世の中には泣けるビジネス書といわれるものがあります。大抵の場合、それはリアルで具体的な著者の体験やインタビューに満ちていて、それが人の心を打つのです。『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司・著/あさ出版)を初めて読んだ時は、感動で胸が震えました。利益よりも大切にしている何かを持っている会社が次々と出てくるのです。生きるとは何か、働くとは何かを考えさせられる貴重な本で、シリーズで6冊目が出ています。
登場した会社は、業績も好調なようでした。それはその会社の温かさが人を心地よくさせ、また、こことお取引したいと多くの人が思ったからなのでしょう。実際私も本に出てきた柳月という北海道のお菓子メーカーの商品を良く取り寄せています。そこには美味しさだけでない、心に染みる何かがある気がするからです。
自己でなく社会のために
最近の世の中は、だんだんと自分や会社のためだけでなく、社会や地球のためにという大きな目標を持って活動するケースが増えてきたように感じています。環境問題が深刻になり、早急になんとかしなくてはならないという危機感もあるでしょうけれど、それよりなにより、誰かのためになるということが、人々の大きな生き甲斐になりつつあるのだと思います。
社会起業家になりたいという人も増えてきています。社会起業家とは、利益よりも世の中の問題を解決することを最重要視して事業を起こす人のことを言います。世界には環境問題のほかにも、貧困問題や高齢化問題など、さまざまな困難があります。それを事業化して解決を目指す人が増えてきたのは素晴らしいことです。
自分のためでなく誰かのために
事業を起こすのは少し敷居が高いし、いきなり社会問題に取り組むの方法もわからないけれど、個人レベルでなにかができたら、という人は『喜ばれる人になりなさい』(永松茂久・著/すばる舎・刊)を読んでみるのもいいでしょう。自分の身近な人を笑顔にすることに生涯かけて取り組んだ女性の実話だからというのもありますが、人生や仕事のテーマについて考えるきっかけになる本だからです。
この本に出てくるのは、著者である永松茂久さんの母親であるたつきさん。彼女は「人から喜ばれる人になる」をモットーに、ギフトショップの経営をしたり、お坊さんの資格を取ってカウンセリングを始めたりと精力的に活動されたかたです。そして、彼女のもとで育った長男である茂久さんは、大切な贈り物を彼女から得たことに気づくのです。
人が喜んでくれるツボを探す
彼が母親からの大切なメッセージに気づいたのは、彼女が亡くなってからでした。だからこそ、彼はこの物語を本にしたいと考えたのです。母親の生きざまも素晴らしいのですが、この本のキモの部分は、彼女の死によって著者がどのように変化していったかという後半の部分です。彼の気づきはそのまま読者の私たちの気づきにもなり、次々に胸に刺さるのです。
本の中にはいくつもの宝物のようなメッセージがありますが、なかでも心打たれたのは「商品は100パーセントお客様のためにある」でした。著者である茂久さんが悩んでいた時にかけられた言葉です。それをきっかけに、自分が書きたいものではなく読者が読みたいものへと軸を変換させることができた彼はベストセラー作家となり、大成功をおさめたのでした。
この本も売れているそうですが、それは時流に乗っているからというのもあるでしょう。自分よりも誰かのためになるように生きたいと高い目標を持ち始めた現代人は、背中を押してくれる言葉を探しています。そこに見事に「喜ばれる人になりなさい」が刺さったのだと思われます。表面的な好かれるコツではなく神髄を教えてくれるからこそ、大切にしたい一冊だと評価されているのでしょう。
【書籍紹介】
喜ばれる人になりなさい
著者:永松茂久
発行:すばる舎
人生で大切なことは、母から繰り返し言われた「この一言」だった──3坪のたこ焼き屋から、口コミだけで県外から毎年1万人を集める大繁盛店を作り、2020年のビジネス書年間ランキングでも日本一に輝いた著者が贈る、母から学んだ、人生で大切な「たった一つ」の教え。学びあり、青春あり、涙あり、感動ありの成長物語。母と子、父と子、愛情、友情、師弟、家族、仕事の真髄が凝縮された、長編ノンフィクション。今の時代だからこそ読みたい、読むだけで自己肯定感が上がり、誰かのために何かをしたくなる、優しくて懐かしくて温かい一冊です。