現代女性の身を飾るものとして、指輪やネックレスなどのアクセサリーがあります。しかし、江戸時代の日本女性は宝石を身につける習慣がなかったため、髪を飾る櫛やかんざしがアクセサリーの代わりを果たしていました。
なぜ自分の身を飾るのか
現代人はなぜ自分の身を飾るのでしょう。それは少しでも自分の印象を良くしたいという思いがあるからではないでしょうか。たとえばダイヤモンドなどのジュエリーを好む女性で「キラキラしたものをつけることで、私も輝いて見える気がするから」と言った人がいました。
また、見栄を張りたいという気持ちもあるでしょう。ベルトやバッグや時計など、全身を同じ高級ブランドで統一する人がいます。そうすると、そのブランドが大好きだという意思表示ができると同時に、これだけの財産を私は持っているのですよという主張もできるのです。
江戸時代のジュエリー感覚とは
しかし現代人のアクセサリー感覚と、江戸時代のアクセサリー感覚は大きく異なります。
『ジュエリーの世界史』(山口遼・著/新潮社・刊)では、江戸時代の女性たちは宝石を付ける習慣がなかったため、櫛やかんざしで自分を飾っていたと書かれているのです。
確かに江戸時代の浮世絵などを見ると、女性たちはネックレスやブレスレットやイヤリングを付けていないようです。その代わりに、かなり豪華なかんざしを頭に飾っていたり、飾り櫛を挿したりと、おしゃれ小物をつける場所は頭に集中していました。
なぜ髪飾りだったのか
本書によると、日本人がアクセサリーを付けなかった期間は、奈良時代以降、江戸時代末期までと長期に及びます。髪飾りがジュエリーの代わりとなるような流れは他の国では起きていない、珍しい現象だったそうです。ちなみに男性は刀などの武具に装飾を施していたのだとか。
そして、アクセサリーの代わりに、着物そのものがどんどん豪華になっていったそうです。確かに平安時代の十二単や江戸時代の金糸で刺繍された打掛や帯など、着ているものに圧倒的な豪華さがあります。着物にかなり存在感があったので、アクセサリーを付ける必要がなかったのかもしれません。
アクセサリーと男女関係
現代日本では、男女関係の儀式的な意味合いでジュエリーが用いられることがあります。たとえば交際1周年のお祝いにお揃いの指輪を付けたり、誕生日やクリスマスのプレゼントにネックレスを贈ったりなどです。特に、プロポーズの時に指輪を贈る人はかなり多いのではないでしょうか。
時代劇などでも男性が女性にべっこうの櫛などをプレゼントするシーンを見かけますので、髪飾りはジュエリーと同じ扱いだったのでしょう。実際、プロポーズの時には高価な櫛を贈る習慣もあったそうですから、婚約指輪のような役割を櫛が果たしていたのでしょう。
宝石と着物文化のハーモニー
本書によると、日本人が盛んに宝石を身に付けるようになったのは明治時代以降ということです。いつごろに付けられたのか、宝石の和名はとても趣があります。たとえばダイヤモンドは金剛石ですし、ルビーは紅玉と付けられました。宝石もしっかり和風に受け入れているところが素敵です。
西洋文化が入ってきてからは、宝石と和文化は絶妙なハーモニーを奏でながら進化していきました。今では大量のスワロフスキーが縫い付けられた振袖や、ターコイズなどの宝石を帯留めにするなど、様々なアレンジが楽しめるようになっています。
髪飾りにも愛を
しかし、現代はさまざまなアクセサリーがあるためか、ヘアアクセサリーに気合を入れる人は少数派です。宝石が付いているヘアピンもありますが、忙しい現代人は、あちこち移動する際に髪飾りを落として失くす可能性を恐れているのかもしれません。
最近、かんざしは海外でも注目されています。ヘアゴムを使わずにかんざし1本だけで髪をまとめることができて、便利でおしゃれだからです。長く愛されている日本ならではのヘアアクセサリーを改めて試してみると、新しい発見があるかもしれません。
【書籍紹介】
ジュエリーの世界史
著者:山口 遼
発行:新潮社
高価でお金持ちしか関係ないと思われがちな宝石。しかし、その意外な歴史はあまり知られていない。ティファニーやカルティエはどんな人物?ダイヤモンドの値段はどう決まる?古代日本人から装身具が消えてしまった謎など、身を飾りたいという欲望とかかわる装飾品の歴史的変遷から、業界人しか知りえない取引の詳細まで、宝石に関する面白い話、満載。