のリスクがつきまとうことになります。

 

再び暴力を振るうかもしれない相手としょっちゅう顔を合わせなくてはならない日々は、被害者にとって相当な苦痛です。外出した際は、加害者がいる家に帰りたくなくなり、寄り道をして時間を稼ぐという人も少なくないといいます。

 

パートナー殺害では終わらない

目に見えない傷』(レイチェル・ルイーズ・スナイダー・著/みすず書房・刊)はDVについて多方面から考察した本です。ここには被害者や加害者の言葉と同時に支援組織や警察の事情も記されているので、総合的にこの問題を捉えることができます。

 

DVは次第にエスカレートする事例が多く、時には命に関わる事件に発展することまであります。日本では110件のDVが、殺人事件(未遂含む)として検挙されています(令和2年・警察庁調べ)。海外ではさらに悲惨な状況の国もあります。

 

本書によると世界中で毎日137人もの女性(子どもを除く成人女性のみ)がDVで殺されているとのこと。カナダやフランスなど、その数が増加傾向にある国も少なくないようです。そして著者は多くのDV事件を調査するうちに、あることに気づきます。

 

アメリカでの銃乱射事件を調べると、事件が起きるその前にDVが起きていることが半数以上もあったのです。事前に自宅で母親や妻を殺害してから銃乱射現場に向かうケースも複数ありました。家族だけに向けられていた暴力が外にも向かうことがあるという記述は戦慄でした。DVはよその家の出来事として片付けられないものだったのです。

 

加害者の更生とは

著者はDV加害者を逮捕するだけでは解決しないと述べています。「受刑者の出所時の暴力性は、収容された時点と比べて低下しているわけではない」(本文より)からです。アメリカではさまざまな更生プログラムが用意されてはいますが、それでもなお改善に向かわない男性たちの姿も描かれていました。

 

出所した加害者たちのなかには、プログラムで得た学びや気づきをさらに深めたいと考える前向きな人もいたのですが、彼らにないものはその資金。大学に行きたい、人生をやり直したいと望みながらも、生きていくのに精一杯のお金しか稼げず、そして気持ちが荒み、悪い仲間とつるむ……というさまを読むと、なんとかならないものかと憂えてしまいます。

 

更生とスポンサー制度

本書ではDV対策への予算の少なさについても挙げられ、スポンサーがついてはどうかという提案もなされていました。被害者への支援も大切ですが、加害者がもう2度と暴力を振るうことがないよう、更生に手を貸すことも大切になってくるでしょう。

 

本来、家族や恋人はとても大切な存在のはずです。そのかけがえのない人を痛めつけてしまうほどの怒りを加害者が抱えているのだとしたら、できるだけ早いうちにそれをコントロールする方法を考え、事件を未然に防ぐ工夫も必要です。

 

本書では若い年齢のうちからDVについての知識を伝える方法も検討されていました。私たちは、ティーンに伝えておきたい事柄のなかに、お金や性に加え、暴力をふるわれたら、そして暴力をふるってしまったら、という項目も付け加えるべきなのかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

 

目に見えない傷

著者:レイチェル・ルイーズ・スナイダー
発行:みすず書房

ドメスティック・バイオレンスは世界中で深刻な被害をもたらしている。けれども何が問題の本質なのか、そもそも何が起こっているのか、理解されているとはいえない。著者は、被害者、加害者、双方の家族、支援組織のアドボケイト、警察官などに会い、話を聞いていく。ひとは被害者に「なぜ逃げないのか」と問うが、被害者は加害者といることを選択しているのではなく、現行制度のなかで最大の警戒をしながら動いている。加害者はパートナーの日常をコントロールし、力を喪失させる。制度の隙間は事態を深刻化させる。取材するうち、そうしたことが分かってくる。警察、支援組織、法執行機関という、異なる価値観に基づく組織の連携をどうとるか、DVの危険度を判定する基準をどうつくり、共有するか。被害者が仕事や人間関係を失わずに生活をするためのプログラムとは。何年もかけた取材によって、外からは見えにくいDVの実態を明らかにし、解決への糸口を示した本として、アメリカで高い評価を得た。

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