こんにちは、書評家の卯月 鮎です。地方から東京や大阪へ出てきて、「えっ、あのお店って全国チェーンじゃなかったの!?」と驚いた経験はありませんか? 県内では圧倒的な人気でも、実は全国展開していない……という地域密着型のチェーン店は意外と多いようです。
地域密着のローカルチェーンに注目!
『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(辰井 裕紀・著/PHPビジネス新書)は、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」に約7年携わったリサーチャー・辰井裕紀さんの初となる著書。辰井さんは元放送作家で、現在はネットメディアを中心にライターとして活躍しています。
岩手の「福田パン」が愛される理由
取り上げられているのは、「ローカルで繁盛している」「すごいビジネスの工夫がある」という2つの条件を満たしている7チェーン。
第1章は岩手の「福田パン」。私は知りませんでしたが、岩手県盛岡市で1948年に開業して以来、長らく地元で愛され、最近ではコッペパンブームの火付け役となった“東北ローカルフードの代表格”だそうです。その特徴は、好みの具を組み合わせてその場でコッペパンを作ってくれる対面販売の直営店。
メニューは「あんバター」「ピーナツバター」など甘い系が30数種類、「タマゴ」「焼きそば」などの調理系が20数種類、そこにトッピングも加わり、オーダーの組み合わせはなんと2000種類以上にも及ぶとか! スーパーでもパッケージされているものが売られていますが、対面販売ではクリームが増量になるという噂もささやかれ、直営店には行列が絶えないといいます。
社長の福田 潔さん曰く、全国進出しない理由は、「いまぐらいの規模がちょうどいい」「そこに行かなきゃ味わえないほうが価値はある」とのこと。東京の「吉田パン」など、福田パンの製法を学んだお店が全国でオープンしていて、自らライバルを増やすようなやり方ですが、「仲間が増えるので嬉しい」という社長の言葉を読んで、まさにコッペパンのような素朴な温かさを感じました。
第2章は大阪の「551HORAI」。豚まんは関西のおみやげとしても有名ですよね。以前から「551」という数字の店名が気になっていましたが、本書を読んで謎が解けました。創業者が吸っていたタバコの銘柄が「555(スリーファイブ)」で、「数字なら覚えやすいし万国共通だ」とひらめいたのが理由。「551」には「味もサービスもここ(55)がいち(1)ばんを目指そう!」という意味も込められているとか。
「東京でも気軽に買えたらいいのに」という声もよく聞かれますが、生地を美味しく作るため、本部として管理できる上限を60店舗前後と見て、その範囲内で出店しているそうです。遠方の百貨店に出張する際は生地の粉とミキサーを持っていって、その場で作るという徹底ぶりです。
「豊潤で噛みごたえがある真っ白な分厚い皮がいい……ふたくち目でついに具へと到達し、やわらかい豚肉からコクがじんわり染み出る」。著者の辰井さんによる豚まんのレポートも食欲をそそります。
そのほか、茨城のうどんチェーン「ばんどう太郎」、三重のおにぎり専門店「おにぎりの桃太郎」、埼玉の「ぎょうざの満洲」……と選ばれた店は個性派ばかり。辰井さんが実際に現地へ行って取材し、経営のトップやキーマンにインタビューしているため、店舗の雰囲気、人気メニューの味から、知られざる社風まで臨場感を持って伝わってきます。
各チェーンの哲学が見えるビジネス書であり、ローカルなソウルフードの秘密に迫るグルメ本としても楽しめる一冊。みなさんが思わず自慢したくなるような地元のチェーンはありますか?
【書籍紹介】
『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』
著者:辰井 裕紀
発行:PHP研究所
「地元に残る」が価値になる。「秘密のケンミンSHOW」元リサーチャーが全国行脚!福田パン、551、ばんどう太郎…「逆境をチャンスに」厳選7店の儲かる黄金ルール。
楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る
【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。