「未来では人間の仕事をロボットが代行するようになるため、仕事を奪われる人間が増えるだろう」という予測を時々目にする。その時には、一体どんな世界が待っているのだろう。未来の職業事情を描いた小説にはさまざまなことが予言されていた。
日本人の99%が働かない
『未来職安』(柞刈湯葉・著/双葉社・刊)は、仕事がほとんどなくなる近未来的世界を描いたSF小説だ。仕事が得られる日本人はわずか1%で、残りの99%は時間を持て余している。全ての人には必要最低限の生活ができる生活基本金が配られる。生活基本金は全員が同じ額だというのでベーシック・インカムに近いシステムなのだろう。
社会では仕事をしている1%の人間は生産者と言われ、残りの99%は消費者と呼ばれる。働かなくても生きていくことはできるが贅沢はできないので、多くの人が1%の生産者になりたがる。給料が加算され、生活にかなりゆとりができるからだ。
未来の職安とは
現代日本の職安(ハローワーク)では多くの求人が公開されていて、求職中の人はその中から自分に合っていそうな仕事を選び、紹介してもらう。職安は公共機関だ。けれど、未来職安は、民間人が来訪者に仕事を紹介し、紹介先から手数料を受け取るので、どちらかというと派遣業者に近い印象だ。
出てくる職安職員は、それを仕事としているだけに、プロである。キャリアコンサルタントというか、職のソムリエというのがぴったりくる感じだ。来客者の特性やニーズを素早く掴み、最適な職業を案内することもできる。募集中の職業を頭に叩き込んでいるからこそこなせる業務なのだ。
仕事がない苦しみ
現代社会には、お金持ちになって早く仕事をやめたいと考える人がいる。宝くじに当たったら退職するんだと夢を語る人もいる。つまり、現代社会では労働は苦行なので、お金さえあれば働きたくないと考えている人が多いということだ。
しかし、未来職安には「お金はもらわなくてもいいから、社会の役に立つことがしたい」というような人までやって来る。未来社会では労働は社会とつながるためのひとつの手段なのだろう。それほどに人々は「生き甲斐」に飢えているのだ。家でごろごろしているだけの生活では罪悪感を感じてしまうのかもしれない。
人は、なんのために生きているのかと自問自答することができる生き物である。日々を漫然と過ごすことに耐えられず、時間を大量に奪われる職業に就きたがるのは、お役目を感じて精一杯生きたいからなのかもしれない。
お金より大切なこと
現代日本も、この小説に少しずつ近づいているように感じる。「働き方改革」や「プレミアムフライデー」など、仕事時間を減らすよう働きかける社会になってきたからだ。昭和のころはたくさん残業をしてたくさん稼ぐことが奨励されていたが、令和の今は、できるだけ残業せず、余った時間で自分の好きなことをするという人が増えている。
そして、多くの人々が「意味のある仕事をしたい」と考えるようになった。上からの命令を右から左に片づけるのではなく、自分なりに業務の目的を考え、工夫したり提案するようにもなりつつある。労働時間が減ったので疲れも蓄積せず、頭脳が冴え、アイデアが次々生まれるようになったのだとしたら、素晴らしいことだ。
社会の価値観は大きく変わり始めている。今までは年収が高い仕事がスゴいと考えられていたが、今では給与の額ではなく、社会貢献できて満足できる仕事をしている人のほうが羨まれるようになりつつある。もし現代人が「未来職安」を訪れたとしたら、「世の中のためになる仕事」をしたいとリクエストする人が結構な数いるのではないだろうか。
【書籍紹介】
未来職安
著者:柞刈湯葉
刊行:双葉社
令和よりちょっと先の未来、国民は99%の働かない<消費者>と、働く1%のエリート<生産者>に分類されている。労働の必要はないけれど、仕事を斡旋する職安の需要は健在。いろんな事情を抱えた消費者が、今日も仕事を求めて職安にやってくる。ほっこり楽しい近未来型お仕事小説!
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