本・書籍
2022/4/14 6:15

もし、あなたが日常を放り出したくなったら、まずは大好きな詩や写真を眺めて欲しい——『天の指揮者』

天の指揮者』(服部剛・詩、関谷義樹・写真/ドン・ボスコ社・刊)は、二人の芸術家が集い、寄り添い、完成させた本です。一人は服部剛。詩集『我が家に天使がやってきたーダウン症をもつ周とともにー』で知られる詩人です。もう一人は関谷義樹。カトリックの司祭ですが、写真家としても活動しています。この二人が、それぞれの思いをそれぞれの方法で表現した結果、写真詩集というべき作品が出来上がりました。

もう一人の魅力的な参加者

二人の前にあるのは、雄大な自然です。それは山であったり、滝であったり、湖であったり、砂漠であったり、世界中を巡っています。それがたとえどこであっても、自然は私たちに様々な姿を見せてくれます。写真を眺めていると、なぜか心が安らいできて、たとえ今日がどんなにつらくても、明日には、希望を感じる日差しをこの身に受けられるのではないかという思いが湧いてきます。

 

写真と詩のコラボレーションには、もう一人、参加者がいます。女優の秋吉久美子です。詩を通じて服部剛と交流があった彼女は、快く『天の指揮者』のまえがきを書くことを承諾したのだそうです。そして、印象的な散文詩を寄せています。

 

生きることは荒むことなのかもしれない。
ときに熾烈な争いであり、予断を許さない運の勝敗に翻弄される。
だからこそ人は、神の平安を求めて天を仰ぐ

(『天の指揮者』より抜粋)

 

ぐいっと心をつかむような書き出しです。確かに、生きることは荒むことの連続かもしれません。けれども、私たちには慰めが与えられます。ある人にとっては、それは信仰でしょう。またあるときは、家族が支えとなります。さらには、私たちをとりまく自然がつらい心を慰め、癒やし、力を与えてくれるに違いありません。だからこそ、私たちはどうにかその日をやり過ごし、明日に向かって顔を上げることができるのです。

 

詩の力と写真の力

詩を読んでいると、心の柔らかいところをつかまれたような気持ちになります。ふいに思いがあふれ、自分をもてあますほど心が揺れて、どうしたらよいのかわからなくなったりもします。そんなとき、私は頭の中で架空のカメラを思い描き、シャッターを押してみます。すると、思いは具体的な画像となって心に焼き付けられ、記憶となって心に定着します。

 

素晴らしい写真を見たときは、心が震え、体が熱くなり、詩を書きたくてたまらなくなります。なぜそういう思いになるのか自分でもわかりませんが、目から入った感動を文字で残したくなるのです。人間の持つ本能なのかもしれません。

 

『天の指揮者』も、詩と写真が出会い、共鳴し、互いの思いを打ち明け合ったからこそ出来上がったのでしょう。コラボレーションとはこういうことを言うのではないでしょうか。どの詩もそれぞれに素晴らしく、写真も胸に迫ります。私が一番好きだと思った詩と写真が同じ作品だったことに自分でも驚いています。共鳴の度合いが大きいため、深く心に届いたのでしょう。

 

それは「雪山の聖夜」という作品で、次のようなものです。

 

日々の不器用な
自分を脱ぎたくて、変わりたくて
旅に出たのです

道の途上は雪原で
黄色い電気の硝子戸に、人影うつる
あの小屋の煙突から

しゅるしゅるる
しゅるしゅるる

十二月の
仄かな宵闇空に
ひとすじ 煙は昇りゆく

それは、火照りおどる吐息
今まで凍えた体の内に
<炎の芯は…めらめらと…>
通いくる
雪明かりの夜でした

(『天の指揮者』より抜粋)

 

この詩とコラボレートしている写真を、是非見ていただきたいと思います。本当に、雪山に「しゅるしゅるる」という風景が広がっているのに驚きます。そして、まえがきにあった「山は祈り、人は願う。山は教え、人は識る」の言葉を実感します。

 

心が疲れたとき

このところ、「あぁ、疲れた」と思うことが増えました。ひとつには寄る年波には勝てず、体力がなくなってきたからです。さらには、コロナ禍での毎日は不自由で、重ねて家族も病気がちです。もちろん、そんなことには関係なく締め切りはやってきます。

 

そのためでしょうか。いつもは大好きな読書が負担に感じるようになりました。心身共に疲れると、長い文章を読むのが負担になるのかもしれません。読みかけの小説が投げ出したままになっています。感動するのは疲れることでもあるからです。楽しみにしていたDVDを観ていて、途中で消してしまうときもあります。頭のメモリがいっぱいになったかのようで、理解できなくなり、居眠りをしてしまうのです。

 

そんなとき、『天の指揮者』を通して自然と出会ったら、心底、休まりました。もし、あなたが何かと疲れる日常を放り出したくなっていたら、「もう駄目、これ以上耐えられない」と、泣きたくなったら、まずは深呼吸をして、大好きな詩や写真を、眺めてみてください。それが一番の薬になるのではないでしょうか。じいっと見つめるのではなく、心をからっぽにして、ただ眺めるのです。するとどこからか不思議な力が湧いてくると私は信じています。

 

【書籍紹介】

天の指揮者

著者:詩・服部剛 写真・関谷義樹
発行:ドン・ボスコ社

服部剛氏の綴る心に響く46編の詩と、関谷義樹師の撮る雄大な自然を切り取った46枚の写真のコラボレーション。生命の尊さ、生きることのすばらしさを伝える感動の写真詩集は、この本を開く者に至福の時間をもたらすだろう。

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